〆 下弦夜月
その事の顛末を俺の家に遊びに来た雛にきいた。粗蕋に呼び出されて月立葉月ちゃんの事について色々きかれ、葉月ちゃんの秘密だかなんだかを教えてもらうために明日も会うことになった事。明日の事は心配なのでついていきたいところだが、明日は其柯、じゃなくて柚樹と会う待ち合わせをしているのでいけない。一日ずらしてくれれば行けるのだが、雛が大丈夫だと断言したので心配だが今回は柚樹を優先させてもらうことにした。
「それでいずきのエロ本はどこにあるの?」
「え? なにがどうなったら話がそう展開されるんだ? そして、俺はいずきじゃない夜月だ」
「ごめんごめん、いずきのエロ本は押入れの一番上の段の布団の奥に眠る箱の中だもんね、ちなみに箱の表紙には『おもいで』ってかいてある」
「……………っ」
「僕はいずきの事で知らないことなんてないんだよ」
雛はそう言って笑顔を浮かべた。俺にはその顔が悪魔の笑みにしか見えない。なぜ、俺しか知らないはずのものを俺の部屋を漁ったことがない(と思う)雛が知っているんだ。妹ですら知らないのに。
いや、姉貴は知ってるだろうけど、雛は直接下弦家の長女を見たことがないはずであって通じているはずがない。
「なぜ、知ってる」
「んふふーん♪」
雛はそう言って俺の部屋を(いい忘れていたがここは俺の部屋である)松葉杖を使わずにケンケンをしながら移動して押し入れに向かって――――
「とまれぇぇええええ!!」
俺はそう叫びながらケンケンしている雛をベッドの方向に飛び蹴りをかました。一応片足しかない雛を気遣ったつもりである。雛は俺の予想通りベッドの毛布の上にダイブしていった。そのまま、す巻きにして墓にでも入れてやろうかと思ったがギリギリで俺の良心が勝ってどうにか思い止まることができた。お前は色々と知りすぎた………と心の中で呟く。雛には見せたくない俺の『たからもの』である。
墓に埋葬しないにしても頭ぐらい踏んでもいいんじゃないか、とか考えていたら隣の部屋であろう扉が慌ただしくしまる音がした後にバタバタと走ってくる音と共に俺の部屋の扉が空いた。
「夜兄ぃ! 何、ヤってるんだか知らないけどうるさいぞ!」
そう言って入ってきたのが世界の要らない妹ランキング1位の下弦半月ちゃんである。え? 俺の妹? 知らない知らない、そんな妹知らない。
半月愚妹は俺の部屋を見渡してからベッドに倒れている何かを見つけて目を輝かせた。
「すまん! ヤってたのか!」
「ヤってねぇよ!」
「え、じゃあ、これからはじめるのだな! 失礼した! 近隣住人に迷惑をかけない程度によろしく頼むぞ、というか私をまぜてくれても――――――」
「あぁぁああ!! 黙れ! よくみろ、ベッドに倒れているのは男だぞ、俺にそんな趣味がないことは妹であるお前がよく知っているはずだ!」
「ああ、すまなかったな、シスコンだったか」
「それも違う!」
俺はそう言って愚妹を部屋から追い出そうと、愚妹の腕をつかんで外に出そうとするが、なぜかびくともしない。こいつ俺より体重あるんじゃねぇの、特におっぱいとかいうところが重いんじゃ。
あれ、どうやって重力に勝ってるんだろうな。
「それで、夜兄」
「なんだよ、お前をす巻きにして墓に入れてやるぜ。少し待ってろ」
「新しいSMプレイか! くぅぅうう!! テンション上がるぞ!」
「……お前、逞しすぎるよ」
俺はため息混じりにそう言った。これは敵わない………こいつに敵はいないであろう。多分何をしても悦ぶ、違う、喜ぶ。いや、間違えてないか?
「夜兄、そこのベッドで夜兄に押し倒された、否、倒れてるのは誰だ?」
「…………えっと、雛だよ」
「…ああ」
雛さんかと半月は小さく呟いた。
そしてどうするか困っていたであろう雛はベッドから起き上がって半月の方を見つめる。半月は決して目を合わせない。敵はいないだろう、とさっきは言ったが半月の敵は雛なのかも知れない。
「こんにちは、半月ちゃん」
「お久しぶりです、雛さん。最近一切会っていませんでしたね」
「いずきと僕があんまりあってなかったからねぇ。何はともあれ会えて良かったよ」
「そうですね。この後お飲み物お持ちいたしましょうか?」
「いや大丈夫だよ」
「そうですか」
そんななんの感情も感じ取れない社交辞令の会話をきいて、俺は小さくため息をついた。さっきから雛が困った顔でこちらを見てくるがこればかりは俺にはどうしようもできない。どうにかしようとしたことはあるがこの二人は(というか半月が)どうにも相容れない。
「じゃあ、夜兄。私は部屋に戻ってるから私がいないうちにやることやっておくんだぜ!」
「お前、まだ言うか」
次いったら飛び蹴りをしてやろうと思った。俺の得意技は飛び蹴りである。小さい頃からいろんな人に飛び蹴りをしていたら得意になってしまった。
「そうだ雛さん」
「何? 半月ちゃん」
「相変わらずずっと気持ち悪い笑顔ですね」
「君は相変わらず、思ってもないことを飄々と言うね」
そう嫌味を言い合って愚妹こと半月は部屋から出ていった。この、二人を交わした言葉は雛と俺が喧嘩をしたときに言い合った言葉で、思い出したくない記憶である。俺は確か、雛に「お前、ずっと気持ち悪い笑顔が張り付いてて気色が悪いんだよ」とかそんな事を言って……雛はその時だけ笑顔を無くしていた。
まあ、いい。過去は過去だ。
今はこんなに仲良く出来ているんだからいいじゃないか。その時の喧嘩に巻き込んでしまった彼には悪いことをしてしまったな、とか考えながら俺は椅子に座った。
「なぁ、雛」
「なーに?」
「あいつどうしてるかな」
「……あいつ?」
「ユウト」
そういうとまた雛は困ったような顔をしながら首を傾げた。知らないと言う意思表示であろう。俺も知らないし、知っていたとしても今更どんな顔をして会えばいいかわからない。あいつは今どこで何をしているのだろうか。もう二度と会うことはない気がする。
「そうだ、今日の晩御飯、姉ちゃんが作るみたいだから雛も食っていけよ」
「本当! やったー!」
雛は両手をあげて喜んだ。たぶんこの後、雛は母親にこの事を伝えに一旦帰るから食事は一時間後ぐらいになるであろう。
それを姉に伝えに行かなければ。




