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終焉のアルス・ノトリア ~天使の守護者~  作者: 七坂綾人
第三章 一時の邂逅、すれ違う二人
20/57

2-2 目的

「分かったよ……とりあえず今度の土曜で少しはマシになるかもしれないしな」


「土曜に何かあるの?」


「いや、琴音と二人で出かけようと思ってるんだ。気分転換になればと思って」


「へえ……」


 そこで急に彩華の視線が冷ややかになったような気がした。


「……なんだよ?」


「いえ……それより、今は神代さんに家事をしてもらっているのよね?」


「あ、ああ、そうだけど?」


「喧嘩してる今でも毎日やってもらっているのよね?」


「へ?」


 彩華の意図の分からない質問に首を傾げる。いきなり話題が跳んだ気がするぞ。


「どうなの?」


「……ああ、そうだよ。それがどうしたんだ?」


「高校生でそんな新婚夫婦みたいなことをしてるなんて、本当に恵まれた男ね。ちゃんと自覚あるの?」


「仕方ないだろ。俺も手伝うつもりだけど、琴音から進んでやってくれてるんだ。それに、俺が琴音の洗濯物を干すわけにもいかないし、料理だって琴音の方が上手いんだから俺がやるよりも合理的なんだよ。急にそんなこと聞いてどうしたんだ?」


「……料理、ね」


 そこで彩華は急に真剣な顔で何かを考え始めた。彩華の考えがさっぱり分からない。


「なんだ? 何か良い案でも思いついたのか?」


「いえ、確かにあのお弁当を見れば彼女のスキルが優れていることは明白……」


 まだ彩華の表情は冴えない。というか俺の質問も聞いているのか怪しい。


 すると彩華は突然顔を上げたかと思うと、俺の顔をじっと見つめた。


「悠一はああいう家事の出来る子が好みなのかしら?」


「好みっていうか、やっぱり家事は出来た方が良いだろ。特に料理なんて生きていくうえでは絶対に必要なことだからな。俺じゃレパートリーも少ないし、料理が出来る子と結婚出来れば最高だとは思う」


「や、やっぱりそうなのね」


 彩華は何を言いたいんだろう。とりあえず話題に乗っておくことにしたが、わけが分からない。


「そういう彩華は、あんまり家事が出来るイメージないな」


 すると綾乃の眉がぴくりと動いた。


「……あら、どうしてそう思うのかしら?」


「だってなぁ……彩華の家って料理は普段、誰が作ってるんだ?」


「うちには専属のコックがいるからその人に任せているわ」


「やっぱりそうなのか……」


 予想通りの答えに驚くよりも感心した。やっぱり彩華の家は相当な金持ちのようだ。


「だ、だけど、私だって料理の腕には自信があるのよ?」


「え、そうなのか?」


「私にかかれば残飯も一流レストラン並みの料理に早変わりよ。今度あなたに私の料理を披露してあげるわ。期待して待っていなさい」


「そうか、じゃあ楽しみにしてるぞ」


 意外だったが、確かに彩華なら何でも出来そうな気がしないでもない。自信があるみたいだし、期待しておこう。


「さて、琴音も待っているしそろそろ戻ろうぜ」


 教室へ戻ろうとしたその前に、彩華が俺に声をかけた。


「ねえ、悠一、私との同盟。まだ続いているのよね?」


「ああ、当然だろ。急に何言ってるんだ?」


「……もし同盟関係が終わったら、もう私とは一緒に行動しなくなるのかしら?」


「はあ? なんでそうなるんだ? 一緒にいるのに細かい理由なんて必要ないだろ。そもそも同盟なんて堅苦しいものがなくても、俺はお前に協力するつもりだったしな」


「そう、それならいいわ。変なことを聞いてごめんなさい」


 彩華はふっと笑うと先に階段を下りていく。今の質問にはどういう意味があったのだろうか。それは分からない。ただ、俺に問いかけた時の彩華は何だか不安そうに見えた。

 俺はその後ろ姿に思わず声をかけずにはいられなくなった。


「彩華、相談に乗ってくれて感謝してる」


「別に私は感謝されるようなことは何もしてないわよ」


 彩華は振り返らずに言った。


「いや、相談するだけでも気持ちが楽になった。だからお前も何か悩みがあったら俺にいつでも相談してくれよ」


「……ええ、そうするわ」


 彩華はそのまま先に階段を下りていった。


 思えば俺は彩華に感謝してばかりだ。彩華がいなければ今の俺もいなかった。

彩華も必死に手掛かりを探している。だから俺もそれに報いるために、そして自分のために、一緒に頑張ろう。そのためなら何だってやるつもりだ。


 ――俺は消えてしまった妹を必ず見つけ出す。


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