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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
8月
35/49

〆 下弦夜月

 満月と俺は其柯の後を少々ルール違反であろう方法で追いかけていた。俺にはよくわからないが其柯の携帯電話だかなんだかから発せられる電波の場所をサーチして大体の場所にあたりをつけてその周辺を校舎の四階から双眼鏡で探す、と。俺にはよくわからないので満月がダルそうに説明したのを適当に解釈しているだけだが。


「あの、葉月とかいうやつ」パソコンをひたすらやっていた満月が口を開いた。「雛と慣れ慣れしくしないでほしいですの」


 大分イラついた声である。まあ、満月は「満月の雛ですの」って言っているレベルで雛を自分のものだと思っている節があるからな。葉月ちゃんとかいうよく知らない人物と雛が仲良くしていたら気にくわない筈である。


「なんだ、嫉妬か?」


「嫉妬なんかじゃないですの」


 そういって満月は体育座りをして顔を足の間に沈めた。女の子なんだから、もっときちんと座っていてほしい。女子力に欠ける座り方である。

 俺はそんな満月を無視して、双眼鏡で其柯の姿を追う。其柯は人混みの中、緩く上手く人を避けて前に進んでいる。さっきから適当に動き回って買い食いをしている様子だが、なにもしないのだろうか? 俺としてはこのままなにもしてくれない方が、嬉しいのだが。いや、それでも優良生徒と半ば分かってしまっているような物なのでこのままこの学校にいさせるわけにはいかないのだろうから、なにもしなくても其柯はこの学校にはもういられない……。


「あぁぁあですの!」


「あぁぁあ!?」


 満月の叫び声に触発されて俺も叫んでしまった。ただの頭がおかしい二人組である。俺は周りに誰もいない事を確認して(なぜか、双眼鏡の向こうの人たちがこちらを向いていないかも確認した)ため息をついた。


「葉月高校の監視カメラを乗っとれば楽ですのよね。ふふ、忘れていたですの」


「…………バレなきゃいいんじゃね」


 学級の副とはいえ代表の役目としてはこの言葉はあまりよろしくないかもしれないがまあ、良い。満月だったらきっとバレないであろうし、バレたとしても満月なら上手くやるであろう。満月は鞄から家でよく使っているパソコンを取り出して楽しげにガチャガチャといじり始めた。俺は其柯の後を追わなくてはならないのできちんとみることは出来ないけれど多分、法律から免れなかった悪事とやらをやっているのだと思われる。


「雛に、満月好きだ愛してるって言われてみたいですの」


「百パーないな」


「じゃあ、夜兄で我慢するですの。満月好きだ愛してるっていってくださいですの」


「満月好きだ、愛してる」


「棒読みありがとうです―――――」


 満月が「の」をいうか言わないかの瞬間に教室のドアが急に大きな音をたてて空いた。俺と満月はほぼ同時に振り向き、ドアの方をみる。


「ずるいぜ!」


「半月」


「半姉」


 俺と満月はそれぞれの呼び方で侵入者の名前を呼んだ。侵入者の名は下弦半月。驚いたことにそいつは俺の妹であり満月の姉らしい。おかしいな、こいつは三日前に地下に監禁した筈なのに。


「二人で密室…! なんて淫靡なのだ! くぅぅう! 羨ましいぞ、羨ましすぎて逆立ちをしてしまいそうだぞ!」


「お前のお花畑思考回路が羨ましいよ」


 そういって俺は立ち上がり半月の方へと歩いていった。満月はどうやら完全にシカトをすることにきめたようである。適応が大分早くて俺が置いていかれた感があるのだが、まあいい。どうやら、半月の相手をしなくてはならないらしい。


「おい、夜兄」


「なんだよ」


「半月好きだ、愛してるって言ってくれ!」


「半月好キダ愛シテル」


 棒読み具合が極まって、電報みたいになってしまった。まるで昔の日本である。


「棒読みに心がぞくぞくするぜ」


「しねえよ。それになんだお前、昨日俺が監禁した筈じゃねぇかよ、なんでここにいるんだ?」


「夜兄の監禁は中々見られない方法で楽しめたのだが、家に満月がいないとなると行くしかないだろう? 愛しの処妹がいないのだ、いくだろう? 私は、姉だからな!」


「理由がちょっと理解できない」


 半月のノリが良くてまるで俺が半月を監禁してからここに来たようになっているが、昨日は普通に妹と風呂に入って夜にちょっとだけ半月を嬲ってから何事もなく寝た。そして、朝は普通に起きて普通に朝御飯を食べて雛を迎えにいっただけである。監禁なんかしていない。

 ところで、嬲るって字大分すごいことになってるよな。男、女、男だぜ? 現代社会では女男女で男が嬲られるというのに。漢字は不思議なものである。何を考えてこの漢字を作ったのであろうか? いや、何を考えていたかは予想できないこともないんだけど。


「あ、そうだ、夜兄と満月」


 そう言って半月はさっきから持っていたのであろうわたあめの袋を取り出してこちらにつきだした。満月は完全無視を決め込んでいるようなので俺はわたあめを受けとる。


「三人で食べようぜ」


「ん、ありがとう、半月」


 そういえば、半月と満月って一緒に来る予定だったんだっけ? つまり、満月が勝手に単独行動をして一人で行ってしまったから半月は一人で来た、と。それなら昨日腹に筋肉がない俺らが腹を割って話した通り、半月は文化祭に来てほしくなかったのだが……。満月も半月も来てほしくなかった。この人なら大丈夫、と思える人間は姉しかいないのがこの俺である。


「満月も食べるですの」


 満月はパソコンをがしゃがしゃやりながら呟いた。


「ん」


 俺はそう返事をして満月の方に寄って行って座った。……おっと中学の時の癖が出てしまった、委員長らしからずな座りかたである。半月が隣にうんこうんこいいながら同じような座りかたをしてきたため、(スカートなので満月からはもろパンツだろう)俺はため息をついてから座りかたを変えたが、半月の座りかたは変わらなかった。……おい。

 まあ、いいか、身内だし。

 不快な思いをするのは満月だけである。もう俺はなにも知らない、知らない。俺はとりあえず半月の戦利品(わたあめ)の袋をあけて棒をつかんで中身を取り出した。なんだか、最近祭りに行ってもわたあめとか買っていなかったから懐かしい感じがする。

 俺はわたあめを少しちぎって食べることにした。ああ、こんな味だったような気がするな。砂糖百パーセントの味である。ついでに満月にも食わせてやった。


「ほれ、あーんだ、喜べ」


「…………」


 満月は無視して食べた。いや、手が汚れるの嫌ですの、とか言いそうだったから食わせてやったのだが。まあ、関係無いのに色々と満月は頑張ってるからな、それぐらいはしてやろう。


「夜兄、夜兄」


「なんだ、半月」


 半月はなぜか口を開いて俺の方を見ている。なんだ? アホ面を俺に見せたいのか?


「あーん」


「自分で食え」


「やーん」


「…………………」


 俺は、満月に習ってとりあえず、半月を無視して黙々とわたあめを食べる事に決めた。わたあめって何で作るんだっけ? あー……とあれか、茶色いやつ。粗目とかいうあれか。なんで茶色いものが白くなるんだろうか? いや、わからないこともないのだけど説明しろとか言われても出来ない。


「夜兄」満月はパソコン画面を見つめながら呟いた。「雛に連絡ですの」


「雛?」


 俺はそういって、満月がみている監視カメラの映像であろうものをみる。その映像は。


「其柯柚樹が人―――」


 俺は満月の話を最後まで聞かないで携帯のロックを解除しつつ教室から飛び出して走る。さっき満月からきいた雛の番号を入力し、電話をかけるとワンコールで出た。


「雛、其柯が」


『いずき?』


「いずきじゃない、夜月だ……」


『ご用件は?』


「其柯が人を殺そうとしてる――――!」


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