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終焉のアルス・ノトリア ~天使の守護者~  作者: 七坂綾人
第三章 一時の邂逅、すれ違う二人
18/57

1-1 提案

side-A


 朝、目覚まし時計の音で俺は起きる。ちょうどそこで、ドアの向こうから小さくノックの音がしたかと思うと、ドアが開いて琴音が躊躇いがちに顔を出した。


「……悠一君、もう起きてる?」


「……ああ」


「そっか、じゃあ向こうで待ってるね」


 小さく笑った後、ドアが閉まる。琴音は昨日と同じく俺を起こそうとしてくれた。だけどその態度はどこかよそよそしいと思った。やはり琴音は昨日のことを引きずっているのだろう。そして多分俺も同じだ。


 琴音と約束したゴミ出しを終えた後、待っていた琴音と一緒に朝食を取る。


 二人で向かい合って朝食を食べている間も、会話が弾まずに無言で箸だけが進む。その料理も昨日よりも味を感じない。料理の味が落ちたんじゃなくて俺の精神的なものが原因だろう。


 持っていた食器をテーブルに置く度に、その音が静かな部屋の中で響く。

 その雰囲気に耐えきれずに俺はようやく切り出した。


「なあ、こと――」


「あの、悠一君」


 琴音と声が重なる。


「あ、ごめん」


「いや、琴音から先に言ってくれ」


 先を促すと、琴音は少し躊躇ってから言った。


「……その、悠一君、ごめんね」


「何のことだ?」


「昨日のこと。せっかく悠一君が私のことを信じようとしてくれてるのに、私、何も言えなくて……悠一君が怒るのも仕方ないよね」


 琴音は泣きそうな顔で俺を見た後、下を向いてしまう。


「いや、俺の方こそ昨日はちょっと無神経だった……何か言えない理由があるんだろ?」


「うん……」


 琴音は弱々しく頷く。またもや静寂。余計に気まずい雰囲気になってしまった。

何やってんだ俺、これじゃ駄目だろ。


 俺は思い切って提案する。


「なあ、今度の土曜、俺と一緒にどこか行かないか?」


「え?」


「せっかくの休日なんだ。家の中にいるよりも外に出た方が良いと思うんだ」


 外出は良い気分転換になるんじゃないだろうか。そしてこれをきっかけに、琴音ともっと親しくなりたい。もっと知りたい。これはそのための第一歩だ。


 驚いた顔で俺を見つめていた琴音の表情が、そこでふっと綻んだ。


「悠一君……うん、そうだね。一緒に出かけようか」


 その返事が俺は嬉しかった。前向きに考えてくれているようだ。


 今度の土曜日が楽しみだ。


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