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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
8月
28/49

〆 月籠雛


「つまり」


 僕こと月籠雛は呟いた。

 早朝、と言っても日が出ている時間帯だが、朝早くに僕といずきは学校についていて、生徒の姿はどこにも見られない。学校があいていたと言うことは教師はいるんだろうけれど、それの姿も見受けられない。ふむ、この学校は呪われているのであろう。


「満月ちゃんと半月ちゃんが僕に命を捧げると言ったんだね」


「言ってねぇよ、言っても止めるわ。兄として止めるわ」


「あれ? じゃあ何? 僕にこれ以上つまらない話を聞かせないでくれよ、僕が溶けちまう」


「へー、それは大変だな。さっきから何度もいっているつまらない、というかなぜかお前に通じない話はこうだ、満月と半月が文化祭に来るんだって」


「ええ! 満月ちゃんと半月ちゃんが二人でデート!?」


「違ぇよ、なんでデートなんだよ……………って強ち間違えてないのか。二人で文化祭に来るんだからな」


「え? 文化祭?」


「そうだ、文化祭に奴等が来る」


「へぇ?」


 二人、つまりいずきシスターズが来ると言うことは僕にとって懐かしい再会をすることになる。懐かしい、といっても二年ぶりぐらいなんだけど、いや、懐かしいか。僕らぐらいの年齢で二年も会わなかったらもう二度と会わないであろうも同然だからな。

 そんなことよりも、文化祭。

 今日中になんか木みたいな名前をしている人(名前なんだっけ)をどうにかしないと、その二人を巻き込んでしまう可能性があるのか。僕はともかく、いずきの方が巻き込んでしまったとき、面倒くさそうである。


「満月は学校以外引きこもり同然だから来るつもりが無かったみたいだけどさ、半月が来るって駄々こねて」


「それでどうして、半月ちゃんはともかく満月ちゃんが来るのさ」


「いや、半月が満月に『雛に会えるチャンスだぜ』って言ってな」


「あー…………」


 それなら、満月ちゃんは来るかもしれない。実のところ、満月ちゃんが僕のことを好いてくれているのは流石に知っている。何て言うか、僕はどちらかというとそういうのは感じやすいタイプであって……まあ、性質ってやつである。多分。でも、僕はその好意に答えるつもりは毛頭ないが。僕なんかに恋愛とかそういうのはまだ早い。うん。目の前の色々なことに忙しすぎてそんな恋愛とかやってられない。

 僕は、いずきが持ってきたコンビニの袋の中から茶色の封筒、俗に言う茶封筒を取り出して中身をみる。


「………其柯柚樹、優良生徒」


 やはり、葉月ちゃんの情報に間違いは無かったようだ。

 満月ちゃんの調べによると学舎占争の優良生徒。神無月高校。……ん? 神無月って葉月高校より低いところにある学校じゃないっけ? 原則、自分の学校より上の学校には侵入しちゃダメだったような記憶があるんだけど、気のせいかな。そんなルールすら適応されないぐらいあんまりよろしくない学校なのだろうか? ……まあ、考えたって埒があかないでであろうから、この事はとりあえず棚上げにしておこう。とにかく、其柯柚樹がどこの優良生徒であろうと、葉月高校に侵入している限りは追い出さなければならない。


「あ、そうだ、雛」


「やだ」


「何も言ってないのに断らないでくれ、そのコンビニの袋に入ってると思うんだが満月がなんか食い物入れてたぞ」


「おにぎりかな?」


 そうきいて僕はコンビニの袋をもう一度、漁る。すると、予想通りパンが入っていた。予想通り。

 どうやらホームベーカリーで作ったパンのようである。ふむ、いずきの家にはホームベーカリーがあるのか。流石、中の上の裕福な家庭である。僕はサランラップに包まれているパンを取り出してくわえて、資料を詳しく見る。


「……むーん」


 パンをくわえているため、不明瞭になってしまった言葉を僕は呟いた。今のは、ふーん、と言ったつもりである。

 其柯柚樹、クラスは違うが同学年、一年生の時、学年最下位。中学時代に両親を無くしている。………その程度のことは学舎占争の優良生徒ならばまあ、その辺は当たり前であるが。しかし、無くしていると言っても両親は生きている、と。父親は失踪、母親は宗教団体の寮に住んでいるらしい。よくわからない。というか、そういうのはどうでもいいんだ。まだ紙には細かいことがたくさん書いてあるけれど、彼女を追い出す僕としては知らない方がいい情報ばかりである。


「其柯柚樹をどうするんだ? まさか弱味握って脅したりするわけじゃねぇよな?」


「………まひゃか」僕は会話をするためにパンを手に持つことにした。ついでに今のは、まさか、と言ったつもりである。「それをしたら犯罪だよ」


「じゃあ、どうするんだ?」


 いずきは首を傾げた。そして、僕から資料を取り上げて茶封筒にすべて戻してコンビニの袋のなかに戻した。必要な情報は記憶しておけ、ということであろう。満月ちゃんの証拠は残さないスタイルである。多分、紙にコピーしろといずきに言われたときも、嫌だ、と言ったのであろう。多分「夜兄ならこれぐらい全て覚えられるだろ? え? 馬鹿なのか? ばぁーか」ぐらいはいずきに言ったと思われる。

 閑話休題。


「優良生徒は原則として、侵入している学校の校章を持たないかわりに契約している学校の校章を持っている。僕の場合霜月高校にいたときから葉月高校の校章を持っていた、というわけさ。そーゆーのを他校章っていうんだけど」


「其柯柚樹は、神無月高校の校章を持っているというわけか?」


「金平糖」


「ご名答。間違えすぎて俺じゃなきゃわからねぇよ。金平糖食べたいのか?」

「食べたいね。僕、及び、いずきは其柯柚樹から他校章を奪って校長とかその辺にプレゼントすれば、其柯柚樹は敗者として元の学校に返される」


「大変な作業だな……。それを明日までだろ、難しくないか?」


「そう思ってさぁ」僕は笑顔でいった。「僕としては、殺すか学校にこれないぐらい傷つけようかと思――――」


「駄目だ、それは」


 いずきは、驚くほど真剣な表情で言った。うーん、冗談だったのに。おちょくりたくなっちゃうじゃないか。そんな風に、真面目に生きてたら疲れるだろうに。真面目だからこそ、中学のときは不真面目ぶっていたのだろうか? それは興味深い。


「どうして? 殺したとしても学舎占争の場合決定的な証拠が残らなければ事故ですまされるし、優良生徒に人権なんてないんだぜ? 遠回しに他校章なんか奪わなくても一日でぱぱーと楽々に終わらせられるんだよ。いずきシスターズを巻き込まなくてもすむんだよ?」


「……お前はそれでいいと思ってんのか?」


「いいと思ってるよ。学舎占争だもん、僕だって自分を散々犠牲にしてきた」


「それでも、人殺しとか、人を故意に傷つけるとか犯罪だろ。学舎占争なら許されてるとか、そういうのは関係なく、俺が許さない。お前がそっち側に行くつもりなら俺がお前を止める」


「僕は手っ取り早く解決される方法を述べただけだよ?」そろそろ、正義のいずき君がキレそうなのでおちょくるのはやめにすることにした。「というのは可愛い僕の冗談で、現実的には難しい」


「…………」


 いずきは無反応である。

 ちょっとばかりいずきで遊びすぎたかも知れない。ごめんよ、いずき。君が面白かったのがいけないんだよ。つまり、僕は悪くない。謝ってないね、僕。ああ、悪びれないってこういうことか。


「優良生徒だと言うことは、超能力とかそういう感じのものを僕とか葉月ちゃんみたいに持っている可能性が高い。だからといって、僕が其柯柚樹に向かっていったとしても僕は学舎占争の勝者として他の優良生徒には顔がわれているから警戒される。というか、話しかけた瞬間に殺されても別におかしくない」


「…………校章を奪うだけでいいんだよな?」


「ん? まあ」


「俺ならいけるんじゃないか?」


「駄目だ、それは」


「俺の言葉を引用してんじゃねぇよ」


 立場逆転と言うところだね。本当に僕たちは仲がいいなぁ。自分のことより、どちらかというと相手のことしか考えてない。いつか失敗するよ、僕たち。


「いずきが優良生徒に直接関わるのは嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、いーやーだぁああ!」


「駄々っ子かよ」いずきはため息をついた。「俺だったら顔が割れてないし、雛がやるより簡単なんじゃないのか?」


「簡単だよ? でも、それでいずきが死んだらどうすんの? だから、嫌だ」


「そりゃ、どうも」


「だから、今日中までに解決させようとかあまり考えないで行くしかないだろうねぇ………この作戦のせいで明日、何人怪我しても知らないけど」


 いずきが頭を抱えて悩み始めた。

 これ以上、いずきを困らせるような発言は慎むことにしよう。多分、死人はともかく、怪我人を防ぐのは不可能だろうから。いずきがいくら頭を抱えていても非人道的なことをしない限りは困難を極めるだろう。だから、どう転んでも知らない方式で行くしかない。出来れば、被害者が出なければいいなー、程度で。


「………なぁ、雛」


「駄目だね」


「さっきから、未来を予測しないでくれ」いずきは僕からパンを奪ってちぎって食べた。律儀に僕が食べていた方向から反対を。「やっぱり、それ俺が交渉してみちゃ駄目か?」


「駄目だね」


 おや、未来余地が成功した。

 あまり嬉しくない成功である。


「もし、俺が死にそうになったりしたら雛が助けてくれればいいだろ?」


「んー………」


 僕は考えるそぶりをみせる。とりあえず、結論だけ述べればそれはあんまりお勧めできない作戦である。どちらかというと、共倒れの可能性の方が高い。


「一応、羽休め程度だろうけれど」いずきは述べた。「俺と其柯柚樹、知り合いなんだよ。だから、急に警戒とかは多分ないと思う」


「え? 知り合い?」


「ああ、知り合い。何度か会話を交わしたことがある」


「…………へえ、そーなんだ」


 非常によろしくない。

 いずきは無駄に優しいんだから急に警戒できないのは其柯柚樹の方ではなくて寧ろ、いずきの方であろう。優良生徒ならばそれなりに警戒しているはずであって、そんなところに阿呆面のいずきがいったところで何も起こらなければラッキー、攻撃されて普通である。


「………………」


 どうしようか、これ。


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