1-2 学園
そうしているうちに、学校へと到着した。
私立聖法高校。地元ではそれなりに名の通った進学校だ。
校舎へと入り、玄関を抜け、階段を上がる。そして二年一組の教室へ入る。
「おはよう、煉条くん、黒崎さん」
「おっす」
「よう、悠一」
「おう」
周囲の生徒と挨拶を交わしながら自分の席へ向かう。窓際の後ろから二番目。そこが俺の席だ。到着すると鞄を下ろした。
「よう、神宮寺」
そこで隣の席にいた神宮寺に声をかけた。
読書をしていた神宮寺は、文庫本から顔を上げて、凛とした瞳を俺に向けた。
「おはようございます、煉条君」
「神宮寺、今日の英語の予習はやったか?」
「ええ、当然です」
まるで他人に興味のないというような、冷たく淡々とした反応。その感情に乏しい表情は、整った容姿と腰まで伸びた長い髪と相まって、良くも悪くも西洋人形のようだった。
「さすが神宮寺だ」
「何ですか? 予習をするのは当然だと思いますが?」
「ああ、俺もそう思う」
「しかし、今の反応だとまだなのでしょう? 真面目なあなたのことですから、当然やってあるものと思ったのですが……」
「やるにはやったんだ。だけど実は一つ分からないところがあってな。少し教えてほしいんだ」
神宮寺は頭が良い。学校での成績も学年で上位三番以内には入っているんじゃないだろうか。
「それは構いませんけど……」
神宮寺はその容姿と同じく整然とした口調で続ける。
「あなたには仲睦まじい恋人がいるのですから、彼女に聞けば良いのでは?」
「彼女?」
「黒崎さんのことです」
「彩華はなぁ……てか、恋人じゃねえ!」
仲睦まじいというのも間違いだ。どこをどう見ればそう見えるのか。
「彼女なら今回の範囲くらい分かるのではないですか?」
実は腹の立つことに彩華も頭が良い。成績上位三人の中の一人におそらく彩華も入る。
しかし、彩華に頼むのだけはごめんだ。きっと水を得た魚のように、嬉々としておちょくってくるに違いない。
「断る。あいつに頭を下げるのはプライドが許さないんだ」
「だからといって私に頼むのもどうかと思いますが……」
神宮寺は呆れるように呟きながらも、結局ノートを鞄から取り出してくれた。それを俺は受け取る。
「ここに訳が書いてあります。あなたの頭ならそれで構造も理解出来るでしょう。それでも分からなければ聞いてください」
「サンキュー、神宮寺! お礼に今度なにか奢るな」
「いえ、別にお礼が欲しくて貸したわけではありませんから」
「いや、それじゃあ俺の気が済まない」
すると神宮寺は僅かに表情を綻ばせる。
「あなたも大概真面目ですね……黒崎さんが嫉妬しますよ?」
「だから彩華は恋人じゃねえって!」
「ええ、知ってます。冗談ですので気にしないでください」
「……お前も意外と変人だな」
そんな会話をしていると、チャイムがなって先生が教室に入ってきた。
そこで話すのを止めて、俺は机に向かうと、神宮寺から借りたノートを開いた。




