2-1 正体
公安第零課、その課長室の前に俺たちはいる。神宮寺がノックをすると、中から声がした。そして神宮寺は扉を開けて、俺もその後ろに続いて中に入る。
すると部屋の奥の机に男性が座っていた。神宮寺はそのままその人物の前まで行く。
「煉条悠一君と黒崎彩華さんを連れて来ましました」
「うむ、ご苦労」
初老の男性だった。白髪混じりの髪。顔にはいくつか皺が見える。だがむしろそれが渋くてカッコよく見えるのだから不思議だ。とにかく貫禄がある。
そしてもう一人。視線を部屋の真ん中に移すと、ソファーに座っている人物を俺は見つける。その人物と目が合った。すると彼女はにやりと笑った。
「やあ悠一、久しぶり。それに彩華、君とは初めましてだね」
そこに俺がずっと探していた少女がいた。忘れたことはない。彼女が俺に暗示を掛けたのだ。だが、妙だ。何かがおかしい。その違和感はすぐに分かった。
「……どうして?」
「ふふ、驚いたかい? どうして歳を取っていないのか、って顔をしてるね。まあ、ここで最初に会った人はみんな僕の姿を見て驚くんだけどね」
少女はまた、にやりと笑う。その笑顔は彼女の幼い容貌とは不釣り合いのように思えた。
「僕が久瀬歩だよ。よろしくね」
彼女が久瀬さんか。その名前は以前に何度か希たちの口から聞いたことがある。まさかそれが彼女の名前だとは思わなかったが。それにしても、やけにフランクだな。
「……どうして歳を取らないんですか?」
「それには色々と事情があるんだけど……そうだね、要するにとある魔法の副作用というところかな。僕の体は十三歳のままで止まっている。魔装部隊に入ったのもちょうどその時だね。あ、今の本当の歳は秘密だよ。まだピチピチの二十代とだけ言っておこう」
久瀬さんは冗談めかして言うと小悪魔のような微笑を浮かべた。どうも掴みどころのない性格をしている。見た目も含めて一筋縄ではいなかい相手のようだ。
「彼女のことも気になるだろうがそれは後にしようか……そういえば私の自己紹介がまだだったな。私は公安第零課の課長、柊新十郎だ。よろしく、煉条君、黒崎君」
柊さんは久瀬さんとは反対に、にこりともせず厳粛な態度でそう言った。こうして対面していると分かる。この人も底が見えない。さすがは魔装部隊のトップといったところだろう。
「今回の件では君たちには迷惑をかけたね。申し訳ないことをした。特に煉条君、君には勝手に護衛を付けたり、暗示を掛けたりさせてもらった。怒っているだろう?」
「いえ、それは俺のことを考えてしてくれたことだと思っていますので気にしていません」
「私も別に気にしてませんね。私の場合はむしろ自分から関わったんですから自業自得だと思っています」
「そう言ってもらえると助かるよ」
柊さんは苦笑を浮かべると、俺を真剣な顔で見た。
「さて、煉条君、もう一ついいかな。君がある魔導書の器候補だということはすでに聞いているね?」
「はい」
「だが、君はすでに適応者だった。そのことについてだけど、君は今まで自分が契約していたことを全く知らなかったんだね?」
「はい。昨日ようやく思い出しました」
「君のご両親については私も少し面識がある。彼らは聡明な人だ。きっと君がアルス・ノトリアの器になる可能性があることを知っていたのだろう」
柊さんも俺の両親と知り合いだったのか。二人がこんなに有名だとは思わなかった。
「君の妹である煉条希くんが適応者であるのも、君の両親が原因だということを聞いているかな?」
「はい、希から聞きました」
俺は昨日、クロウリーを倒した後に希と交わした会話を思い出す。




