7-2 共犯
「ふん、俺は要領良くやってるから良いんだよ。これは息抜きだ。全然授業に出ないで目を付けられてるお前よりマシだと思うぞ」
「たいして変わりませんわよ。それに試験で結果を出しているのですから文句を言われる筋合いはありません」
綾乃はいわゆる天才だ。過去のテストは全て満点だという噂は綾乃と会う前から俺も聞いたことがあった。この辺りは俺と綾乃は違う。
俺はさすがにそんな頭はない。どこまで分かっていてどこが分からないのかを判断して、分かる部分で手を抜いているだけだ。だが簡単に認めるのも悔しいので、自分のことを棚に上げて注意してみる。
「ああ、確かに結果は大切だ。でも、だからといってサボるのは良くないな。学校は勉強を学ぶことが全てじゃない。形だけ授業に出るくらいはした方が良いんじゃないか?」
「……なぜでしょう。あなたの言葉から全く説得力を感じませんわ」
綾乃はジト目で俺を見つめる。
「ま、その通りだな。言ってみただけだ」
「まったく、あなたは不思議な方ですわ……」
綾乃は呆れた顔で俺を見ると、そこでふっと笑った。
「思えば、わたくしたちの関係も奇妙なものですわね」
「急にどうした?」
「ちょっと疑問に思いましたの。単なる知り合いとは違う、ですが友人というほど親しいわけでもありません。この関係はなんというのでしょう?」
「まあ、確かに妙な関係だな。あえていうなら……そうだな、共犯者か」
「共犯者ですか、良い例えですわ」
綾乃はくすりと笑う。
「でもそんなに頭良いのに何で高校生なんてやってるんだ? 海外に留学するなり飛び級で大学に行くなりすれば良いだろ」
「わたくしは世間で通用する最低限の学歴さえあれば良いのです。わざわざ特殊な環境に身を置くのは、わたくしにとっては無意味なことでしかありませんもの……わたくしが本当に知りたいことはどこでも学ぶことは出来ないのですから」
綾乃はなぜか寂しげな微笑を浮かべていた。
「ですから今さら授業に出る意味もないのです。むしろ時間の無駄ですわ。新しく得られる知識も特にありませんから」
綾乃はさらりと言うが、天才のこいつにしか言えない台詞だろう。
「前にも似たようなことを言っていたな。だけど、こんな場所で俺と話しているのも時間の無駄だと思うんだが?」
「いえ、これはなかなか面白くて有意義な経験ですのよ? もっとも、これはあくまで想定外の事態でしたけれど」
綾乃は何やら嬉しそうだった。俺なんかと話すことの何がそんなに有意義だというのか。
「で、綾乃のやらないといけないことって何だ?」
「秘密ですわ。あまり詮索する殿方は嫌われますわよ?」
「生憎、俺はそういう常識に疎くてな」
「ふふ、それもあなたらしいですわね」
そこで綾乃は口元に人差し指を当てると、ゆっくりと考えながら口を開いた。
「そうですわね……あえて言うなら、世界への復讐、ですわね」
「復讐?」
「わたくしはこの世界が大嫌いです。だからこの世界を変えたい」
「ほう、急に思春期っぽい主張が出たな。いつの時代の若者も大抵世間に不満があるもんだ」
「茶化さないでください。わたくしは本気ですわ。そもそも、あなただってわたくしと同い年でしょうに」
「……しかし、変えるといってもどういう風に変えたいんだ?」
綾乃なら世間に不満の一つや二つありそうだし、彼女のスペックなら実際に世界を変えることが出来るかもしれない。問題は良い方向に変えたいのか、それとも悪い方向に変えたいのかどうかだ。
だが、それ以上先を話す気はなさそうだ。綾乃はあからさまに話題を逸らした。
「そういうあなたは何か目的があってここにいるのですか? ただ良い大学に入りたいから偏差値の高い高校に入った、というわけではなさそうですけれど」
「いや、違わないぞ。俺は単に学歴がほしいからここに入ったんだ」
「嘘ですわね。あなたはそのような単純な人間ではありません」
「それは誤解だと思うけどな……」
だが綾乃の言う通り、俺がこの高校に来たのには理由がある。それを綾乃に馬鹿正直に言うつもりはない。だからぼかして答えることにした。
「そうだな、あえて言うなら……世界平和のため、だな」




