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「はっ……!」
夢を見て六花は飛び起きた。
「ーーまた、いつもの悪夢……。
だけど……。
ーーわたし、五月の実習で死んでしまうの……?」
いつもの悪夢。
だが、いつもの違ってその内容はハッキリと覚えていた。
最弱とも言われる魔物に、ちょっとした油断から殺される。
はっきりとその瞬間のことも思い出して身震いする。
どうしたら……。
「え、あれ、もうこんな時間⁉」
考え込んでいるうちに、いつもの起床時間からだいぶ過ぎていた。
「うっそー!
髪直してる時間ないー!」
あわてて着替えて食堂に向かった。
食堂では、あやめを含めた六家と友人二人がいつもの席に着いていた。
いい加減にあやめの存在に慣れてきていた生徒たちも、ちらちらと視線を送るだけに留めている。
「ごめん!
遅くなっちゃった!」
謝りながらあやめの隣に座ると、その六花の後ろに双葉と由美が立った。
「だめでしょ。
女の子なんだから、どんなときでも身だしなみはちゃんとしないと」
そういって、水を使って六花の髪を直していく。
その間に、晶が六花の分の朝食を持ってきてくれていた。
「六花ちゃん、はい。
ーー朝食持ってきてあげたんだし、今日は一緒に遊びにいこ……」
スパーン!
いつものごとく、あやめのハリセンが晶の頭に落ちた。
「こうなることがわかっているのに、どうしてナンパしようとするんだろう?」
黒曜の疑問に、
「そんなの、六花ちゃんが可愛いからに決まってる!」
と答えて、その場にいる全員に冷たい視線をもらっていた……。
ーーーー
どういうことなの?
たしかに攻略者たちとは仲はいいみたいだけど、それよりも風の姫やほかの女子とのほうが一緒にいること多いし。
なにより、あの三人ってゲームには出てきてなかったよね。
つまりはモブってこと。
実際にヒロインの攻略キャラとの出会いはストーリー通りだったけど、そのあとのイベントはぜんっぜん行っていないし。
せっかくゲーム世界に転生したのなら、ヒロインと攻略キャラとの絡みを見たいのに……。
やっぱり、目指すは乙女ゲームの醍醐味、逆ハーレムよね。
ーーあのモブ三人が邪魔みたいだし、こうなったらあたしが動いて、ヒロインと攻略キャラをくっつけないとね!
まずは、ヒロインとお近づきにならなくっちゃ。
ーーーー
「おはようございます、白石さん」
「? えっと、どちらさま?」
「クラスメイトの月島華衣さんですよ。
おはようございます」
「おはよう。
だけど、なんで六花にだけ声をかけるわけ?
まずはあやめ様、もしくは六家の方々が先でしょう?」
「そうね。
わたしたちは構わないけれど、礼儀としてまずは六家の方々に挨拶をするものですよね」
不機嫌そうな二人に困った顔をする六花。
あやめと黒曜はじっと華衣を見ていて、ほかの五人も彼女の無作法な態度に憮然としている。
「ーー六花さん。
朝食はもう終わりでしょう?
それなら、もういきましょうか」
こちらに注目するまわりの空気にたえかねて、あやめが切り出す。
「あの、あたしは白石さんに話が……」
「それならば、相応の礼儀を持ってから来てくださいませんか?」
にっこり。
そう言って華衣をかわすと、全員その場を離れた。
追いかけようとした華衣を黒曜が遮る。
「ーー悪いけど、姫や白石さんに近づかないでくれるかな?
君がいると、彼女たちに悪影響が出るようだから」
「な⁉」
呆然としている間に黒曜もその場を去る。
あとに残されたのは、立ちすくむ華衣と、それをあきれた目でみる生徒たちだった……。




