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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
8月
32/49

〆 月籠雛

 僕は何度かテストで漢字を書くとき、自分の名前が月以外平仮名にならないかと思ったことがある。籠も雛も画数が多い。馬鹿な僕には両方画数なんか分からないけれど、そこらの人よりは遥かに書く量が多いのはわかる。僕は、基本母親のことが好きだけど唯一恨むとしたら名前であろう。せめて、雛は平仮名でよかった。というか、平仮名が主流だろう。僕自身、雛という名前の人にあったことがないけれど、自分の名前の画数が多くて困っている人物は一度だけ出会ったことがある。それは中学の時の話であり、今はどこにいるかもわからないので関係のない話なのだけど。

 それは、さておき。

 本日は文化祭である。

 葉月高校の特色上(祭り風で夜が一番の山場)ほとんどのクラスが外で販売などをする。これでぶっ倒れない人がいないのは不思議なのだが、なんと驚いたことにここ数年で倒れた人がいないのだとか。まあ、そんな情報学舎占争参加校が言ったところで嘘か本当か半々と言った所なんだけど、まあ、大きな事故は今までなかったのは事実であろう。事故は大きくなれば大きくなるほど隠蔽が難しくなるものだから。


「で、君は」屋台の準備をサボって正門のところに座ろうと思って正門の方に逃げるように行ったら、いた少女に話しかけた。「こんな早朝にどうしてここにいるのかな」


「ですの」


 その子―――下弦満月、満月ちゃんは僕の顔をみて満面の笑みを浮かべた。輝くような笑顔である。


「おはようですの! 雛!」


 そういいながら満月ちゃんは走って駆け寄ってきて僕の胸にダイブした。僕は危なくバランスを崩すが片手に持っていた松橋杖を駆使してどうにか倒れないようにする。


「おはよう、満月ちゃん」


 僕はそういって満月ちゃんの頭をぽんぽんと二回叩いた。そうすると満月ちゃんは嬉しげにえへへぇと笑う。………しかしまあ、また、満月ちゃんのキャラが変わっている。「~じゃねぇーの?」みたいなキャラは大分前に終わりを告げたらしい。

 でも、考えてみれば満月ちゃんは元からどちらかと言えば可愛らしい顔をしていたので今のこのキャラが似合っている。………それにしても「ですの」か、そんなキャラの人現実にいるとは思ってなかった。いや、満月ちゃんだからこそ出来る無理なキャラクターなのだろう。


「で、だ。満月ちゃん」


「なんですの?」


「文化祭はまだ始まっていないけど………と、いうかまだしばらく始まらないけど」


「夜兄について来たら早くなっちゃったですのよ」


「早くなっちゃったのかー」


 しかしまあ、大分早いぞ。

 アイドルの出待ちだってこんなに早くからいないであろう。そもそも、葉月高校の文化祭は何度も言うようだが夜からが本番なので朝はあまり人が来ない。らしい。僕も近所に住んでいるため何回か行ったことはあるけど、どうやら葉月高校の文化祭は夏祭りと同じようなものと考えられている節があったような気がする。


「じゃあ、午前中はいずきと一緒にいた方がいいのかな」


「そうですの?」


「ん」


 いや、駄目か。

 昨日、其柯柚樹と挨拶を交わしたからにはいずきも僕も大分警戒されているであろう。いつ、攻撃されるかわかったもんじゃない。とりあえず文化祭は僕らで固まってよう、みたいな話に葉月ちゃんといずきはなったみたいだけど(仲が良いね)それはある意味、的になる為であり満月ちゃんとか半月ちゃんをあまり近寄らせるのはあまりにも危ない。

 満月ちゃんは学舎占争の事を余裕で知っているだろうから、というか僕より知っているであろうから其柯柚樹の情報を教えてくれ、といわれた時になんとなく察しているであろう。けど。


「雛は夜兄と一緒にいるのですのよね?」


「ん? うん」


「じゃあ満月、一緒にいるですの」


「ん? いや、前言撤回するみたいで悪いけれどやっぱり危ないかな……って」


「それはそれ、これはこれですのよ? 雛。満月なら心配してくれなくてもいいですの。危なくなったら逃げるぐらいの脳味噌は備わってるですの」


「でも」


「黙れですのよ。満月が雛と一緒にいたいと言ってるだけですの。意地でもついてくですの」


 満月ちゃんが言葉をいっている途中に僕はわかりやすくため息をついた。

 こりゃ駄目だ。いずきとか葉月ちゃんとかみたいに説得力がある台詞をのべられるほど僕には言語能力が備わってない。馬鹿なのだ。つまり、僕の力では満月ちゃんを止められる可能性はないに等しい。ならば、受け入れてしまった方がいいのか……? それできちんと逃げるように忠告すれば。


「…わかったよ、満月ちゃん」


「ため息混じりじゃ困るですの」


「わかった。満月ちゃん。元は僕が言い出したことだし承諾する。ただし、危険だと思ったら守られようとか思わないで逃げて」


「わかってるですのよ。守られようとか考えている仲間ほど邪魔なものはないですものね?」


 そういって満月ちゃんは意地悪げな笑顔を僕に見せた。

 それが何となく。いずきの事なような気がしたのは、きっと忘れた方がいい感情なんだろう。いずきを少なからず頼っている僕にそんな我が儘を言う資格なんてない筈である。いずきが本当に迷惑ならば切り捨てている。………のかな。ちょっと考えたくない。この考え自体を一旦忘却しよう。


「で、満月ちゃん」何をいうか深く考えないうちから話をふった。「えーと……どこまで知ってるのかな?」


「全部知ってるですの。満月が知らないことなんてないですの」


「見栄張らなくていいから」


「じゃあ、何も知らないですの。満月が知っていることなんてないですの」


「極端」


 僕がそういうと満月ちゃんは非常にイラついたような顔をした後に「じゃ、何て言えばいいんだよ」と呟いた。どうやら以前のキャラが抜けていないようである。

 あ、でもそうか。この話を正門でするのは危なすぎる。


「半月ちゃんは来てないの?」


「まだ家ですの。多分、もうすぐで来ると思うですのけれど」


「そっか」


 じゃあ、どうしよう。行動力がある半月ちゃんが迷子になるとは思えないけど…先に移動しちゃ駄目かな。いやでも、満月ちゃんは待ち合わせをしているそぶりをしてないし。いいのかな? 寧ろ僕達のそばにいない方が良いんだから良いのか。あ、そう、あれ、携帯電話とかいう便利な機械もあるんだしさ。

 そういえば、僕の携帯電話はどうしたんだろうか? 確か、ズボンのポケットにズボーンと入れたのが最後の記憶なんだけど。僕は、ズボンのポケットに手を入れて中身を漁った。右手が固い四角いものに触れたので取り出してみたらそれは携帯電話だった。ああ、放置してたのか。


「見せてくださいですの」


「ん?」


「雛の所有物であって雛の物じゃないのですのよね? 満月が逆探して雛の場所を調べてる野郎を暴き出してやるですの」


「調べてるとは限らないけどね」僕はそう言って満月ちゃんに携帯電話を渡した。「じゃあ、よろしく頼むよ。僕じゃあ何もわかんないから。でも」


「でも?」


「ここじゃ暑いからいずきがいる所まで移動しよう。多分、校舎内にいるから。外よりは涼しいと思うよ」


「わかったですの」


 そう言って満月ちゃんは携帯電話をさっきから肩に背負っていた大きなバッグに丁寧に入れた。多分、そのバッグにはパソコンが入っているのであろう。満月ちゃんは携帯電話依存症ならぬパソコン依存症なのである。いや、満月ちゃんがパソコンをやっているのには意味があってその意味のためにちょうどいいのがパソコンだから利用しているだけ、そんな感じがする。パソコンがない時代だったらパソコンを使わないでも同じような事をしていただろうし、パソコン以上のものを見つけたら何の感傷もなくパソコンを捨てるであろう。

 だから、満月ちゃんはパソコンに依存しているのではなく。

 知識に依存している。

 知識欲の話はよく耳にするが、満月ちゃんもその一人なのだろう。まあ、生きていく上で知識がある人物が上になるのだから人間が知識を知ろうとするのは(不思議な言葉になっちゃった)必然であった、と。


「雛?」


 満月ちゃんが近くによって話しかけてきた。近くといっても僕にとって心地よい距離以上は寄ってこない。僕を好いてくれているからこそわかる距離だろうか?


「あ、ごめん。無駄に頭よさげなことを考えてた」


「頭悪いと豪語している雛が何やってるのですの」


「豪語はしてないけどね」僕は松葉杖と足を駆使して方向を変えた。「じゃあ、行こうか。満月ちゃん」


「わかったですの」


 そろそろいずきに命令されて渋々行った屋台の準備も終わったであろう。つまり僕は、サボることに成功した。

 よし。


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