〆 月籠雛
8月終了です!
そして、夜。
僕の学校では深夜に後夜祭があるんだけれども僕らはいつも通り屋上の一室に集まっていた。僕らのメンバーは僕、いずき、其柯柚樹、葉月ちゃん、そしてなぜか抄夜ちゃんがいる。あの場所にいた半月ちゃんはどうにか説得して満月ちゃんと共に帰らせた。
いずきは妹より他人の命を優先したことには驚いたけれど其柯柚樹がこうなることを何となくいずきは予想していたのかもしれない、というと適当すぎるかもしれないけど僕が舞台にむかっているところで全て解決してしまっていたらしい。
「いや、本当に助かったよ……副委員長」
「いや別にいいんだけどさ、粗蕋」そういいつついずきは抄夜ちゃんの服装を横目でみている。「どうした、その服」
抄夜ちゃんは急に立ち上がって片足重心で綺麗に回って見せた。スカートが上に上がってパンツが見えたが男のパンツなので誰も反応を示さない。
「どうよ? 僕、可愛い?」
「可愛いと思うが」
「そう、可愛いんだよ。それなのにクラスメイトが…………って可愛い? 嘘、冗談は顔だけにしてよ、副委員長」
そう、抄夜ちゃんは女装をした姿で僕らの前に現れてついてきたのである。ふわふわぁとした黒いミニスカートが特徴的な本当に可愛らしい服装である。
「文化祭と言ったら女装とかいう間違った持論を他人に押し付けるのはやめて欲しいよね。僕にだって自我があるんだ。後でクラスメイト達をしばいておいてよ、副委員長」
「委員長の癖にクラスメイトに遊ばれるお前が悪い」
「ユーモアがあってよろしいと言ってくれないとそろそろ僕の心が折れる…………僕の制服どこにあるの………」
最後の方は悲痛の叫びだった、というか切実な願いだった。そうか………制服を奪われたのか。可哀想に。
「雛、制服貸してやれよ」
「いずき何いってんの、そしたら僕が犠牲になるだけじゃん。女装とか誰の特になるんだか知らないけど愚行の極みだね、そんなものをさせられるものを含め、精神が理解できないよ。軽蔑するね、侮蔑するね」
「……傷に………塩を………」
そして、粗蕋抄夜ちゃんは息を引き取った。というか、その場に倒れた。今日の午後辺りからずっとその格好であったであろうから疲れたのだろう。お疲れさまでした、君のことは忘れない。青春をありがとう。
「さて」葉月ちゃんは抄夜ちゃんの事をスルーして言った。「其柯柚樹先輩」
「…………」
其柯柚樹は無言で葉月ちゃんの方をみた。あまり良い目線とは言いがたいが、まあ、会話が出来るのは良いことだろう。ここにいたるまでにいずきと其柯柚樹の間に交わされた約束は多分、五十を超えている。攻撃しない、といったような約束が殆どを占めているだろうがなんだか二人の間に何かあったようで、民衆の前で抱き合っていた二人がよそよそしい気がするのは僕だけであろうか?
「一応、貴方は学舎占争の勝者になりえる立場です。私達葉月高校の優良生徒のガードをくぐり抜けて舞台を爆発させニュースを作りました、が、貴方がまだここにいると言うのはどうしてでしょうか?」
「………」
「優良生徒は仕事を終えたら私やポピー先輩みたいに元の学校に帰る手筈になっている筈です」
「私はまだ、仕事を終えていないから……」
「と、いわれましても、私達葉月高校の優良生徒の前にいると言うことは分かっていますよね? どちらにせよ、貴方がここに残る選択肢は残されていないのです。強制送還か自分から帰るかお選びください」
「……………」
「葉月ちゃん」いずきが葉月ちゃんと其柯柚樹の間に入った。「それはどうしようもないことなのか?」
「ええ」
それはもうきっぱりと葉月ちゃんはそう仰った。そして、視線が僕に向けられる……説明しろと言うことか? この馬鹿で有名な僕に? さらに自分の馬鹿を晒さなくてはいけないんですか。
「いずき、其柯柚樹さん」
二人の視線が一気にこちらに向く。いや、呼び掛けたのだから当たり前のことなんだけれども、視線が痛い。
「これはしょうがないことなんだよ、葉月ちゃんは何も間違えたことを言ってない。どうして、死んだら天国にいかないと駄目なの? そんなのやだ。っていってるぐらいにここに残るのは難しい」
「でも」
「そもそも前提がおかしいんだよ。優良生徒なんだろ? 其柯柚樹さん、わかってる筈だよね、これはどうしようも出来ないって。友達は作らない思い出も作らないそれが優良生徒の定石だ。僕達だけの問題じゃないんだよ、これは大人の問題だ」
「優良生徒は契約する時点で見せかけだけの契約を侵入する学校とする。見せかけだけの契約が良くないのは高校生の私達でも良くないのはわかりますよね? お金の問題も絡んでくるのです」
馬鹿な私にはよくわかりませんが。と葉月ちゃんはつけたした。馬鹿な僕に対する悪口に違いない。
あんまり重苦しい話は好きじゃないんだけどこればっかりはどうしようもならないしな……。其柯柚樹はここに残りたがっていて、葉月ちゃんは其柯柚樹を勝者として返すのではなく強制送還させようとしているのもわかる。僕は勝ったんだから勝者として元の学校に帰れば良いと思っているけれどもそんなことを言ったら後で葉月ちゃんに責められそうである。それはちょっと怖い。まあ、其柯柚樹がここに残れる可能性はほぼ零パーセントなので其柯柚樹的には勝者として帰った方が良いのは言わなくてもわかるだろうし、僕は無駄なことに口を挟まない方が良さげだ。
「私は………」
「其柯」
「柚樹って呼びなさいっていったでしょう? 夜月君」
「ごめん、って理不尽じゃないか? 俺は柚樹って呼び捨てしなくちゃいけなくてなんでお前は君をつけて呼んでるんだ? 夜月って呼べよ」
「嫌よ」
「嫌なんですか!」
「嫌に決まってるじゃない」
「決まってるんですか!」
「煩いわよ」
「あ、はい、すみません」
そういっていずきは其柯柚樹に頭を下げた。いずきはいつかに其柯柚樹とはそこまで仲良くないといっていた気がするが、これはかなりの仲良しに含まれるんじゃないのか? まるでカップルみたいな会話である。
僕とは熟年老人夫婦の癖して若い子に浮気をするとはよろしくない輩だ。
「……………『お前が生きている意味はちゃんとある』夜月君、貴方が言ったのよね」
「ん……ああ」
いずきが少しだけ照れたような顔をした。僕がいない間にそんな恥ずかしいことを言っていたのか、流石いずき。そんなところがいずきらしい。
「付き合いましょう」
「え?」
「結婚前提に付き合いましょう」
「「えぇ?」」
そんな其柯柚樹の言葉をきいて、僕といずきの声がハモった。なんだこの流れ、ぶっ飛びすぎじゃないか………? いずきが告白されてるのは見たことないでもないけど、これは余りにも急じゃないか? 今まで、いずきに告白をしてきた女子たちはなぜか一度僕のところに来て「夜月と付き合ってもいいですか?」みたいなことをきいてきていたが……そういえばあれはなんだったんだろう。
「拒否権はないわよ」其柯柚樹は真顔でいった。「流石にこのままここの高校にいられないのはわかる。我儘は言っていられないのもわかるわ。だけど、神無月高校に戻ってしまったらすべてリセットされてやり直し……そんなの―――」
「良いんじゃないですか?」
葉月ちゃんは笑顔で付き合ってしまえばいいじゃないですか、おもしろいですし。と言った。
「でも」
「別に優良生徒が他校の生徒と恋人関係になってはいけないという規定はありませんし、第一私にはどうでもいいです。其柯柚樹さんがこのまま自分の学校に帰ってくださるのなら」
そういって葉月ちゃんは其柯柚樹の方をみてにこりと優しげな笑みを浮かべた。其柯柚樹はその笑顔に非常に曖昧な表情を返す。
そして先ほどからいずきの目線と言う名のSOSを受け取っているのだが僕はスルー。其柯柚樹の恋愛沙汰に僕を巻き込まないでくれ。自分の事ぐらい自分で決めるのがいずきだろう? 僕はそう信じてる。驚きはしたけれど其柯柚樹がいずきに好意を抱いていたのは見ていてわかったし、いずきも嫌っていないことぐらいわかる。何でいずきが悩んでいるのか、困っているのかも何となくわかる、がこれは僕がどうこう言える物じゃない。静観をすべきだと馬鹿な僕でもわかる。
「俺は―――――」
いずきは何かを言った。
八月 〆切
皆さんお付き合い頂きありがとうございます。
これからも頑張って参りますので宜しくお願い致します




