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終焉のアルス・ノトリア ~天使の守護者~  作者: 七坂綾人
第二章 絡み合うそれぞれの想い
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2-1 戸惑

 部屋を出て、マンションの玄関まで出る。

 そこで俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「悠一?」


 彩華がマンションから一緒に出て来た俺たちを驚いた顔で見ていた。


「げっ……」


 混乱していたせいで完全に忘れていた。彩華にこの状況をどう説明したものか。

 後ろにいた琴音も俺が立ち止まったことで足を止めた。


「あれ、どうしたの、悠一君?」


「……悠一、そちらの方はどなたかしら?」


 彩華は不審げに琴音を見てから、俺を睨む。若干怒っているようにも見える。


「えーと……とりあえず、こ、琴音。こいつは黒崎彩華、俺のクラスメイトだ」


 俺は琴音に彩華の紹介をする。彩華は何も言わずに琴音を不審そうに眺めたままだ。すると琴音は一歩前に出て、彩華に微笑んだ。


「私は神代琴音といいます。よろしく、彩華ちゃん」


「え、ええ、よろしく」


 琴音はぺこりと礼儀正しく頭を下げる。彩華はそのおっとりとした独特の雰囲気に怒りを削がれたらしく、困惑の視線を俺に向けた。


「悠一、彼女は一体誰なのかしら?」


 それは俺も説明してほしいくらいだ。しかしそんなことを彩華に言っても仕方ない。かといっていきなり部屋にいたと言っても多分信じないだろう。そこで俺はベタな嘘を付くことにした。


「し、親戚なんだ。今日から聖法に転校することになったらしい。しかも俺たちと同じクラスだぞ」


「それじゃあ同じ歳なのね」


「ああ、そうなんだ。仲良くしてやってくれ」


「ええ、それで、どうして悠一は彼女と一緒にマンションから出てきたの?」


「うっ……」


 彩華はジト目で俺を見る。


「……まさか、一緒に住んでいるのかしら?」


 困った。誤魔化してもいつまでも隠しきれないだろう。ここで正直に話してしまった方が傷も浅くて済むのではないか。俺はそう判断して頭の中で設定を捏造する。


「じ、実はそうなんだ。琴音も親の都合で一人暮らしをすることになったんだけど、女の子の一人暮らしは何かと物騒だろ? それならいっそのこと一緒に暮らしてくれないかって、俺のところに叔父さんから連絡があったんだ」


「へぇ……」


 彩華の視線が冷たい。まだ納得していないのが俺にも分かる。

 そこで隣にいた琴音が、なぜか申し訳なさそうな表情をして言った。


「ねえ、悠一君。やっぱり彩華ちゃんって悠一君の彼女さん?」


「は?」


「き、気が効かなくてごめんね、悠一君。私、先に学校行ってるからっ」


 琴音は無理に作ったような笑顔で俺に言うと、今にも走り出そうとする。慌てて琴音の腕を掴んで止める。


「ちょ、待て、琴音!」


「い、いえ、私と彼は全然そんな不純な関係ではないわ。た、ただのクラスメイトよ。だから神代さんの考えているそれはただの勘違いなのよ」


 俺と一緒に、彩華まで必死になって琴音に説明する。


「……そうなの?」


 琴音はきょとんとした顔で俺を見つめる。


「ああ、彩華とはただのクラスメイトだ」


「ええ、彼の言う通りよ。だから気を使わなくて良いわ」


 俺たちの説明を聞いた琴音は、また申し訳なさそうな表情になった。


「そっか……私、勘違いしてたみたいだね……彩華ちゃんもごめんね」


「い、いえ、別に……」


 困惑しながら視線を逸らす彩華を見て、俺は思わず苦笑した。

 こいつ、意外に人見知りする性格だからな。


 初対面の相手だといつもの口の悪さも全然出なくなる。それに琴音の素直な性格も、強く言えない原因だろう。普段の彩華を見ている俺からすると不気味なほどしおらしい。


「だ、だけど、高校生の男女が一緒に暮らすのは色々と問題があるんじゃないかしら? 神代さん、悠一はケダモノよ?」


「だれがケダモノだ!」


 俺は思わずツッコミを入れる。琴音も苦笑いを浮かべていた。


「ううん、大丈夫だよ、彩華ちゃん。悠一君はそんな人じゃないから……悠一君がとっても優しい男の子だってこと、私はちゃんと知ってるよ」


「琴音……」


 琴音のフォローに俺は胸が熱くなる。


 彩華はぽかんとしていたが、はっとして不機嫌そうに俺を睨んだ。


「よ、よかったわね、悠一。健気で良い子じゃない」


「ああ、そうだな」


「……馬鹿」


 同意するとなぜか彩華に罵られた。小さな声だがいつも以上に棘があった気がした。


 琴音は気まずそうに俺たちを見ている。ひょっとして彩華と喧嘩をしているように思われたのかもしれない。だが、少なくとも俺は彩華のことは嫌っていないし、彩華の口が悪いのだっていつものことだ。きっとそのうち彩華の機嫌も直るだろう。


 しかし、俺の予想に反して、登校中ずっと彩華は不機嫌そうだった。明らかに普段よりも口数が少ないのだ。

 いつもと違う空気を味わいながら、俺たちは学園に向かった。




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