1-1 変革
side-A
「詳しく、と言いますと具体的にどんなことを聞きたいのですか?」
神宮寺の言葉に彩華が答える。
「そうね、魔装団の目的についてもう少し聞かせてほしいわ。犯罪組織といっても何か行動理念があるはずでしょ? 自己顕示やただの暇潰しが目的の集団なら、存在が全く表に出ないのは妙だもの」
「まあ、それをいえば魔装部隊の存在も表には出していないはずなのですけどね」
神宮寺は彩華に皮肉を言ってから続ける。
「魔装団の当面の目的は各地に散らばっている魔導書とその器、つまり適応者候補を集めることです。魔導書は誰かが一冊所持するだけでも大変危険であるということは、適応者であるあなたなら充分理解していますよね?」
「ええ、適応者が一人いるだけでこの世界のバランスは大きく崩れるでしょうね」
「はい、ですから魔装団が魔導書を集めているのもその一環です」
そこで俺は気になったことを口にした。
「でも、それじゃあこの魔造機人たちはどうしてこんな場所にいたんだ? 試運転でもしてたのか、それともここに魔導書があるってことなのか?」
「それは……原因は不明です。ここで断定してしまうのは危険でしょう」
「……何か隠してない?」
「いえ、そんなことはありません」
彩華が疑うような目で神宮寺を見るが、神宮寺は涼しい表情で答える。どちらも手札を隠し持って腹の探り合いをしているような会話だった。
不穏な空気になったところで、俺は琴音に尋ねる。今までの会話から琴音に確かめたかったことがあった。
「なあ、琴音が俺のマンションに来たのも魔装部隊の仕事に関係あるのか?」
「……うん、そうだよ」
琴音は頷いた。
「一体何のためだ? 俺は政府に目を付けられるようなことは何もしていないはずだし適応者でもないんだぞ?」
「それは……悠一を守るため、かな」
「俺を? どういうことだ?」
すると琴音は困ったような表情を浮かべた後、顔を伏せてしまった。
「すみません、それは秘密事項に当たるので言えません」
代わりに神宮寺が言った。
「そこをなんとか出来ないのか?」
「民間人に秘密事項を話せば公務員の守秘義務に違反します。私たちも国の組織で動いていますので上からの指示は絶対です」
「そんなっ」
「冷たいようですがそれが決まりですから」
神宮寺は事務的な口調で言った。
俺は琴音を見る。琴音は悲痛な表情を浮かべていた。
「ごめんね、悠一君……本当にごめん」
「琴音?」
「だけど私はこれからも悠一君を守るよ。だからお願い。私を嫌いにならないで」
「……俺を守るのはそれが任務だからか?」
「うん……だけど、今はそれだけじゃない。悠一君は私にとって大切な人だから。任務がなくても私は悠一君を守りたい」
「でもその理由は教えてくれないんだよな」
「うん、我儘を言ってごめん」
琴音は俯いたまま震えていた。まるで拒絶されることを恐れるように。
「……そっか、やっぱり琴音は優しいな」
「え?」
「俺を守るためにずっと側にいてくれてたんだろ? 嬉しいよ。ありがとな」
「……許してくれるの?」
「許すもなにも、琴音は勘違いしてるぞ。俺がお前を嫌いになんてなるわけがない。俺は琴音に出会えたことに感謝してるって言ったろ? しかも俺のために体を張ってくれているなんて知ったら余計に好きになるに決まってるだろ。それにだ、琴音の任務には家事まで含まれてるのか?」
「そ、それは私が勝手に……」
「ならそれで充分琴音の気持ちは伝わったよ。琴音の作る料理は最高だ。技術だけじゃない。義務感で作っているだけならあんな美味い飯は作れない。だから俺は琴音の言葉を信じる。また俺に美味い飯を作ってくれ」
「悠一君……」
琴音と見つめ合う。
俺は決めたのだ。どんな理由があっても琴音を信じると。その意志を込めて琴音を見つめる。琴音も俺を見つめ返してくれた。
「こほん」
だが、そこで俺は我に変える。今の咳は神宮寺か。
見ると神宮寺と彩華がジト目で俺たちを睨んでいた。
「まったく、隙あらばすぐにイチャイチャするんだから」
彩華の言葉に何か反論しようと思ったが、確かに少し今の状況を忘れていたのは事実なので素直に反省する。琴音もバツが悪そうに俯いていた。
「……それじゃあ話を戻すけれど、魔装団は魔導書を集めて具体的にどうしようっていうの? あんなロボットを作るくらいなのだから、ただ魔導書を集めて満足するだけじゃないのでしょう?」
「はい、ですから『当面の』と付けさせて頂きました。先程は話が逸れたので言いそびれてしまいましたが、彼らには最終的な目的があります」
そして神宮寺は無表情のまま続けて言った。
「魔装団の最終的な目的は、世界の変革です」




