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 水の区。

ここも中央区と変わらず、雨が降り注いでいた。


「ここは、もともと雨がおおいですから。

 街並みも水捌けが良くなるように、設計されているんですよ」


 あやめが街を見下ろしながら、六花に説明していた。

魔物が出る海に向かうのは、明日ということになっている。

そのため、宿の窓からしとしとと降り注ぐ雨を見つめていたのだ。


「ね、どんな魔物なのかな?」


 六花の当然の疑問に、あやめは端末を操作して、魔物の姿をうつす。


「ーーこんな魔物です」

「ーータコ?」

「はい。

 ただ、大きさは学校の訓練場ほどありますが」

「ーー」


 学校の訓練場くらい大きなタコ……。

想像して思わず気持ち悪くなってしまった六花だった。


「それって、どうやって、倒すの……?」

「私の魔具で動きを止めて、黒曜と琥珀さんの遠距離攻撃で仕留める、という形になります。

 お兄様は、生徒会長であるために、私たちの引率と六花さんの護衛という役割となっております」

「そーなんだー。

 会長も大変なんだねー」

「ーー本来はこの水の区にいる魔族たちで片付けられればいいのですが……。

 連日の雨の原因が、その魔物だとわかっても仕留めることができず、怪我人ばかりが増えたために、私のほうに回ってきたようです」

「あれ? ほかの六家の人たちじゃダメだったの?」

「水の魔物に水の魔力はあまり効きません。

 ほかの六家の者は、水の魔力の増大による結界の維持で、動くのにも負担になるんです。

 ですから、自由の効く学生でもある私たちに話がきたのですよ」


 六家の一番の役目は、結界の維持。

ついで、強力な魔物の排除。

本来なら、他家からの応援があることになるが、確実性と安全性から、あやめに依頼がきたのだ。


「そうなんだ。

 ーーなんか、あやめちゃんって大変なんだね」

「そうかもしれませんね。

 ですが、これは私が望んだことでもありますから。

 もし、ここで結界が破れたりすれば、風の区にも影響があるかもしれません。

 ーー自分の大切な家族と故郷を守るためです。

 できることはしますよ」


 すべての人々と世界を守るため、などとは言わない。

身近な、大切なものを守るために力を振るう。

あやめは最初からその事を決めていた。

それをみて、六花は考える。


「わたしは、なにを守りたいのだろう……」

「なんでも構わないですよ。

 家族でも、友人でも、自分でも、ーー恋人でも」

「ふぇ! ちょ、なにいって!」

「冗談です。

 まあ、今の私たちは学生ですから。

 卒業までにゆっくりと考えればよろしいですよ」

「あ、うん。

 そうだね。

 あ、ちなみにあやめちゃんは恋人いるの?」

「恋人はいません」

「そうなの」

「はい」


 なんとなく会話が途切れて、ふたりはまた窓の外をみる。

降り続く雨がやむ気配は、なかった。


  ーーーー


 翌日。


「あやめ、六花。

 私たちは青神のご当主に会いに行く。

 お前たちはどうする?」


 竜胆が黒曜と琥珀をさしていった。


「あやめにも会いたいとはいっていたが……」

「お断りです」

「そうなるだろうね」

「?」


 あやめの即答に首をかしげる六花と琥珀。


「青神のご当主なんだけど、現在二十代半ばで独身。

 会うたびに姫を口説いてくるんだよ」


 黒曜が笑みを浮かべながら説明をしたが……、目が笑ってなかった……。


「何度も断っているんですけれど……」

「まったく、諦める様子もないくらい、しつこすぎるな」


 はっきりと不機嫌そうな様子のあやめと竜胆。

不機嫌になった三人に、戸惑うしかない六花と琥珀だった。


「……そうですね。

 私たちは、怪我をされた方々のお見舞いにいって参ります」

「それは……」

「六花さんも知っておいた方がよいでしょう」

「なにを?」

「現実を、でしょうか……」


 今度は全員が押し黙ってしまったので、六花は首をかしげるばかりだった。



 三人と別れて、あやめと二人、怪我人が収容されている病院に向かう。

 病院に入ったとたんに、六花は息を飲む。

ーーそこには、大勢の怪我人が、いまだに治療を終えていない状態で横になっていたのだ。

そのなかには、体の一部を失ったもの、今にも命が尽きそうなものまで病室に入りきらずにいる。


「ーーなんで……?」

「それほどまでの魔物だと言うことです。

 荒れた海で、水属性の魔物相手に、同属性の魔族は分が悪いですから。

 それでも、人々を守るために戦う義務が、私たち魔族にはあるのです」


 真っ直ぐに怪我をした人たちを見つめながら、あやめは六花に告げる。

 いずれ、戦いを生業としていれば知ることになる。

今、知っておくことは、六花の糧となると思ったのだ。


「怪我を直す術はありません。

 複数の属性の魔力を合わせる必要がありますから。

 そのための魔道具もありますが、そちらもほかの魔道具とは違い、操作のために大量の魔力を必要とするのです。

 ですから、そのための魔道具は、本当に命の危機にあった人だけにしか使えません。

 それも全員助けれるほどの魔力があるとは限らないのです。

 ですが、私たちは……」


 言葉を区切って六花を見つめる。


「私たちならば、それだけの魔力を保有しています」

「つまり、ここにいる人たちを直せるってこと⁉」

「さすがにこのあとに魔物退治もありますから、全員を完全に治癒するのは無理でしょう。

 ですが、重症の方にある程度回復できるくらいまで使うくらいなら問題はないかと」

「うん! それじゃ早速やろう!」


 はりきった六花をつれて、あやめは病院の責任者に面会を申し込む。

 そして、魔道具の使用許可を得ると、六花と共に怪我をした人たちを回復させていく。


 ーー一時間ほどで治療は終え、六花は座り込んで大きく息をついた。


「お疲れさまです」

「うん、ってあやめちゃんは平気なの?」

「私は慣れていますから」


 長時間魔力を放ち続ける、その訓練も幼い頃からこなしていた。

彼女の魔具の特性から、その必要があったために。


「そっか……」


 ようやく落ち着いて自分の見たものを考える余裕ができ、六花は魔物と戦うことの意味を改めて考える。

 暖かい飲み物を口にしながら、考え続ける様子を、あやめは静かに見守っていた。

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