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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
9月
42/49

〆 月籠雛

 恋愛ものの小説は人生で一度も読んだことがない。

 そう、僕こと月籠雛は「そういえば」と呟きながら考えた。小説は読むか読まないかときかれたら読まないに入る僕だけれども恋愛要素がある小説を人生で一度も読んだことがないと考えるとなかなかすごいことだと思う。恋愛友情それはありふれたものだけれども幻想である小説だからこそ出来ることがあると僕は思う。小説に書いてある都合がいい展開を現実ではあり得ないと罵倒する人間もいるけれど、現実味が溢れたノンフィクションに限りなく近い小説を読みたいと思う人間がいるであろうか? あり得ない展開やあり得ない血縁関係あり得ない恋愛事情……それらは結局ホンモノではないかもしれないけれど、そういうものに人間は惹かれる。つまり、小説はただの娯楽でしかない、ということなんだけど。

 さて。

 うまくまとまらなかったところで。

 葉月高校の少々ずれた夏休みも終盤の今日この頃、僕は抄夜ちゃんに話があると言われて呼び出されていた。待ち合わせ場所は葉月高校の僕らの教室。誰もいない教室でただ一人座って先週いずきから回ってきたジャンプを読んでいたら外から高い声が聞こえてきて五月蝿いなぁと思っていたら、急に教室のドアが開いた。僕はジャンプを閉じる。


「雛ちゃん、ちょっと騒がしくなるけどいい?」


 申し訳なさそうに抄夜ちゃんはそういって、僕が返事を返す前にその騒がしくなる原因を連れて教室の中に入ってきて、僕の前の席に座った。抄夜ちゃんが連れてきた騒がしくなる原因とは年端いかぬ少女で前髪ぱっつんで後ろ髪が少々バラバラ気味のおかっぱの女の子。


「はじめましてでし!」抄夜ちゃんが連れてきた女の子はそういって僕に向かって中指をたててきた。なんだこいつ、喧嘩売ってるのか。「しーたんの名前はしーたんでし! 抄夜君とは同性でし!」


「え?」


 同性? 抄夜ちゃんは一応男だからこのしーたんとやらは男、なのか? いやまさか、年端いかぬ子だとしても流石に男女の見分けぐらいつく………と思う。


「えっと………同棲って言いたかったんじゃないかな………。誤解されたくないから言っておくけど今、このこ……死色って言うんだけ――」


「しいろ? 歌詞の詞? いや、デッドの死ぬって文字に色?」


「デッドカラー」


「デデデッドカラー!! 抄夜君! よくわかんないけどかっこいいぃぃいいでし! しーたんこれからデッドカラーことしーたんでしっていうでしねっ!」


「死色、それはやめておけ。わけわからない人にはさっぱりわからない自己紹介になる」


 じゃあ、僕は死色ちゃんって呼ぼうかな? しかし、死ぬと言う文字に色か。死の色とかいて死色。偽名だろうか? 本名だとしたら名付けの親は誰だろうか? お目にかかってみたい。さぞかし良い性格をしているのであろう。


「死色は今、保護者がいなくなっちゃったから――」


「ホタテに行ったんでしよ! 名莉海君はお星さまになったんでし!!」


「ややこしくなるから死色は黙ってて………。死色の保護者は生きている、筈。その保護者が帰ってくるかわかんないけど一応今は僕のアパートの部屋の上の階に住んでる」


「お部屋繋がってましけどね!!」


「ややこしくなるから死色は黙って………」


 抄夜ちゃんはそういってため息をついた。それを見た死色ちゃんは「でし?」と阿呆面で首を傾げる。ふむ、抄夜ちゃんが僕らが家にいくというと全力で断っていた訳はこれかな? 僕といずきはヤバいエロ本があるんだろうなぁと勝手に解釈していたけれど、どうやら違うみたいである。抄夜ちゃんの部屋とかすごく片付いてるんだろうなぁ。


「それで、抄夜ちゃん。僕を呼び出した理由はこの子?」


 と言って僕は死色ちゃんを指差したが抄夜ちゃんは首を横に振った。


「いや、違う。死色は関係ないんだ」


「そうなの?」


「そぉなんでしかぁ!?」


「うん。死色はあくまでこのあとの用事のために連れてきただけ。雛ちゃんへの用件はまた別」抄夜ちゃんはそう言ってポケットから携帯電話を取り出して操作し始めた。「……雛ちゃんはさ、月立葉月ちゃんへどんな感想を抱いてる?」

「感想?」


 どういうことであろうか? 僕が葉月ちゃんに対してどんな感想を抱いている、とは。好き、嫌い。そういうことであろうか? 今はそれなりに仲良く付き合ってはいるけれども元々は敵みたいなものでけしていい関係ではなかった。葉月ちゃんの能力、教理雑音(ドグマノイズ)はなかなかすごいものであると思うが根本的なところでは僕とあまりかわりがない能力で、寧ろ物質破壊など人間に関わりがないものも壊せたり操れる僕の方が使える幅が広く、能力的には上位である、が使い勝手は多分あちらの方が良い。と思う。僕の能力はあくまで音程(うた)であって葉月ちゃんは言葉だから。

 それに葉月ちゃんは真面目に作戦を組めば己の能力がなくても十分に強いだろうから、出来れば敵にはしたくない相手である。それに純粋な能力では僕と葉月ちゃんは打ち消す筈なので相性は最悪。

 一個人の葉月ちゃんの性格は個人的に嫌いではない、が、いずきに手を出したことにより僕は葉月ちゃんは嫌いに分類される事は決定している。そういえばいずきに手を出したというか、僕らにちょっかいをかけてきた理由はなんだっけ………忘れた。何かをお願いされたような気がするが……………えーと、なんだっけ。


「そんなに深く考えなくて良いよ、雛ちゃん。………この質問が大雑把すぎるならそうだな……雛ちゃんは葉月ちゃんに何か不自然なところを見つけたり願われたりしなかった?」


 願われる? そう、何かを僕は葉月ちゃんに切実に願われて、面倒くさい、リミットにならないと思った僕はそれを断った……。

 願い、それは確か―――



「『助けてください』『葉月高校を裏切ってください』…………だった」



「良くできました」


 抄夜ちゃんはそう言ってぱちぱちと大分適当な乾いた拍手を僕に送った。死色ちゃんはそれを真似てぱちぱちと言いながら手をならす。


「そう、それで僕はその時に思ったんだった……葉月ちゃんは葉月高校の優良生徒ではない別の何かだって」


「葉月高校の優良生徒である月籠雛ちゃん、君は学校に知らせる知らせない関係なく知らなくちゃいけないんじゃないかい? 葉月ちゃんの事を」


「それは別に――」


 興味ない、と答えようとして僕は言葉を詰まらせた。

 僕の目当てはあくまで平穏にこのまま高校を卒業すること、であり、いままで降りかかる火の粉以外は周りが大火事であろうとするーしようと決めていた。しかし、葉月ちゃんが他校の優良生徒だったりするならば何かをここ葉月高校でする可能性が大いにある。つまり、葉月ちゃんがいつか僕の平穏な学園生活を邪魔してくるだろう。………今だって、葉月ちゃんがいなければ先月のように巻き込まれることはなかったんだろうし。


「興味が出てきたかな? 月立葉月ちゃんに」


「んー、まあ」


「そこまで月立葉月ちゃんが君に言っているのは予想してなかったけど、これならば君は知る権利がある」


「…………」


「ただし、雛ちゃんここからの情報は取引になっちゃうんだ」


「取引?」


「『私が困ったときに貴方が力を貸してくれるというならば情報を貴方にある程度教えましょう』って」


「でし!」


 死色ちゃんは偉そうにつけたしたが知らないふりをしておくことに僕は決めた。

 困ったときに力を貸すのは別に生活や命に関わらなければどうでもいい、が。多分、抄夜ちゃんは誰かと僕を挟んで仲介をしている。抄夜ちゃんにはそれなりに好意を抱いているからある程度までならよろこんで手を貸す。けれど、これは顔を知らない相手との契約………いや、約束か。


「いずきとか僕の命とかには関わらない程度で良いなら」


「まあその辺が妥当だろうね」


「口約束だしね」


「破ったら駄目だよ、僕が怒られるんだから」


「守るよ」


 多分。と心の中で僕はつけたして、そのあと自傷気味に笑った。抄夜ちゃんに訝しげな目で見られたが気にしないでおこう。

 この約束は多分僕は守らない。

 今、録音されていたとしても守ることはないであろう。わざわざ葉月ちゃんという名の火の粉を消すために、灯油を入れるようなものだ。危険度はたぶん、抄夜ちゃんの約束の方が高いであろうから。だから気があまり乗らないというのもあるけれど助けを求められても僕は動かない。


「まあ、雛ちゃん」


「なに」


「この約束が果たされるのは………んーと、そうだな。早くても卒業してからだろうから忘れててくれても構わないよ」


「ふーん」


「じゃあ、とりあえず雛ちゃん。明日暇?」


「しーたんは暇でしよぉぉ!?」


「死色は明日も忙しいよ、僕はよく知らないけど」


「ま、じ、でしか!」


 死色ちゃんはそういってやったーでしーとか言いながらそこらじゅうを走り回り始めた。ドタドタとうるさい。たまにジャンプをして天井にタッチをしているのだがこの小娘は人間なんだろうか?


「僕はいつでも暇だけど、いずきは来れないよ。僕の機動力は最低値だから気を付けてね」


「あー」忘れてたな。と抄夜ちゃんは呟いた。「まあ、いいや。別に常人をストーカーできないレベルで遅いわけではないでしょ」


「いざというときはどこかから車イスをパクって抄夜ちゃんが車イスを押しながら走れば良いよ」


「それは難しいかな」


 抄夜ちゃんはしばらく悩むような顔をしてから「まぁいっか」と呟いた。何か悩みどころがあったみたいだけれども抄夜ちゃんの中では解決したようである。


「じゃあ、雛ちゃん」


「うん?」


「明日もここでこの時間に」

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