〆 月籠雛
僕はいずきとクラスメイトの誰かが教室から出ていったのを見計らって教卓の下から這い出た。途中、脚と教卓の足がぶつかってガタンとかなり大きめな音が鳴ったときは冷々したけれどどうにか乗りきったようだ。
「もー、いずきは」
僕はそう呟いて、松葉杖を持って教室の適当な席に座った。ここの席に座っていた筈のクラスメイトの顔は無論覚えていないし、性別ですらわからない。確かなのは、ここのクラスに所属していていずきと話したことがあるであろうぐらいでそれ以外の事は全くもってわからない。
そして、僕はふて腐れ気味に頬杖をつきながら足をぶらぶらさせる。
僕がふて腐れ気味になっている理由は一つ。いずきの事である。……いずきはたまに好奇心で動いているんじゃないかって思うぐらい人の事を探し回ることがある。それに、あの、不可解なクラスメイトの少年は何故か十一高競争の他にも学舎占争まで、なんだか知りつくしている、ような。もしかしたら、僕のように入学前に声をかけられた人なのかもしれない。でも、学舎占争の事を他人に簡単にいっちゃ駄目だってきいたことがある。極刑レベルの罰が与えられるとも風の噂で聞いたことがあるし。馬鹿な僕ですら覚えているルールを軽々しく破ったあのクラスメイトの少年は一体。
もしかしたら、あのクラスメイトさんは僕より遥かに馬鹿なのかもしれない。それに、何よりも、僕が知っている限りあんな人が学舎占争に参加しているなんて聞いたことない。
だとしたら、学校側から声がかかったが、誘いを蹴って普通に学校に通ってきている人か、独自のルートで情報を得てきたか、のどちらかになる。独自のルート、となると軽く犯罪が犯せる………えー、と、犯罪が犯せるっておかしいんだよね。犯っていう文字が二重になってるから………。犯罪が起こせるレベルの能力があることにある。FBIらへんからお誘いが来てもおかしくないレベルの調査能力を持っているということか。
超能力の分類か。
ハッキングをしたか。
そうなると、超能力の可能性が高い。学校側から何らかの声がかかったとすれば超能力者の可能性が高いし、ハッキングができるレベルのセキュリティなわけがない。高校生ごときにハックされるような生温いものではないはずだ。(例外は一人だけ知っているけれどあの子繋がりではないのは、今回、はっきりしている)ということは、あのクラスメイトは何らかのサイコ系の超能力の持ち主で色々と読み取っている可能性が高い。そうだとしたら、僕らの邪魔になるんだろうな。
「あの人の名前、何て言うんだろう…………」
「粗蕋抄夜」
声が聞こえた。
女の子のよく通る、鈴の音のような声が近くの扉の方からきこえてきた。まさか、女の子が抄夜なんていう名前なわけがないから僕の無駄な自問自答に答えてくれたのだろう。
「しかし、あの人は学舎占争には、あまり関係がありません。もっとも、首を突っ込みかかってますが」
僕は振り向いて、声のする方をみた。そこには黒い髪で一部はみつあみをしている(編み込みっていうんだっけ?)女の子がいた。口は笑っているが目は全く笑っていない。寧ろ、目の奥には真っ暗な暗く暗くて暗い闇がみえる。この容姿は葉月高校の校長から聞いた通り。
「一年生の月立葉月ちゃん、だね?」
「はい、はじめまして。二年生の月籠雛先輩」