〆 月籠雛
「葉月ちゃん」
僕は葉月ちゃんにそう、声をかけた。僕的にはさっきから屋台を回っているだけで会話がない空気に耐えられない。それに、男女二人で歩いている性かチラチラ視線を感じる。其柯柚樹を追いかけているだけな筈なのに、なんでこんなに疲れるんだろう。気づけば周りはもう暗いし。全く、一日っていうものは忙しないし短いから困る。
「なんですか」
葉月ちゃんはそう言いながら其柯柚樹が曲がっていった角を人を綺麗に避けながら進む。僕もそれについていく。
「さっき買ったたこ焼とかどうすればいいの?」
「……ああ」
葉月ちゃんは忘れていたかのように呟いた。買った、といってもクラスに一人一枚配られる無料券みたいなものを使ったのだが。僕はクラスのやつに全く参加していないので貰っていないが、葉月ちゃんはなぜか束で持ってきた。優良生徒の権力らしき何かを乱用したのであろう。
「では、私達はこの辺で一旦休みましょうか。其柯柚樹を追うのは夜月先輩に任せて」
「んー、そうだね」
僕が同意したのをみると、葉月ちゃんは携帯電話を取り出して電話をかけた。最初の一言が「夜月先輩ですか?」だったので多分、いずきの電話にかけたのであろう。暫く喋った後に「何かあったら行動するより連絡を下さいっていう顔をしてますよ。ポピー先輩が」と言って電話をポケットにそつなくしまった。
「夜月先輩方はどうやら其柯柚樹が見える位置にいるそうなので、私達はここで休んでも大丈夫ですよ」
「そりゃありがたいね。でも一応、其柯柚樹が見えている間はゆっくりのペースで追いかけよう」
「わかりました」
葉月ちゃんはそういって、僕の手にあったビニール袋を一つ取り上げて、中身を取りだしたこ焼を食べながら前に進み始めた。いいな、僕も食べたいんだけど。とか思いつつ僕は葉月ちゃんの後を追いかける。
「ポピー先輩食べます?」
葉月ちゃんは不意にそう言った。
「え?」
「たこ焼」
「歩きながら食べるとか猿が自転車に乗るぐらい不可能だよ」
「やればできそうですけどね」
そういって葉月ちゃんは立ち止まって串に刺したたこ焼を僕の方に向けた。僕は事が理解できずに首を傾げる。
「早く食べないと落ちますよ」
その一言でやっと僕は理解した。しかし、片手は松葉杖片手はビニール袋のため手で受けとる事は困難である。間接キスとかそういうのはどうでもいいとして(良くないか)ここで、俗にいうあーんをやる勇気とかない。いや、いずきとだったら何も考えずに食べさせてもらった、と理解できるんだけど。
僕といずきは老人夫婦並みに安定した関係だからな。多分、もう喧嘩とかしない。
「後で食べる」
「あれ、食べないんですか?」
「いや、食べるけど。今は―――」
僕が喋っている途中で葉月ちゃんは無理矢理たこ焼を僕の口に突っ込んだ。あ、たこ焼おいしい…………。じゃなくて、一口で食べるには無理があるサイズだが一口で無理に食べさせられた。ここで死んだら多分、葉月ちゃんの性で窒息死である。幸い、少し冷めていたので火傷の危険性はないだろうけれど。
僕がもしゃもしゃ食べている間に葉月ちゃんは少し周りを見渡した。僕がそれについていくと葉月ちゃんは首を横に振る。
見失ったのであろう。そりゃそうだ、あんなに立ち止まってて見失わない訳がわからない。それにこんな人混みである。探し出すのは困難を極めるであろう。というか僕、人混みのなかで食べさせてもらった、否、無理矢理食べさせられたのか。よくやるよ、うん。
「座れる場所に行こうか」
「ほーれすね」
葉月ちゃんはたこ焼を食べながら不明瞭な言葉を発した。
僕は適当に座れそうな場所を探して座って、ビニール袋の中に入っていた物を取り出す。隣にたこ焼を頬張っている葉月ちゃんが座った。
「そういえば、葉月ちゃん」
「なんでしょう?」
僕は、割り箸を割った。割り箸はうまく割れずに変なところで割けた。
「葉月ちゃんってどうして優良生徒になったの?」




