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 一方その頃。

青神の当主のもとに向かった三人は、無事に面会をしていた。


「まさか、学生の君たちに頼まないとならないなんてね。

 ほんと、世も末だよねぇー」


 ほう、とため息をつく当主に、琥珀は戸惑い、黒曜と竜胆は表向き穏やかな笑みを絶やさずにいた。

 ーー内心はともかく。


「それで、私たちはこれから魔物退治に向かいます。

 つきましては、今までに相対したときのデータなどがあれば、提供していただきたいのですが」


 落ち着いた竜胆の言葉に、当主はのんびりと答える。


「別に君たちなら必要はないと思うけどねぇ。

 紫神の竜胆と、灰神の黒曜がいるんだし」

「それでも、万が一というものもあります。

 大勢の怪我人が出ている以上、性急に仕留める必要もありますから」


 変わらぬ笑顔で返事をする竜胆に、はふ、とまたため息をつく。


「やれやれ、それだけの力を持っているんだから、性急というならば、さっさと片付けてくれていいんだけどねぇ。

 しょうがないから、データはあげるよ。

 あとで、彼に貰っておいて」


 そう言って後ろにいる秘書らしき人物をさす。


「それよりも」


 魔物退治など大事なことではないという様子で、当主は竜胆を見る。


「風の姫、あやめはどうしたんだい?

 ここに来ているって聞いてるんだけどねぇ。

 わたしに挨拶もなしかい?」

「姫ならば、病院で怪我人の治療にあたっています。

 ご当主との面会よりも、怪我人を回復させる方が姫にとっては重要なことですので」


 すこし固い口調で、黒曜が当主に告げる。


「そうかい。

 それじゃ、しかたがないかなぁ。

 なら、魔物退治が終わったら、わたしのところに挨拶に来るようにいっておいてもらえるかい?」

「申し訳ござ忌ませんが、退治を終えたら、すぐに学校に戻らなければなりません。

 先程ご当主が仰られたように、僕たちはまだ学生ですから。

 学業をおろそかにするわけにはいきません」

「ふうん?」


 しばらく、黒曜と当主の視線がぶつかる。

先に目をそらしたのは、当主の方だった。


「まあいいや。

 それなら、こんどわたしがあやめに会いに行くだけだからね。

 よろしく伝えといておくれよ」

「ーーはい」


 竜胆の返事を聞いて満足したのが、当主は三人との面会を終える。



「ーーあれが青神の当主か……」


 疲れたような様子を見せる琥珀。

三人だけになったからか、不機嫌を隠そうともしていない黒曜を竜胆。

 三人とも、青神の当主には、かなりの不快感を覚えていた。


「行政にかんする能力は高いけどね。

 本人の性格、性質についていうならば、最低かな」

「魔族間の発言力を高める一番の方法は、魔族最強である姫を妻とすること、だからね」


 そのために手段を選ぼうとはしていない。

そう告げる二人に、琥珀はげんなりとしてしまった。


「姫は大丈夫なのか?」

「ーー彼が近くにくると、避けようがない公式の場以外はうまく逃げるからな。

 たぶん、大丈夫だろう……」

「今、僕たちがやることは、さっさと魔物を倒して学校に戻ることだよ。

 琥珀、期待しているからね」

「おまえがやるんじゃないのか?」


 黄神ではもっとも魔力が強くても、黒曜には敵わない。

琥珀は自分の実力を、はっきりと自覚していた。


「うん。

 たしかにできなくはないけど、今回は琥珀に譲るよ。

 一度、最大の力で魔具の力を放ってその能力を把握しておいた方がいいからね。

 僕や竜胆さんはすでに理解済みだし」

「ーーそうか、わかった」


 たしかに、強力な魔物が現れたとき、自分の限界を知らないのは危険だ。

 余裕があるうちに理解しておくべきだろう。

そう思い、琥珀はうなずいた。


「ではいくぞ。

 さっさと魔物を倒して、学校に戻らないとならないからな」

「? 魔物のデータはどうしたんですか?」


 もらうはずのデータをまだ受け取ってないと、琥珀は首をかしげる。


「たぶん、竜胆さんの端末にすでにインストール済みなんじゃないかな」

「当たりだ」


 そう言って竜胆は端末をかざす。


「そもそも、わざわざ手渡しをする必要もないだろう。

 紙で書かれているものの方が見やすいこともあるが、やはりこの手のデータはすぐに共有できるように、電子データを利用することの方が多いからな。

 ーー紙でデータを保存する場合は、機密データの場合が多い」


 魔物のデータは、誰でも見ることができた方がいいから、電子データになる。

その事に納得して、三人は早速データを確認した。


「ーー予想通りだな」


 巨大な軟体動物、タコの姿の魔物。

攻撃方法は、小型化した自身の分身を放つことと、波を生み出すこと、墨による砲撃。


「なるほど、タコだな」

「まあ、姫がいるから防御方は問題ないよ。

 あとは琥珀次第」

「わかっている。

 一撃で仕留めてやる」


 意気込みを新たにして、三人は六花とあやめに合流しに向かった。

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