2-1 同盟
その日の帰り道、彩華と一緒にマンションへと向かって歩いていた。
彩華が転校してきてからすでに半年が経過した。今ではこうして並んで登下校をするのが当然のようになっていた。
「まったく、倉庫の整理に自分から立候補するなんて、お人好しなんだから」
「うるさいな。先生だって困ってただろ。他に誰もやりたがらないんだし仕方ないだろ」
放課後のホームルーム。担任の先生から、体育館裏にある倉庫の整理をしたいのでクラスから誰か一人手伝って欲しい、と頼みがあった。倉庫が古くなってきたので近々改装するらしい。それで男手が必要ということなので俺が手伝ったのである。
「あなたのせいで終わるまで待たされた私のことも考えてほしいものね」
「それなら先に帰れば良かったのに」
思えば彩華も不思議な奴だ。学校から彩華の自宅までは徒歩で行ける。だが、最短距離で行くと俺のマンションは遠回りになる。それなのに彩華はいつも俺のマンションに寄ってから登下校をしていた。
「毎回わざわざ俺に付き合うことないだろ」
すると彩華は、ふんっ、と不満げに鼻を鳴らして俺を睨む。
「忘れたの? 私とあなたは同盟関係を結んでいるのよ?」
「それは知ってる。だけど四六時中、一緒にいる必要はないと思うぞ?」
「それは私が鬱陶しいと言っているのかしら?」
「はぐらかすなよ。誰もそんなこと言ってない」
すると彩華は僅かに躊躇った後、口を開いた。
「あなた一人じゃ、いざという時に危険だもの」
「……それは俺の妹のことを言っているのか?」
「あんなことをしてくる相手なんだから、何をしてくるかわかったものじゃないわ」
歩きながら彩華は真剣な表情で俺の顔を見つめてきた。俺も同じように、隣にいる彩華の目を見る。そしてその真っ直ぐな瞳に俺は問いかける。
「……心配してくれてるのか?」
「馬鹿ね、当然でしょ」
意外な言葉だったので驚いた。不覚にもドキリとしてしまった。
「あなたは私にとって唯一の手掛かりなの。だからあなたまで失ったら困るのよ」
「……まあ、そうだよな」
出来ればもっと別の、ロマンチックな理由が良かったが、あの彩華が俺を心配していると素直に口にしただけでも珍しい。今はその言葉で満足しておく。
「とりあえず気を付けるようにはする。お前も気を付けろよ」
「ええ、分かっているわ」
彩華の足が止まる。俺も続いて立ち止まった。いつの間にかマンションの前まで来ていた。
「じゃあ、また明日迎えに行くわ」
「ああ、またな」




