夜のとばりはネオンで輝く
君の目の前に一千万円あったとしたらどうするだろう?
平時の僕ならばすぐさまふところに隠して密かに銀行の通帳に入れるだろう。
だが、仕事中の僕にはそれが許されない。
一千万円が目の前に、いや、それと同等のものが目の前にあるというのに。
それはプラスチックで出来たメダルだ。ふつうの価値としてはせいぜい子どものおもちゃとして百円+税ぐらいで売られているだろうか。
ただし、この場所この時においてこのメダルは10万円の価値を持つ。そんなのが僕の目の前に何百枚と綺麗に並べられているのだ。
そう、ここはカジノで、僕は客の金を巻き上げるディーラーだった。
僕がカジノで働き始めたのは、このど田舎に突如カジノが出来た時からだった。
それまで夜7時で閉まるコンビニでアルバイトとして働いていた僕にとって、カジノの給料は頭がいかれてるのではないかと思うほど高額で一も二もなく飛びついた。
母はもっとまっとうな仕事をしろと言ってたが、最初の給料を全額上げて母の口を黙らせた。
地元はもちろんカジノ建設に反対だった。
風紀が乱れたり、ギャンブル依存症になる人が出てくるからだ。本当はカジノの収益で地元は潤ってうれしいのだが、母みたいな有権者がうじゃうじゃいるので賛成することは難しかった。
そこでカジノにはいくつか条件がつけられて建設することになった。
まず、外国人が利用する施設にすること。次に町内の人間の雇用をする事。最後に日本人は一定額以上の税金を払った人のみ利用する事ができること。
以上の条件でカジノが出来上がった。
カジノはスロットにルーレット、トランプテーブルと色々な賭事が出来るようになっている。僕は主にバカラのテーブルを任せられていた。バカラは簡単に言うと、playerとbankerのどちらがか勝かを予想してあてるゲームである。勝利するためのコツなんてない。ただ、僕が客から金を巻き上げていくだけである。
日本人は素晴らしい。勤勉にお金を注ぎ込んでくれる。
韓国人は素晴らしい。自分の限度を遥かに超えて注ぎ込んでくれる。
中国人は素晴らしい。怒りながら大量に注ぎ込んでくれる。
欧米人は素晴らしい。酔うと勝手に注ぎ込んでくれる。
このように人類みな平等にカジノにお金を注ぎ込んでくれるいいカモである。
ただし、ディーラーにはコツがある。それは全ての動作をはっきりと丁寧に行うことである。
全ての動作で不正をしていないことをお伝えするのである。
そして客の金は全て巻き上げるのではなく、ゆっくりと徐々に巻き上げていくのがいい。
もちろんたまに勝たせる事も忘れない。
今日の客は身なりのいいご婦人にお金のもってなさそうな友人に一生懸命勝利論を聞かせている男に短気そうな中国人だ。さて、どうやって金を巻き上げようかな?




