1-1 提案
side-A
朝、目覚まし時計の音で俺は起きる。ちょうどそこで、ドアの向こうから小さくノックの音がしたかと思うと、ドアが開いて琴音が躊躇いがちに顔を出した。
「……悠一君、もう起きてる?」
「……ああ」
「そっか、じゃあ向こうで待ってるね」
小さく笑った後、ドアが閉まる。琴音は昨日と同じく俺を起こそうとしてくれた。だけどその態度はどこかよそよそしいと思った。やはり琴音は昨日のことを引きずっているのだろう。そして多分俺も同じだ。
琴音と約束したゴミ出しを終えた後、待っていた琴音と一緒に朝食を取る。
二人で向かい合って朝食を食べている間も、会話が弾まずに無言で箸だけが進む。その料理も昨日よりも味を感じない。料理の味が落ちたんじゃなくて俺の精神的なものが原因だろう。
持っていた食器をテーブルに置く度に、その音が静かな部屋の中で響く。
その雰囲気に耐えきれずに俺はようやく切り出した。
「なあ、こと――」
「あの、悠一君」
琴音と声が重なる。
「あ、ごめん」
「いや、琴音から先に言ってくれ」
先を促すと、琴音は少し躊躇ってから言った。
「……その、悠一君、ごめんね」
「何のことだ?」
「昨日のこと。せっかく悠一君が私のことを信じようとしてくれてるのに、私、何も言えなくて……悠一君が怒るのも仕方ないよね」
琴音は泣きそうな顔で俺を見た後、下を向いてしまう。
「いや、俺の方こそ昨日はちょっと無神経だった……何か言えない理由があるんだろ?」
「うん……」
琴音は弱々しく頷く。またもや静寂。余計に気まずい雰囲気になってしまった。
何やってんだ俺、これじゃ駄目だろ。
俺は思い切って提案する。
「なあ、今度の土曜、俺と一緒にどこか行かないか?」
「え?」
「せっかくの休日なんだ。家の中にいるよりも外に出た方が良いと思うんだ」
外出は良い気分転換になるんじゃないだろうか。そしてこれをきっかけに、琴音ともっと親しくなりたい。もっと知りたい。これはそのための第一歩だ。
驚いた顔で俺を見つめていた琴音の表情が、そこでふっと綻んだ。
「悠一君……うん、そうだね。一緒に出かけようか」
その返事が俺は嬉しかった。前向きに考えてくれているようだ。
今度の土曜日が楽しみだ。




