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五月の最後の週。
六花たちは実習のために地の区へ来ていた。
そして現在、班のメンバーで、美味しいケーキの店を探して散策中……。
「えっと、こんなにのんびりしていていいんですか?」
「他の班の人たちは、実習地を見に行ってるんですよね?」
六花と由美の質問に、竜胆が笑って答える。
「必要ないからな。
そもそも、あそこは前もって見ておかなくても、地図で見れば十分に理解できる。
まあ、詳しくはお茶でも飲みながら話そう。
ーーああ、あそこだな。
緑神家当主のおすすめの店だ」
「ーーなんで、ご当主が、おすすめって……」
「姫がいるからじゃないの?
やっぱり、姫って人気者だし」
「いや、単にご当主がケーキ好きなだけだ。
現当主は女性だからな。
甘いものには目がないそうだ。
ちなみに、お礼にうち(風の区)特産の和菓子を贈っている」
「なるほど……」
女性だから甘いものが好き、とは限らないが、やっぱり美味しいものを食べたいのは当然のことで。
「それでは、お店に入りましょうか」
「「はい!!」」
あやめに元気に返事をする六花と由美だった。
全員が注文をして、落ち着いたところで竜胆が切り出した。
「さて、それでは今回の実習地について説明をしよう」
全員、竜胆に注目する。
竜胆は、端末を操作して、地の区の地図をだした。
全員に見やすいようにテーブルに置いて、説明を始める。
「実習地はここになる。
ここら辺一体が平原で、こちらは森になっている」
指で地図を示しながら説明する。
「それで、一年は基本的には草原で魔物と戦う。
よほどではない限り、森に入ることはないからわざわざ見に行く必要もない。
現在地は、それぞれが持っている端末で確認できるし、今回はあやめが監視しているからな」
「はい。
私の役目は、皆さんの引率というよりも、今回は全体の監視と補佐となっていますから」
「全体のって、どうやって?」
「全員の端末の位置情報を確認してんの?」
「いえ、風で全員の居場所と、魔物の状態を確認するだけです」
「ーーだけ、ですか……?」
「えっと、それって、ものすごく大変じゃないんでしょうか……?」
「慣れているので、問題はありません」
「ーーということだ。
魔族最強というのは、伊達じゃないってことだな」
「ーー」
全員が呆然としている間に、ケーキとお茶が届いた。
「このお話はここまでで。
いまは、ケーキとお茶を楽しみましょう?」
目の前におかれたケーキを見ながら、あやめが提案する。
「そ、そうですね」
「うん、美味しそうだし!」
そうしていまはお茶を楽しむのだった。
ーーーー
「姫。
本来の目的って……」
「そういうことです。
ですが、こちらに来るとは限りませんし、いざというときの心構えは、私たちがしていればいいことです。
ーーいざというときは、六花さんたちを守ることを考えていてください」
「ーーはい」
「わかってます」




