2-1 食堂
それからまた数日が経過した。
昼休み、俺は食堂に一人で飲み物を買いに行く。校内に自販機があるのはそこだけだからだ。食堂はピークの時間が過ぎていたので人は疎らだった。すでに昼飯を食べ終えた生徒が殆どで、同じテーブルに固まり友達と話している。
そのまま何気なく食堂全体を見渡す。すると端っこの方のテーブルに神宮寺がいるのを見つけた。一人でぽつんと座ってうどんを啜っている。
俺は自販機で二人分のカフェオレを買うと、神宮寺のところへと向かう。
「よう、神宮寺」
「ああ、煉条さんですか。何か用ですか?」
神宮寺は相変わらず感情に乏しい表情で俺を見つめた。
あれだけのことがあったのに、神宮寺は俺への態度を何一つ変える様子がなかった。それが今の俺にはありがたい。
「これ、やるよ」
俺は手に持ったカフェオレの紙パックをテーブルの上に置く。
「……これは?」
「いつかの英語のノートのお礼だ」
「……うどんにカフェオレですか?」
「俺がちょうどカフェオレを飲みたい気分だったんだ。食後に取っとけ」
呆れるように溜め息を付かれたが、神宮寺はそのままカフェオレを手元へと引き寄せた。どうやら受け取ってくれるらしい。
「……律義な人ですね。そんな前のことを覚えているなんて」
「俺は一度した約束はどんなことでも守る主義だからな」
「それは結構ですね」
そう言うと神宮寺は両手でどんぶりを持ち、うどんの汁を飲み干す。器の中は空になった。
俺は神宮寺の対面に座り、カフェオレを飲みながら神宮寺に尋ねる。
「なあ、魔装部隊の仕事ってこの前みたいに犯罪者とドンパチするのが俺のイメージなんだけど、実は毎日何か仕事をやっていたりするのか?」
「はい、基本的には」
「どんなことをしてるんだ?」
「適応者の犯罪者や、魔装団のような犯罪組織の捜査。魔導書の捜索。他にはあなたの護衛もそうですね。対象が一般には公に出来ない事案だというだけで、やっていることは警察とあまり変わらないかもしれません」
淡々と神宮寺は語るが、言っている内容は結構ハードだった。
「学校に通いながら仕事もするのは大変じゃないか?」
「いえ、そうでもありませんよ」
神宮寺はあっさりと言った。それが本当なのかどうか俺には分からない。ただ、もし一人では大変な仕事なら、俺も出来る限り協力したいと思った。護衛されている俺はむしろ神宮寺たちの仕事を増やしている張本人なのかもしれないが。せめて護衛される理由くらいは教えてほしい。
「……そういえば、神代さんとはどうですか?」
「え? どうって?」
「何か進展があったと思ったのですが、違いましたか? 襲ったりしていませんか?」
飲んでいたカフェオレを思わず噴き出しそうになるが、何とか堪える。神宮寺の奴、真顔で何を言っているんだ。
「べ、別に襲ってねえよ」
「では合意の上で?」
「合意でもねえ! 俺と琴音の間には何もないからな!」
未遂になりそうなことはあったが、それを神宮寺に言うつもりはない。
「では黒崎さんとは?」
「彩華とも何もねえよ。お前は俺のことを何だと思ってるんだ?」
「女たらし」
「ストレートだな、おい」
気を抜いたらこれだから油断出来ない。
そんな俺の気も知らないで神宮寺は続ける。
「まあしかし、まだ何もしていないのなら安心しました」
「あ、安心?」
「私の入り込む余地がまだありそうですから」
「え?」
「冗談です」
神宮寺はしれっと答える。その表情に変化はない。
「……心臓に悪い冗談はやめてくれ」
「さて、戻りましょうか。昼休みが終わってしまいます」
俺の呟きをスルーして神宮寺は立ち上がる。自由過ぎるだろ。
神宮寺に振り回されっ放しのまま昼休みが終わってしまった。
ちなみにカフェオレは次の休み時間に教室で飲んでくれていた。




