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19

 六月。

そろそろ暑くなってきた今日この頃。

六花は机にへばりついていた。


「うー、じめじめするー、かびるー」


 六月に入ってから数日。

連日のように雨が降っていて、思う存分魔具を振るう機会がないせいで、くさっているのだ。


「それにしても珍しいですよね。

 湿気が多い風の区とか、水の区とかならわかるんですけど」


 双葉にあやめが微笑んで答える。


「そうですね。

 風と水の区は、この時期雨季にあたりますから。

 連日の雨は当然のことですね。

 ーーただ、この中央区は天気が崩れにくいはずなのですが……」


 そう言って、窓の外を眺める。

雨が降っていたとしても、魔力の月がはっきりと見えていた。


「いつまでへたっているつもりだ?」

「うー」


 へばりついたまま動かない六花にあきれた様子の琥珀。


「琥珀はへーきなわけー」

「たしかに気は滅入るが、天候ばかりはどうしようもないだろう」

「そーかもしれないけどー」


 半ば幼児化している六花に、他の者は苦笑を浮かべるのだった。



「訓練所を借りられたぞ」


 竜胆が来たのはそんなときだった。


「訓練所?」

「ああ。

 屋内訓練所を借りれないか確認してきたんだ。

 先生方の許可はもらった。

 監視として、市原教諭がこられるが、自由に使っていいとのことだ」

「! 本当ですか!」

「やったー!」


 なんだかんだとくさっていた六花や、もともと雨が苦手な石榴などは、思いっきり動ける場所を使える、ということで、急に元気になっていた。


「六花と石榴はいくとして、他の者はどうす?」

「あの、あたしたちもいいんですか?」

「もちろん、かまわない」

「それなら……」


 結局、ほぼ全員で訓練所に向かうことになった。


「魔具に魔力を通す訓練は大事だけど、やっぱり時々は体を動かしたいし。

 そもそも、魔力を通すのは毎日やってることだし」


 るんるん、と浮き立ちながら六花が呟く。

魔具に魔力を無理なく通せるようにする訓練は、基礎中の基礎であり、このように普段無許可で利用できる屋外訓練場での訓練ができないときは、生徒たちは自室での訓練をしている。

 もしくは、サボって遊んでいるものもいるようだが。


 ふと、華衣がちらちらとこちらを見ていることに気が付いた。


「ーーお兄様、月島さんもご一緒に訓練してもよろしいでしょうか?」

「え、どうして?」


 六花が疑問に思うのも当然だろう。

5月の上旬には、こちらに干渉してきていたことで、いろいろと精神的に疲れてしまっていたのだから。


「どうやら、月島さんも体を動かしたいようですから。

 先生もご一緒ですし、おかしなことはしないでしょう。

 私は、ご一緒できませんし」

「ーー」

「えー、なんで」

「ちょっと調べたいことがあるんですよ。

 ご一緒できなくて、すみません」


 ぺこりと頭を下げるあやめ。

六花は残念そうな表情だった。


「それなら、僕も姫と一緒にいっていいかな?」

「はい。

 来てくださると、助かります」

「それじゃ、そういうことで」

「あーずるいー。

 また黒曜、姫を独り占めしてるー」


 ぶーぶーと文句をいう石榴をほっといて、黒曜はあやめを促す。


「すこし、お待ちください」


 そういって、あやめは華衣に話しかけた。


「よろしければ、一緒に訓練をいたしますか?」

「ーー訓練所、使っていいんですよね?

 それなら、やりたいです」

「だそうです。

 お兄様、お願いしますね」

「わかった」


 やれやれ、とあやめの願いを受け入れ、竜胆は全員をつれて、訓練所に移動する。

 そして、あやめと黒曜は。


「それでは、いきましょう」

「やっぱりこれは?」

「それを調べるのです」


 なにやら言い合いながら、教室を出ていった。


  ーーーー


「あやめちゃんたち、何してんのかな?」


 魔具である長剣を振り回しながら、六花が呟いた。

せっかく一緒に訓練できると思ったら、調べものと行ってしまったからだ。


「おそらくは、この長雨の原因を調べにいったのだろう」

「雨の原因?

 そんなのあるんですか?」


 竜胆の返事に不思議そうな様子の石榴。


「本来ならないな。

 だが、先程あやめが言っていたように、この中央区では天候の変化があまりない。

 気温ははっきりと変わるんだがな。

 ーーもし、そこに異常があるなら、調べて対処が必要になる。

 だから、探知を得意とするあの二人がいったのだ。

 あとは結果報告を待って、状況に対処しなければならない」


 もともと、これは生徒会の役目でもある。

だからこそ、生徒会のメンバーは能力を必要としているのだから。


「ちょっと!

 にげるんじゃない!」

「逃げないとあたるだろうが!」


 大声が聞こえて振り向くと、晶を魔具である弓の的にする華衣と、逃げまくる晶の二人が、追いかけっこをしていた。


「ーーまあ、こういう平和な状態が続くといいんだがな……」


 力が抜けるような光景に、ふと竜胆は呟くのだった。

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