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終焉のアルス・ノトリア ~天使の守護者~  作者: 七坂綾人
第三章 一時の邂逅、すれ違う二人
28/57

8-1 報告

side-B


「こんにちは、先輩」


「ああ、希か、お前も呼ばれていたのか?」


「はい、一緒に行きましょう」


 本部の玄関先で出会った俺たちは、建物の中へ進むと狭い廊下を二人で歩いて行く。魔装部隊の存在は表向きには隠匿されているため、その本部も公にはされていない。都心から少し離れた場所にある地上十階、地下二階建てのオフィスビル。そのビル全体を胡散臭そうな名前の機械系メーカー会社が所有していることになっているが、その実体は魔装部隊の本部である。


 魔造部隊の職員は国家公務員扱いだが、表立ってその身分を言うことも出来ない。俺たち学生は社会見学やインターンシップでここにいるという扱いになっている。他の職員も肩書きは別の部署に努めていることになっており、政治家や官僚、その他、政府の関係者以外で魔装部隊の存在を知っているものは殆どいない。一般人に魔法の話などしても信じてもらえないのだから、公にすればこんな得体のしれない組織に財源を回すのは税金の無駄だと叩かれるのがオチだ。


 これまでも情報統制をし、魔法での暗示も駆使することで存在を隠蔽出来ている。ただしネット上では都市伝説として語られることもあると聞く。


「この前捕まえた魔装団の幹部の人、取り調べをしても全然話してくれないみたいですね」


 俺の隣を歩く希が眉をひそめる。


「ああ、相変わらず口を閉ざしたままだ」


「せっかく捕まえたのに残念です。せめて魔造機人の方から何とか手掛かりを得られないでしょうか」


「それも微妙だな。念視も出来そうにない。うちの解析班が今も頑張ってくれているが、人も時間も技術も足りない。せめて資金さえあれば、もう少しマシな設備で魔造機人の研究が出来るんだがな」


「うちは貧乏ですからねぇ」


 こればかりは国民の理解を得られないので愚痴を言っても仕方ない。


 エレベーターに乗ると、俺は十階のボタンを押す。


「それよりも神宮寺の件はどうなんだ?」


 神宮寺からの報告が事実なら、そのうち護衛対象に辿り着くことも充分にあり得る。


「一応あれ以来動きはないようですが油断は出来ませんね。魔装団のアジトも判明していない今、これ以上あちらに人数を増やすわけにもいきませんし、その問題は神宮寺さんたちにお任せしましょう」


「……歯痒いな」


 そう呟いて何気なく隣を見ると、希がにやにやと俺の顔を眺めていた。


「妹さんのことを気にしているんですか?」


「別に。どうして俺が心配しないといけないんだ」


 あいつは好きでこの任務に志願したのだ。俺が関与する問題じゃない。


 エレベーターが十階に到着する。俺たちはそこで降りた。


「そうですか? 私は少し心配しているんですけどね」


「ふん、確かにあいつのお人好しは少々度が過ぎているところがある。そのうち馬鹿なことを仕出かさなければいいんだがな」


 だがあいつは強い。俺が心配する必要はないだろう。

 話しているうちに俺たちは課長室の前まで辿り着く。ちょうどそこで扉が開き、中から神宮寺が出て来た。


「あれ、神宮寺先輩だ」


 希の声であっちも俺たちに気付いたようだ。


「おや、お二人ともお揃いで登庁ですか? ご苦労さまです」


 神宮寺は俺たちに、全然ご苦労と思ってなさそうな顔で言った。しかし、いつもこの調子なので気にはしない。愛想はないが、これでいてなかなか油断ならないところがある曲者なのだ。役職では俺よりも上だしな。


「珍しいな、お前がこっちに顔を出すなんて」


「柊さんに現状報告をしようと思いまして、直接出向くことにしました」


「ああ、あいつらの件か?」


「はい、少々計画を変更する必要も出てきましたから」


 ちょうど希と話していた話題を神宮寺たちもしていたようだ。


「で、(ひいらぎ)さんはなんと言っていた?」


「しばらくは様子見、と。まだ確実に気付かれたと決まったわけではないので、下手に動くのも危険という判断です。久瀬(くぜ)さんもそれに従うと言っていました」


「まあ、妥当だろうな。下手に話しても良い事はない」


 あいつもそれで納得するだろう。むしろ言い訳が出来て安堵するかもしれない。


「それより気になるのは、あの襲撃未遂についてですね。あの魔造機人は例の幹部とは別に動いていたようです。つまりあの周辺に、他にも適応者がいた可能性が高いということです」


「ああ、今回の事件はまだ終わっていないのかもしれないな」


「まだ予断は許さない状況ですね。あなたも気を付けてください」


「神宮寺もな」


 そこで神宮寺と別れると、俺たちは入れ替わりに課長室に入った。


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