表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉のアルス・ノトリア ~天使の守護者~  作者: 七坂綾人
第四章 少女たちの謀略
32/57

4-1 秘密

side-B


「世界平和、ですか?」


 綾乃は怪訝な表情で俺を見つめる。

 まあ、それが普通の反応だろうな。


「ああ、将来は総理大臣だな」


「ふふ、それは大きな夢ですわね」


 俺は適当に誤魔化した。一応世界平和のためにここにいるというのも嘘ではない。だが魔装部隊の話なんてしても信じないだろうしな。そもそも部外者にその辺のことを軽々しく話すことは禁止されている。

 しかし意外にも綾乃は笑ったり怒ったりせずに食いついてきた。


「あなたなら出来るかもしれませんわね、世界平和」


「ん? それは本気で言ってるのか? 自分で言うのもあれだが、結構馬鹿なことを言っていると思うぞ?」


「あなたはわたくしが認めた数少ない人物ですわ。ですからその可能性を頭から否定するつもりはありませんわ」


「俺のどこにお前が認めるような要素があった?」


「ふふ、それは秘密ですわ」


 綾乃は小悪魔めいた微笑を浮かべる。それがどこか浮世離れしている綾乃によく似合っていた。


「お前こそ、将来は何になりたいんだ? せっかく頭が良いんだから医者や弁護士にでもなったらどうだ? それとも世界に復讐するって言うからにはテロリストにでもなるつもりか?」


「それも面白いですわね」


 綾乃はくすくすと笑うと、途端に真剣な顔になる。


「そうですわね……多分わたくしは研究者になりたいのです」


「研究者? それはまた普通だな」


「ええ、ですがそれがわたくしの夢ですから」


「ほう、何の研究がしたいんだ?」


「言っても分からないと思いますわよ? ……まあ、あえて分類すれば……そうですわね、応用生物学ですかね」


「言われてもあんまりイメージが付かないな」


 すると綾乃は「でしょうね」と苦笑した。


「わたくしは両親の出来なかったことを代わりに成し遂げる。それがわたくしの復讐の第一歩であり、最大の目標でもあるのです」


「ってことはお前の両親も研究者なんだよな? 有名な人なのか?」


「さあ、どうでしょう? その方面の人たちにはそれなりに知られているのではないでしょうか」


「へえ、じゃあやっぱり凄い研究者だったんだな。今はどこで働いているんだ?」


 そこで綾乃は表情を曇らせた。


「いえ、もう働いていませんわ。すでに二人とも死んでしまいましたから」


「……死んだ?」


「ええ、事故死したのです。運転中にハンドル操作を誤り、ガードレールを突き破って海に転落したらしいですわ。遺体も上がっていません」


「それはまた……」


 そんな事情が綾乃にあったのか。俺はどう返事をするべきか悩み、結局沈黙することにした。下手な同情は綾乃も必要ないだろう。


 それにしても綾乃の両親が一体どんな研究をしていたのか興味があるな。綾乃の復讐の意味について何か分かるかもしれない。それに事故のことも気になる。後で少し調べてみるか。有名な人物ならどこかに名前が載っているだろう。


「……少し話し過ぎましたわね。あなたが相手だと、つい気を許して口が軽くなってしまいますわ」


「それは光栄だ」


 綾乃は苦笑を浮かべる。その表情が少し悲しげに見えたのはなぜだろうか。

 俺はまだ綾乃のことを何も知らないのだと思い知らされた。


 綾乃はちらりと壁にかかった時計を見上げる。


「さて、そろそろ授業が終わるのではないですか?」


「ああ、そうだな。それじゃあ俺は戻るとするか」


 俺はその場で綾乃と別れると、第二理科室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ