1-1 変化
side-A
俺が魔造機人を目撃してから一週間が経過した。あれ以来、魔造機人や適応者と遭遇することもなく、平和に生活を続けている。だが手掛かりが見つからないという意味ではあまり喜ばしい状況ではない。今はそんな何とも落ち着かない状態だった。
「彩華ちゃん、まだ来てないね」
学校に到着すると琴音が周囲を見渡しながら呟く。
彩華はここ数日、朝は一人で登校していた。しかも予鈴が鳴るギリギリに教室に入ってくることが多い。さらに昼休みも鞄を持ってすぐにどこかへ行ってしまう。その理由を聞いても彩華は何も教えてくれなかった。休み時間は普通に話しているので距離を置かれているわけではなさそうだ。気になる。
「あいつ、一体何してるんだろうな」
「悠一君、詮索しちゃ駄目だよ。女の子は誰でも秘密の一つや二つあるんだから」
「まあ秘密は男でもあるけどな」
琴音とはあれから上手くやれていると思う。以前の気まずい雰囲気はもうない。
ただ、琴音と接している時の俺の意識に、少しばかり変化があったことも事実だ。
「あ、そういえば悠一君、枕カバー、ちゃんと洗濯機に入れておいてくれた?」
「あれ、そんなこと言ってたっけ?」
「うん、今朝悠一君が起きた時にちゃんと言ったよ……もしかして聞いてなかったの?」
「悪い、寝ぼけてたみたいで全然記憶がない」
「もう、悠一君、しっかりしないと駄目だよ?」
琴音はジト目で俺を見る。
「すまん、返す言葉もない」
「じゃあ帰ったらすぐに入れておいてね。それとも私が直接替えに行こうか?」
「い、いや、自分でやる」
「本当に?」
「ああ、それくらい自分でやれるから大丈夫だ」
それに琴音が俺の部屋に入ると思うと何となく気恥しい。
「ついでに洗濯物も悠一君が干しておいてくれると助かるんだけど……」
「え?」
「だけどそれはさすがに悠一君も嫌だよね?」
「い、嫌というか何と言うか……まあ、面倒だし琴音に任せるよ……」
琴音はもし俺が了解していたらどうしていたのだろう。自分の下着を俺に見られて大丈夫なのだろうか。それとも単にそのことを忘れているだけなのか。
あの日、俺の部屋で琴音と交わした会話を、俺は鮮明に覚えている。温かな温もり。柔らかい感触。切なげな声。琴音と一緒にいると、不意にあの時のことを思い出して意識してしまう時がある。
琴音は俺のことが好きなのだろうか。
あの後、琴音はいつもと変わらない態度で俺と接していた。あの時のことを話題に出すことはそれから一度もない。そして俺も、意識していることを表情には出さないようにしている。
しかしこれで良いのだろうか。
解決策のないまま時間だけが過ぎていった。
「了解。任されました」
「悪いな、代わりに今日の風呂の掃除は俺がやっとくよ」
「本当っ? ありがとう、悠一君」
「いつもの琴音の仕事量に比べたらこれくらいたいしたことじゃないしな。むしろ他に何か俺に出来ることないか?」
「うーん、今は特にしてほしいこともないんだよね……あ、一緒に夕飯の買い物に付き合ってくれる、とか?」
「それはいつもやってることだろ。せめて俺一人で買い物に行くとかなら少しは働いている気にもなるんだが……」
「でもどうせ帰り道だしね……他に思いついたらまたお願いするから、今はちょっと我慢してもらえないかな? ……それじゃあ駄目、かな?」
「いや、駄目じゃないけどもっと甘えてくれても良いというか……家事は全般的に琴音の方が上手いし俺の出る幕がないんだよなぁ」
「ふふ、悠一君のその気持ちだけで私は嬉しいよ」
琴音は今、俺のことをどう思っているのだろうか。心なしか以前よりも俺をドキリとさせる台詞を言う回数が増えたような気もする。ただそれは俺が自意識過剰なだけなのかもしれない。結局何も結論は出ないのだった。
「あら、二人ともおはよう」
「あ、彩華ちゃん、おはよう」
やはり今日も予鈴が鳴るギリギリに彩華は教室に入ってきた。
俺の周囲で、小さな、けれど確実に変化が起き始めている。




