3-2 悶着
「あら、悠一、また女の子を口説いていたの?」
しかもこのタイミングで彩華までやってきた。
「だから口説いてねえよ。またって何だ、またって」
「あ、ごめんなさい、それは秘密にする約束だったわね」
「おい、誤解されるようなことを言うな!」
「煉条君、やはり私を口説いていたのですね」
「神宮寺も悪ノリするな!」
まったく。この二人が相手だとどうもペースを握られてしまう。
「まあ、冗談はこのくらいにしてあげるわ。ヘタレのあなたに女の子を口説く度胸がないのは分かってるから」
「へ、ヘタレじゃねえし!」
「じゃあやっぱり口説いてたの?」
「口説いてもねえ!」
彩華は楽しそうな顔で俺を見つめる。からかっていると分かってつい反応してしまう俺にも問題はあるのだろう。それにしても、どうやら彩華の機嫌も直ったようで良かった。朝はろくに会話もしてくれなかったからな。
「……何にやにやしてるの?」
おっと、つい顔に出ていたようだ。
「別に、ただちょっと嬉しくてな」
「……もしかして、マゾ?」
「違えよ!」
誤解される良い方をした俺も悪いが、そんなあからさまに体を引くのはやめてほしい。
「じゃあどういう意味よ?」
「彩華、今朝から不機嫌だったろ。だから心配してたんだよ」
「はぁ……誰のせいだと思ってるのよ……」
するとなぜか彩華に溜め息を付かれた。俺は至って真面目なのに、どうやら彩華は呆れているらしい。
「何だよ? 何か言いたいことがあるならちゃんと言ってくれ」
「何でもないわ。気のせいよ」
「そんなわけないだろ。もし何か気に障ったことがあるのなら謝る。だからちゃんと話してほしい」
俺は彩華をじっと見つめる。だが、彩華は俺から視線を逸らした。
「……どうしてそんなに真剣になってるのよ? 私のことなんてどうでもいいでしょ」
「どうでも良くなんかない」
「な、なんでよ? 別にあなたには関係ないことでしょ?」
「んなことない。ずっとそんな不機嫌そうな顔されたら気になるだろ」
「何で気になるのよ? あなたに何か不都合なことでもあるのかしら?」
その取り付く島のない、あまりに素っ気ない態度に俺は思わずカチンと来た。
「あのなぁ、お前のことが心配だからに決まってるだろ」
「し、心配なんて無用だわ。そもそも悠一はお人好し過ぎるのよ……そう、あまり干渉されると困るの。あなたは私の何なの? 正直、う、鬱陶しいのよっ」
「確かに、俺はしつこいし彩華が迷惑に思っているのも知っている。だけど、俺は引く気はないぞ」
「な、なんでよ?」
「お前は意地っ張りで、負けず嫌いで、何でも一人で抱え込むところがあるからだ。多少強引にでも理由を聞かないとお前は素直に話してくれないだろ? 大体、彩華は初めて出会った頃からそうだった。一人で解決しようとして……」
「い、いつの話をしてるのよ! やっぱり悠一は心配し過ぎ。今のあなたはムキになってるんだわ」
「そういう彩華だってムキになってるだろ。一体何を拗ねてるんだ?」
「拗ねてないわよ! あなたこそ私に責任転嫁しないでくれるかしら?」
「なんだと」
「なによ」
「……二人とも、痴話喧嘩は他の場所でしてくださいませんか」
神宮寺の言葉で俺は我に帰る。神宮寺がジト目で俺たちを睨んでいた。
確かに少し熱くなり過ぎたかもしれない。反省しなければ。だが、間違ったことは言っていないと思う。これが俺の正直な気持ちなのだ。しかし痴話喧嘩という部分には異議を唱えたい。
「……不本意だわ。あなたのせいよ」
「それはこっちの台詞だ」
彩華はバツが悪そうな顔をしているが、俺も同じ気持ちだった。
「やっぱり仲が良いですね」
神宮寺は呆れるように言った。




