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実習終了。
もろもろの後始末を終えて、ゆっくりできるようになったのは、大分遅くなってからだった。
いつものメンバーで集まって、ゆっくりとお茶を飲む。
「ふう」
ため息をついて、落ち込んでいる様子のあやめに、女子三人は心配そうな顔をしている。
「ーー姫、怪我人が出てしまったことは姫のせいじゃない。
あまり、気にしない方がいいよ」
「ーーわかってはいます。
それでも、もっと早く駆けつけられていればと思ってしまうのです」
黒曜の慰めに、答えるあやめ。
魔族として強い力を持つとはいえ、風を詠んでの探索ならともかく、視覚に入らない場所に直接干渉することはできない。
そのために、駆けつけるまでに怪我人だ出てしまったことを気にしていたのだ。
「あ、そういえば、どうしてあの人たちは森のそばにいったんですか」
「あー、それは気になるねー」
「ーー森に強力な魔物が現れたこと、近づかないようにと連絡があったこと、それを無視するようなことがあったのか?」
六花、晶、琥珀がそれぞれの疑問を口にする。
竜胆は疲れたように回答した。
「ーーここに出てくる魔物くらいなら、自分達で倒せると過信したらしい。
平原では簡単に倒せていたし、引率の四年は六家の人間ではないが、上位に入る能力の持ち主だったからな。
ーー中級の魔物くらいしか倒したことがないが、それで怪我ひとつしたことがなかったため、上級くらいなら大丈夫だろうと思ったようだ。
一年も、あっさりと魔物を倒せたことから、協力すれば上級でも倒せると思い込んだらしい」
「しょーもないなー」
あきれたような顔をする六家の六人。
ほかの女子三人も、どういう表情をしたらいいかわからなくなっているようだ。
「ーーなにそれ?
そんなので、怪我してるって、何考えてんの?」
思わず、といった感じの由美に瑠璃が苦笑を浮かべながら答える。
「ーーまだ、学生だから。
普段なら、こんなときにああいう魔物はそうそういない。
だから、学生が学生が引率できてるんだ。
だけど、経験は少ないから、こういう場合に判断を誤りかねない。
実践だと特に危険だから、今のうちに万が一の想定などはしておいた方がいいのもたしかだから……」
「実際に魔物がいなくても、強力な魔物がいるから、近づかないようにとは連絡をしておく。
それでも近づくものは、判定が低くなる。
これも授業の一貫である以上、当然のことだがな」
あとを引き継いだ琥珀の言葉に、首をかしげる六花。
「え?
そうすると、いなくてもいるっていうことになってるの?」
「その場合は、魔獣がその代理をするから。
今回の実習だと、姫が一緒だから千早が魔物役をやった可能性が高いかな」
「あーなるほど」
なっとくしてうなずく女子三人。
「というか、それってあたしたち聞いちゃっていいんですか?」
「いいんじゃないの?
だめならとっくに竜胆さんが止めてるし」
「君たちがどういう人間かは知っている。
信頼できるからこそ、こうして話しているんだ」
「あ、ありがとうございます……」
嬉しそうに笑った。
そんな様子をみながら、竜胆が解散を促した。
「みんな今日は疲れただろう。
明日には学校に戻るから、早めに休んでおくように」
「はい」
それぞれに自分の部屋に戻っていった。
こうして、最初の実習はおわった。
魔物を誘き出してしまった班は、このあと学校に戻ると、罰としての厳しい訓練を受けることになり、それをみたほかの生徒は、実習の意味の一部を知って、次からは指示をきっちりと守るようになったとか。




