3-1 雑談
朝のホームルームで琴音が転校生として紹介され、クラスの一員となった。
琴音は可愛いし性格も良いのですぐにクラスで打ち解けることが出来るんじゃないだろうか。休み時間には何人かの生徒が、廊下側一番後ろの角の席に座る琴音のところへ行って、談笑をしているのを見た。でもやっぱり心配だ。
「……琴音の奴、大丈夫だろうな……」
自分の席から琴音を見る。うん、今のところは問題なさそうだ。
「……随分と彼女のことを心配してるんですね」
隣の席の神宮寺が俺に言った。
「そう見えるか?」
「ええ、挙動不審ですよ。私まで気が散ります」
「親戚として、琴音がクラスで孤立してないか心配してるんだよ」
「……本当にそれが理由でしょうか?」
神宮寺は僅かに目を細めて俺を見つめた。
「なんか俺に言いたいことでもあるのか?」
「別に何も……しかし、両手に花ですか。結構な御身分ですね」
「人聞きの悪いことを言うなよ……てか、それって琴音と彩華のことだよな?」
「はい、どうやら自覚はあるみたいですね」
「いや、さすがにそこまで鈍くはないから……だけど二人ともそんな関係じゃないからな。神宮寺だって本当は知ってて言ってるだろ?」
「ええ、ですが私は客観的に見た感想を述べているだけです。付き合っていようとなかろうと、女子高校生二人を侍らせていることは事実ではないですか?」
「そんな事実はない。琴音は親戚だし、彩華とは成り行きで一緒にいるだけだ」
「成り行きですか……」
それ以外に言いようがない。そんな風にジト目で見られても困る。
「まあ、神代さんも黒崎さんも綺麗ですので、ムラムラする気持ちも分かります。ですが高校生として節度あるお付き合いをお願いします」
「ちょっと待て、何が分かるんだ。人の話を聞いていたのか」
「ではまったくムラムラしないと?」
「いや、俺も男だし意識しないこともないが……」
はっきりと否定出来ないのが悲しい。だけどあんな美少女が近くにいて気にならない男がいるだろうか、いやいない。いるとしたらそいつはきっとホモだ。
「……まあ、あなたが欲や打算だけで動くようなさもしい人間でないのは、私も少なからず理解しているつもりです」
「えっ、そうなのか?」
「そんな意外そうな顔をしないでください。私だって人を見る目には自信があるんですよ?」
それならもっと説得力のあるところを見せてほしいと思う。
「しかし神宮寺は俺を評価してるのかしてないのかよく分からないな」
「評価してますよ? ちなみに女性にモテるというのもプラスの評価ですから」
「それはリアクションに困る評価だな」
「嬉しくないんですか?」
神宮寺は不思議そうに首を傾げる。
「いや、褒められて悪い気はしないけど、何というか、褒めるならもっと別のところを褒めてほしい。それを誇るのは自意識過剰な気がするし」
「我儘ですね。ですが、その気持ちは分かります。ですからあえてそこを評価したんです」
「お前、真面目に見えて結構良い性格してるよな……」
最近ようやく分かってきたが、神宮寺は彩華と似ているところがある。隙があれば俺をからかってくるところだ。彩華ほど言葉に棘がないうえに真顔で言うから分かり難いが、気が付くと手玉に取られている。
「失礼ですね。私は至って真面目ですよ?」
「真面目に変なことを言ってるんだ」
「そうですか……がっかりしましたか?」
「いや、むしろ親近感が湧いた」
「それは意外ですね。もしかして私に惚れてしましたか?」
「いや、それはない」
「でしょうね。あなたの側には神代さんや黒崎さんのような可愛らしい方々がいますから。煉条君から見れば私など道端の石ころでしょう」
「いや、神宮寺も可愛いと思うけどな」
「え?」
「そう思ってるのは俺だけじゃないはずだ。断言しても良い。だから神宮寺は自分をそんな風に下に見ることはないと思うぞ」
「そ、そんなことありません。か、可愛いとか……あ、あまりそういうことを軽々しく口にしない方が良いと思います。軽い男だと思われますよ?」
珍しく神宮寺はうろたえていた。顔が少し赤いが照れているのだろうか。
「確かにちょっと軽かったかもな。あ、でも、誰でも見境なく言ってるわけじゃないから誤解するなよ? 俺は事実を言っているだけだ」
「私を口説いているのですか? お断りします」
「違えよ……」
仕返しにからかおうと思った部分もあるが、殆ど本心から出た言葉だった。客観的に見ても神宮寺は充分に美少女の部類に入ると思う。一部の男子生徒の間で密かに人気があるのも知っている。俺だって神宮寺と付き合えることになれば小躍りするだろう。まさか告白もせずにいきなり振られるとは思わなかったが。




