6-1 贖罪
琴音が風呂から上がった後、俺はもう一度謝った。
「悠一君、本当にもう気にしてないから大丈夫だって」
琴音は苦笑を浮かべていたが、俺は琴音への申し訳なさでまだ自己嫌悪していた。
「いや、それじゃあ俺の気が済まないんだ」
「んー、じゃあ、どうすれば納得してくれるかな?」
「そうだな……琴音の命令なら何でも一つだけ必ず聞く、とか?」
「分かった。それじゃあ明日のゴミ出しは悠一君に願いしようかな」
「えっ、そんなので良いのか?」
「うん、これが私の命令」
琴音は微笑むと、パンッと両手を叩いた。
「はい、じゃあもうこの話は終わり。ほら、もうそんな顔しないで忘れよ、ね?」
琴音がそういうなら引くしかないけど、本当にそれで琴音は良いのだろうか。
俺も気を付けるが、今後も同じことが起こる可能性はゼロじゃない。
「なあ、やっぱり付き合ってるわけでもないのに異性が一緒の場所で暮らすのは問題があったんじゃないか?」
そう言うと、琴音は少し寂しそうな表情になった。
「……そうなのかもしれないね……だけど、私はまた同じことが起きても気にしないよ。恥ずかしいけど我慢する。だから迷惑かもしれないけど悠一君も我慢してほしいな」
「いや、俺は迷惑じゃないが……どうしてそこまでして俺と暮らしたいんだ?」
「それは……」
琴音は困った顔をする。
「やっぱり悠一君は私と一緒にいるのは嫌?」
「そんなことはない。むしろ琴音がいてくれて俺は心地良いと思ってる」
「じゃあそういうことは言わないでほしいな」
琴音は相変わらず何も言うつもりはないようだ。その言葉を聞いた時の俺は、多分悲しかったのだろう。琴音に信用されていないような気がしたのだ。だからついムキになってしまった。気付けば口から不満が漏れていた。
「だけど、そろそろ俺と一緒に暮らしたがる理由くらいは教えてくれても良いんじゃないか? こういう関係は良くないだろ。俺は琴音のことを結構信用したつもりだ。だけど、琴音が全部話してくれないと、本当にこのまま信用していて良いのか分からないんだよ」
「悠一君……」
「なあ、琴音、お前の目的は何なんだ?」
「目的か……」
すると琴音はぽつりと独り言のように呟いた。
「そうだね……償い、かな」
「え?」
俺は呆気に取られて琴音を見つめる。だが、その先を琴音が話すことはなかった。
「とにかく、私はもう気にしてないから。じゃあ、私はもう寝るね。おやすみ、悠一君」
琴音は自分の部屋へと消える。これは俺から逃げたということだろうか。
琴音のいう償いとはどういう意味だろう。しかもわざわざ俺に尽くすような真似をするほどのこととなると相当な理由のはずだ。だけどそれが何なのかさっぱり分からない。
一つ思い当たる節があるとすれば妹のことくらいか。
だけど、それに琴音がどう関係しているんだ。俺の記憶の中の、あの女の子とも琴音は全然違う。何か詳しい事情を知っているのだろうか。それとも全く関係ないことなのか。
俺は混乱したまま、琴音の部屋の扉を見つめていた。




