〆 下弦夜月
遅れてしまいもうしわけございません!
次の日。
「夜月くーん、待ったかしらー?(棒)」
「おー、別に待ってなんかないぜ(棒)」
という柚樹の希望に基づく適当な会話をして俺達は集合をして学校とかがある丘を降りたところにある商店街の有名ハンバーガーチェーン店の窓際の席でお昼ご飯を食べることにした。時刻は1時。お昼ご飯を食べるにはちょうどいい時間である。
「最近はどうだ? 新しい学校には慣れたか?」
「慣れてないわ、何を言ってるの夜月君。この私が右も左もわからない高校でしかも転校生という特殊なたち位置で馴染めるわけないじゃない。一人ぼっちの学校よ」
「……楽しいか?」
「ええとっとも」
つまらないわ。と言って柚樹は俺と柚樹の真ん中においてあるおぼんにばら蒔かれている萎れているポテトをつまんで食べた。
……しょうがなかった、と言ってしまえばその一言で終わりなんだけれども柚樹の事がさらに心配になってきた俺である。まさかこのまま学校に馴染めないで終わりということは柚樹が他者と壁を作らない限り学校という空間ではあり得ないのだけれども今の柚樹ならば葉月高校のことを引き摺って壁を作っている可能性は大分高い。
「きいてよ、夜月君」
「ん?」
「私、今神無月高校に通ってるのだけれども先生方が授業中に寝させてくれないのよ。葉月高校の先生方は私を起こしたことなんか無かったのに」
「それは神無月の先生が正解だ」
「どうしてよ」
「教える事で給料を貰ってるやつがが教えられることを拒否している、つまり寝ているやつを無視していいわけないだろ」
「よくわからないわ、私馬鹿だから」
「その馬鹿を無くすために起こしてるんだろ。……またテスト全教科零点とかとるなよ」
そう、俺が言うと柚樹は驚いたような顔で俺のことを見てきた。え、何ってんのこいつ。っていう表情でしばらく見つめてきた後に納得したような顔をして柚樹はため息をつく。
「私の能力が爆破って事は確か言ったわよね」
俺はああ、と言って縦にうなずいて見せた。柚樹はそれを見ることなく、ポテトを食べる。
「その爆破の起きる条件がその爆破対象を手で握るって事なのよ、そうね……時間は調べたことあまりないけど十秒以上、手に持ってたら爆発するかしら」
「じゃあ――」
「箸はぎりぎりまだ爆発をしたことないわ、フォークやスプーンは無理、鉛筆も出来ないこともないのだけど一回爆発させちゃったことがあってそれ以来使わないようにしてる。ああ、ハンバーガーは別に指先で持てば大丈夫よ」
そう言いながら柚樹はハンバーガーを食べ始めた。俺もそれにならってポテトを食べる手を止めてハンバーガーを手に持って食べることにする。出来るだけハンバーガーを持つ手は柚樹の真似をするようにして。
「夜月君、あーん」
柚樹は俺が食べていたハンバーガーを無理矢理奪い取ってそんなことをやってきた。いや、おかしいだろ。俺が戸惑って固まっていると柚樹は怪訝そうな顔をして「はやく食べなさいよ」と言って、それでも俺が固まっていると柚樹は俺から奪い取ったハンバーガーをため息混じりにポテトの上においた。いや、おかしいだろ。何度でも言う。いや、おかしいだろ。
「なあ、柚樹」
「ききたくないわ」
「なら言わないけれど」
「ききたいわ」
「どっちなんだよ」
「聞いてあげないこともないわ」
「上から目線かよ」
そう言いながら俺はポテトの上に無造作に置かれたハンバーガーを手に取り、一拍置いてから柚樹に目を合わせて言った。
「俺達付き合ってないんだよな?」
合わせていた目は柚樹が外を見るために目線を左向きにしたのでずれてしまう。ここがファーストフード店でなければ絵になっていたかもしれない。洋風の窓で夕暮れ時とかだったらさぞかし綺麗な絵になっていたであろう。
「何ノ事ダカ、サッパリ、ワカラナイワ」
「凄まじい片言だぞ」
「何の事だかさっぱりわからないわ」
柚樹はそう言って耳をふさいで顔をぶんぶんと振って目を閉じた。これ以上はききたくないという意思表示だろう。………柚樹の事を友達以上に見ていなかったからという理由で断ったのはやはり間違いだったのであろうか? 高校生で付き合うということは軽率なことではない。小学生とは違う。そんな葉月高校との縁を切りたくないから、という理由で付き合いたいというならこちらからお断りさせてもらう……のは間違いなのか?
「なあ、柚樹」
「みーどりの葉ーが」
「……柚樹」
「きらきらと月の光にてーらされー」
「柚樹さん」
「光輝ーく美ーしくー」
「耳塞ぎながら歌うのやめてください、柚樹さん」
しかもそれ葉月高校の校歌だろ。校歌斉唱で人の声が全く聞こえてこない校歌だろ。人の声が聞こえてこない理由? 単純、誰も歌ってないから。ただそれだけ。皆歌ってないから歌を知らない一年生が頑張って覚えようとしても歌がきこえてこないから歌えない。つまり、誰も歌えない。
そんな校歌を歌えるのが他の学校の生徒なのだから校歌も泣いている事であろう。
「話は終わったかしら」
「終わってねぇよ、はじまってすらいねぇよ」
「じゃあ続きを歌うわ」
「やめてください」
そう俺が言うと柚樹は勝ち誇ったような笑顔で葉月高校の校歌を口ずさみ始めた。いや、やめてくださいって言っただろ。実は俺の事嫌いなんだろ? そうなんだろ? 俺の必死な願いを無視しちゃうレベルで嫌いなんだろ。
「柚樹さん」
「あぁー、葉月ー」
「…柚樹」
「僕らの母校ー」
「…………」
「夜の月じゃない葉月ー、夜月なんかぶっ潰せー」
「そんな歌詞はない」そう言うと柚樹は歌うのを止めた。「何だよその歌詞。俺の事ぶっ潰せってなんだよ」
「……夜月君じゃないわよ、自意識過剰ね。気持ち悪いわ」
そう言いながら柚樹はもう一度視線を外に向けた。何かを目で追っているみたいである。空に目を向けているわけでもないし、何か気になることでもあるのであろうか?
「…………? 何か外にいるのか?」
「あら、洞察力があるのね。流石、夜月君。きっとあなたは名探偵になれるわよ、なんなら今ここでコナ〇にしてあげるわ」
「え? お前俺を子供にしちゃうような薬持ってんの? ………じゃなくて何見てんだ?」
「持ってるわよ」
「持ってるのかよ! そんな危ないもの今すぐ捨ててこい! …………じゃなくて」
「じゃなくてジャマイカね」
「何言ってんだ? お前」
じゃなくてジャマイカってギャグのつもりか? 何も面白くないって言うかギャグになりきれてないと言うか、とりあえずつまらない。
そんなことを考えてたら柚樹がガンガンとガラスを指で叩いた。どんな力で叩いたらガラスがガンガンというのかはちょっとわかりかねるけれどこれは外を見ろと言うことであろう。それに素直に従って俺は外を見る。
「あの取って付けたようなツインテールの子」
そう言われて俺はその取って付けたようなツインテールの娘を探した。視界は良好。お陰ですぐにツインテールの娘を発見することが出来た。そのツインテール娘は染めているのであろう紺色の髪を揺らしながら熱心に何かを探すために外で地面に這いつくばっている。
「さっきからずっとあの土下座の姿勢でいるのよ。趣味なのかしら」
「趣味だったらあんな必死な顔はしてねぇだろうな」
俺は席を立ち上がって柚樹に「ちょっと待っていてくれ」と言う。すると柚樹は何も言わずにため息まじりにポテトを出来るだけ口の中に突っ込んでから席を立ち上がっておぼんを片付けてから俺にこう言った。
「浮気は許さないわよ」
何の話だよ。
しばらく停止します




