4-1 異変
食事を終えて俺たちは店を出る。
それまで再三誘ったというのに、彩華はまだ俺たちと同行することを躊躇っているようだった。
「本当に一緒にいて良いのね?」
「ああ、そう言ってるだろ。なあ、琴音?」
「うん、私も彩華ちゃんと一緒が良いな」
尾行までしていたくせに今さら何に気を遣っているのか。今日の目的である琴音との仲直りも無事に成功したと思うし、ここで彩華を除け者にする理由もない。
「そう……じゃあ遠慮しないわよ? で、これからどこに向かうのかしら?」
「んー、とりあえず映画でも見に行こうと思うんだけど、それで良いか?」
「良いんじゃないそれで」
「うん、私もそれで良いよ」
二人から了承を貰ったことだし早速向かうとしよう。
「それじゃあ行くか。少し距離があるから、疲れたら言ってくれ」
俺たちは駅とは反対方向に向かって歩き出す。郊外にある大型ショッピングセンターの中に映画館があるのだ。中にはゲーセンもあるので映画の後でそちらに寄って遊ぶのもいいかもしれない。
「彩華ちゃん、怒ってる?」
「別に、むしろあなたこそ邪魔をされて怒っているんじゃないの?」
「ううん、そんなことない……ごめんね、彩華ちゃん」
「どうして私に謝るのかしら?」
何やら後ろで不穏な空気が流れているのを感じる。
「なあ、二人ともどうかしたか?」
「別に何でもないわ」
「うん、大丈夫だから悠一君は気にしないで良いよ」
「それならいいけど……」
全然大丈夫なようには見えない。それでも二人の言う通り争うこともなく、そのうち会話も学校での出来事に変わっていた。
途中でクレープを買って食べ歩きつつ、二十分ほどかけてようやくショッピングセンターの建物が見えてきた。
「ん?」
だが、建物にまだ数百メートルは離れた距離で、俺たちは足を止めた。なぜなら、路上に人だかりが出来ていたからだ。
「何かイベントでもあるのかしら?」
「いや、そんな様子にも見えないな」
イベントがあるにしては妙だ。なぜなら全ての人が、建物からどんどん離れるように移動しているのだ。慌てる様子もなく、むしろ笑顔で隣の恋人や友人と思わしき人と会話している人の方が多い。火事でもないならこの人数が一斉に移動するのはおかしい。そしてさらに妙なのは、この現象に誰も疑問を持っている様子がないということである。
「ね、ねえ、二人とも、やっぱり映画はやめにしない?」
琴音が俺の袖をぐいぐいと引っ張る。
「何だかそういう気分じゃないの。別の場所に行こう、ね?」
琴音の様子がおかしい。急にどうしたというんだ。確かにこの光景は奇妙だが、それを怖がっているわけでもなさそうだ。むしろこれは、我儘を言って申し訳ないという顔だ。行動こそ奇妙なのに琴音はそれを自覚してないように見える。
まるで誰かに操られているように、俺たちを建物から遠ざけようとする。
そこで俺は、頭の中にとある考えが浮かんだ。
「なあ、彩華、これってもしかして……」
「……ええ、その可能性が高いわ」
「っ!」
それを聞いた瞬間、俺は駆け出していた。
「ちょ、悠一君っ?」
「待ちなさい、悠一!」
後ろで二人の制止する声が聞こえるが、構わずにショッピングセンターを目指して全力で走る。
もしかしたら向こうにあるかもしれないのだ、妹の手掛かりが。俺はこの現象を知っている。これは適応者の人払いの結界の効果の可能性が高い。
もし適応者があの少女だとすれば、この機会を逃すわけにはいかない。
「俺が行くまで待ってろよ……」




