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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
8月
33/49

〆 下弦夜月


「満月!?」


 俺はクラスメイトがいることを気にせずに叫んでしまった。柄にもなくではないだろうが珍しい行為であろう。中学の時なら、まあ……だけど。


「おにーたん、やっほーですの」


 満月はそんなふざけたことをいいながら教室の扉で緩く手を降った。教室の反応を楽しんでいるみたいだ。……まあ、満月はかわいいから(それに下弦家は金髪青目だ。珍しいに違いない)騒がれるだろうけど。


「妹?」


 と、隣に座っていた粗蕋が質問を投げ掛けてきた。質問を投げ掛けてきたのにも関わらず興味がなさそうだが。


「妹だ、けど」


 俺は立ち上がって満月の方にずがずかと歩いていった。そして、満月の目の前で止まる。後ろには雛がいた。ほほう? サボったとはきいていたがまさか満月を連れてくるとは思ってなかったぜ。


「いずき、悪いけど教室にいていいかな」


 雛はスススと俺の方に近寄ってきた。どんな動きをしてるんだ、気持ち悪いな。


「………クラスメイトは?」


「葉月ちゃんに会いたくないんだよ。満月ちゃんは切り札であってほしい」


「……………」


 確かに、満月は情報源だが。

 葉月ちゃんに情報源が満月だとバレたら俺達の切り札が無くなるし、葉月ちゃんは多分満月を無理にでも利用するに違いない。それは………困るが。


「でも、雛」


「ふっ」


「なんだその笑い。何勝ち誇ってんだよ、何にも勝ってねえよ」


「ふははは」


「なんだその棒読み加減、お前絶対演劇部になれないな」


「くっ、ふふふ―――ははは、はーはっはっはっは!」


「どうしよう、ちょっとうまい。お前、演劇部になれるぞ」


 因みに今のは悪役笑いのよくある三段階笑いとか言うやつである。そして雛、お前、クラスメイトから生暖かい目で見られてるの知ってるか? あれだ、慈悲の目だぜあれ。


「じゃなくて、雛」


「煩いな、黙れよ」


「お前が黙れよ。あのさ、どうせこの後葉月ちゃんと合流するんだから今隠れてても意味ないだろ」


「あ」


 雛は思い出したかのように呟いた。いや、まさかさすがの雛でも覚えていたと思っていたのだが……。あれだ、雛は鶏だ。朝、コケコッコーと鳴けばよろしい。


「いずき、僕がそんな誰でも覚えていることを記憶からすっぽり無くしていた訳無いじゃないか。僕一人で行動していたときに葉月ちゃんにあった方が危ないだろう? だから、いずきと行動を共にするのが一番だと考えたわけだ。いずき、こんなことも解らないなんて君の頭は鳥頭かい? 鶏ガラスープにして食べられてしまうよ?」


「聞き苦しい言い訳はやめろ」


 そして、それに便乗して俺をバカにするのもやめろ。

 ふうむ、だがしかし、雛と満月だけで行動していたら確かに雛がへまをして満月がうまくやっていても葉月ちゃんに満月が情報源だとバレてしまうかもしれない。それにあれだ、満月だけだったら葉月ちゃんに飄々と嘯いて案外うまくいくかもしれない。雛が喋らないように俺がうまくやれば満月を文化祭に同行させることは可能………。じゃないのか。其柯に俺達を標的にして貰うために俺達が固まって行動しているのに、それじゃあ、満月も標的になってしまう。


「夜兄」満月は俺と雛の間に割り込んできた。「少々的はずれな考えを持っているみたいですの、けど、よく考えてみればわかる筈ですのよ?」


「は?」


「其柯柚樹の目当てはあくまで学校潰し。つまりですの、夜兄達が集まっていても馬鹿だなぁと思う程度で、夜兄達がいないところでじゃんじゃん任務を済ませるだけですのよ? 其柯柚樹はあんたたちと戦いたい訳じゃない。それぐらいわかる筈ですのよ?」


 小説じゃないんですのからそんな簡単に戦いを挑みに来るわけねぇですの。と、満月は言った。

 少し口調が乱れているが……その通りか。其柯はあくまで俺達と敵対をしようとしているわけではない、寧ろ、絡まれたから仕方なく、本当に仕方なく攻撃したという感じである。俺と其柯自体はそれなりに仲良し(別にそこまでではないが)だ。それに、其柯は多分この学校が好きだ。クラスの皆とか大好きな筈である。


「勘違いしてたのは俺だけか」


「寒天食べたいのは俺だけか?」


「何があったらそう聞こえるんだよ。……いいよ、とりあえずは先生くるまで満月はここにいていい」


「流石夜兄ですの!」


「なんだその演技かかった声」


 もしかしたら俺の回りには演劇部しかいないのかもしれない。おかしいな俺の回りのやつらはほぼ無所属、つまり帰宅部の筈なんだが。

 そんなことはどうでもよくて、そうなると今後の動きを考えなければならなくなるのか。俺らが一ヶ所に集まっていたら良い的(別の意味で)になるだけである。が、俺の単独行動はあまりにも心もとなさ過ぎる。一緒に行動をするならば雛であろう。だが、葉月ちゃんに満月を預けるわけにはいかない。だからといって俺が葉月ちゃんと行動するのは先月の一件の通り、あれである。


「いずき」


「ん?」


 急に雛に話しかけられた。


「考えるのはいいけど場所を考えようよ。せめて席に座るべきだよん」


「……そうだな」


 雛の意見に共感した俺はクラスメイトに満月が早く来てしまったので暫くここにいていいだろうか? みたいなことを告げて了解を得て、満月の手を引いて粗蕋が前に座っている己の席に座った。あ、雛の席つくってやんねーと。


「いいよ、机に座るから」


「危なくないか?」


「ちょっと危険な男になりたいんだ!」


「大丈夫だ。今の時点で別の意味でだが危険な男になれてるぞ」


「え? 本当?」


「別に意味で」


 雛は特に不自然な動きもなく机に着席した。……まあ、雛は松葉杖の癖にアクロバティックな所があるからな。多分、常人より危険なことをしでかす。自分を顧みてなさずきの月籠雛君である。

 満月と粗蕋が談笑をしているのをみてから俺は自分の考えに入ることにした。粗蕋なら別に満月が変なこといってもスルーしてくれるだろう。

 えーと、あれだ。全員が固まって練り歩くのは無理だけれどもだからといって二人組を作るわけにはいかない、と。それにこの後、満月は半月と合流する筈である。余計、葉月ちゃんに会わせるわけにはいかない訳だ。なら、いっそ全員で行動して其柯をストーカーするとか?


「そういえば、スニーカーてストーカーから来てるらしいよ。歩いてもスニークだからストーカーに適した靴。スニーカーってね」


 満月との談笑に一段落ついたらしい粗蕋がそう言ってきた。


「そうなのか?」


「嘘」


「ほほう、とうとう粗蕋までそんな態度をとるようになりやがったか」俺はそう言って粗蕋の足を蹴っておいた。ほら、喜べ。「蹴られて嬉しいです、ありがこうございました。夜月様って言えよ」


「ありがとうございます!!」


「逆に怖い!?」


 粗蕋がこんなにノリがいいキャラクターだと思ってなかった。じゃなくて、葉月ちゃんと集合した後の事を考えなければ。

 全員でストーカーするとなると俺はクラス委員としての仕事を全てサボらなければならなくなるだろう。やるべき仕事しかやらない粗蕋委員長に全て任していいのかと言われれば良くないんだけど。他に頼れるやついたっけ? 俺のクラス。


「粗蕋」


「何? いずき」


 今のは雛が返事したのでスルーしてもう一度。雛、お前は粗蕋抄夜なのか?


「粗蕋」


「うん?」


「今日、クラス委員としての仕事きちんとやるよな」


「クラス委員としての仕事しかしないけどね」


「クラスの生徒としてもちゃんと動いてほしいんだが」


「無理。そもそも僕、色々作ってきたんだからもう働かなくていいの。ピザまんあげるから許してくれよ」


「抄夜ちゃん、僕が許してあげる。だからピザまん」


「ピザまんのためだけに動くなよ、雛」


 さっきから地味に話がずれている気がする。何でだ? あ、そもそもクラスの事を考えるべきではないのか? クラス自体、俺がいなくても運営は普通に出来るだろうし。つまり、そんなことより其柯の事を考えなければ………。こっちをちゃんとやらないと最悪、文化祭自体が終わってしまう。


「どうしたらいいと思う? 雛」


「嫌だな、いずき。僕にきくなんて、大分切羽詰まってる感じかい? 頑張れ、応援だけはしてあげるよ。頑張れ、いずき」


「さっきから話がふざけた方向に進むと思ったらお前の性か」


「なんだそれ、僕じゃないわけがないじゃん」


「茶番」


「チャーハン? 食べたいの? 僕は、葉月ちゃんと僕のチームと、夜月と満月ちゃんのチームでいいと思うけどな」


「でも、それだと戦力が――」


「あ! ですの!」無理矢理ですのをつけて満月が急に立ち上がった。「雛の携帯電話!」


 携帯電話?

 雛、携帯電話何て言う文明の利器なんて持ってたっけ? とか、考えていたら満月が鞄から携帯電話を取り出してがちゃがちゃやりはじめた。綺麗なのでたぶん新品であろう。……葉月ちゃんに貰ったという可能性が高いな。それで満月が都合のよいように設定を書き換える、と。

 多分、学舎占争に縛られない程度に自由にケータイを使えるようになると思われる。ただし満月の好きなように改造されるだろうが。


「で、いずき。戦力が偏ったとしても攻撃と防御に別れればいいだけの話だよ。満月ちゃんをわざわざ危険なところにつれていく必要なんかない」


「そうか……?」


「いずきたちは遠くから僕らに情報を飛ばしてくれればいいんだよ。その方が、あんちゅうもさくするより段取りがうまくいくと思う」


「暗中模索な」


「安置模作?」


「なんだそのパクリものを表現するような物。後、自分がいった言葉にボケるな」


「あれだよいずき、僕達が前衛でいずき達が後衛。いい案だと思うけど」


「ふうむ」


 そう言われると戦力が偏っていてもいいような気がしてきた。俺や満月がいても役にたたないどころか迷惑をかけてしまう。それならば裏方に徹した方が良いのではないだろうか? 例え雛が俺とか満月を前線に来ないようにこの作戦を述べているのだとしても、だ。

 それに、俺はあまり自由に動けない立場にあるし……。いや、委員会の仕事は半分以上は忘れてたことにするつもりだし、クラスのやつは委員会が忙しいから、という理由で仕事を大分減らして貰っている。でも、雛みたいに自由に動いてて緩い笑顔で許されるほどクラスで甘やかされている立場ではない。寧ろ、甘やかされている雛の世話役みたいのに勝手に設定されているのが俺だ。親役だ。雛の親鳥である。なぜ、雛が変なことしているとクラスメイトから俺が「おいおい、しっかりしてくれよ」みたいな目で見られなければいけないんだよ。よくよく考えれば中学の時からそんな感じの立場にいた気がする。


「雛、電話ですのよ」


 満月がさっきからガチャガチャやっていた携帯電話を雛に画面を向けてずいっと見せるようにした。


「で、電話なのに何も鳴ってない………よ!?」


「マナーモードですのよ」


「マナーってあれだろ、礼儀。行儀。作法。っていうめんどくさそうな言葉が並んでるやつでしょ。なんでそんなのが文明の利器に………。もしかして、マナーモードじゃなくて真名モード? 真の力が目覚める的なあれなの?」


「なんで厨二病要素が携帯電話に入ってんだよ」


 雛は恐る恐る携帯電話を満月から受け取って挙動不審気味にボタンを押そうとして戸惑い、そして動きが停止した。どうやらどうやって電話に出れば良いのかわからないらしい。俺は電話に出るボタンを横から押してやった。

 因みに雛が携帯電話を耳に当ててはじめて発した言葉は「こんにちは」である。相手は大分戸惑ったことであろう。雛は挙動不審気味に会話した末に(会話の一部始終は「あ、はい。わかりました。そうですね。わかりました。今すぐですね。はい」といった感じだった。なぜ、敬語。先輩にも敬語が使えないやつなのに)急にバァァアアン!! という大きな音を鳴らして携帯を閉じた。扱いなれていなさすぎる。


「なんか僕、葉月ちゃんに呼び出されたからいくね」


「ああ、葉月ちゃんだったんだ」


「うん」


 電話の向こうで雛の戸惑い具合に戸惑った人は葉月ちゃんだったみたいだ。まあ、携帯電話を雛に与えたのは彼女なんだからそれぐらいは理解してもらわないと。


「雛」満月は机から降りようとしている雛の前を邪魔するように立ち上がり言った。「携帯電話を片手にずっと持っているですのよ。満月か夜兄から連絡が来ればバイブ………携帯電話がブルブル震える筈ですの」


「わかった」


 雛はそう頷いて机から降りようとするが満月がいて降りれない。暫く困ったように動いた末に体の方向を変えれば降りれることに気づき、机から降りて立ち上がった。まあ、立ち上がったといっても松葉杖に支えられてだが。雛は携帯電話を持ったまま左手で敬礼してからひょっこひょっこと教室から出ていった。

 左手で敬礼とか最低じゃないか。


「副委員長」


「なんだ? 粗蕋」


「雛ちゃんが言ってたさっきの作戦? あきらかに君たちを庇ってるけど君達はそれを理解した上であの作戦でいいって言ってるんだよね?」


 粗蕋は頬杖をついたまま俺と満月を交互にみた。俺と満月は顔を合わせる。


「「わかってる」ですの」


「あっそ」粗蕋は笑顔になった。「人生、後悔しないでね」


「勿論だぜ」


 その会話をした直後、教室に先生が入ってきた。各々が席につき始める。俺は満月を引っ張ってすみに座らせた。先生にバレなきゃいいが……。というかバレたらどうしたらいいんだ? これなら最初から先生に満月がいることを伝えた方が良かったのかもしれない。


「雛、変わったですの」


 先生が何か話しているとき、満月は小声でぼそっと呟いた。


「そうか?」


「あんな暗い目をする雛じゃなかった」


「…………………ふーん」


 俺は気がないように返事をして先生の話に集中することにした。


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