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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
8月
27/49

〆 下弦夜月

 其柯柚樹。

 俺の記憶によれば確かその人物は、学年で最下位の成績を有している人物である。入試の時、トップクラスの成績で入学してきたわりに中間、期末ともに全て白紙で提出。まるで「私は進級するつもりはない」と言っているようである。

 それで、何故か俺にとある先生が泣きついてきたのが俺が彼女のことを知ったきっかけである。

 それから彼女とは何度か話をし、勉強らしきものもしたことがあるが、俺より頭がよい、ということしか分からなかった。なぜ、0点を取るんだ、と質問をしても彼女は特に何も語らず首を横にふるだけ。結局、高校一年生のときの時点では何も解決せずに終わり、彼女はぎりぎり進級をした。らしい。

 俺と彼女の関係はそれだけである。

 ドラマチックな展開も無かったし、ライバルも何もいなくて、高校二年生の時に完全に縁が切れた。本当に薄っぺらい関係である。

 学舎占争に関係していると考えてみると、学舎占争に参加する上で勝利してしまえば成績なんか関係なく自分の契約している高校に戻れるのだからテストを頑張る必要はなかったのであろう。………いや、まだ、その考えは早すぎる。まだ彼女が学舎占争に関係しているかどうかなんて分からないのだから。


「夜兄、だからと言って満月の枕を腕に抱えながら妹のベッドにねっころがるのはやめてほしいですの」


「ん、んー」


 そういうわけで、俺は天使の暴力情報屋の下弦満月にSOSを出すことにした。わからないことは人に聞くのが一番、というか無駄に思考を巡らせて良いことになった経験がない。それで変に人にきいてもよくないことも知っているが、俺の場合情報と秘密と金と暴力に関しては一流の妹がいる。これで、俺が質問しないわけがない。


「満月の発言を軽くスルーして語り部を始めないでほしいですの。その行動、法律に引っ掛かりかねないですのよ」


「え、マジで」


「マジですの」


「兄妹だったら別にこれぐらい普通だろ」


「異常な兄妹だったら普通ですの」


「異常な妹はここにはいないが我が家にいるな」


「異常な兄はここにいるですの」


 因みに異常な妹こと半月は部屋から追い出した。半月の死ぬ前の台詞は「最近、満月が夜兄の部屋に行くと思っていたら次はこっちの部屋か! なぜ、私を混ぜてくれない! どうせなら3Pでもいいではない――――ぐふっ」である。死刑になればいいと思う。


「で、なんですの?」


 といって、半月を処理したままの位置に立っていた満月はパソコンを抱き抱えたまま俺が寝ているベッドに座った。そして、いつも通りパソコンを開いて文字の羅列を入力している。多分、パソコンを開くのに必要な作業なのであろう。機械音痴ではないと思われる俺にもさっぱりわからない行動なのできっと常人には理解できない高度な事をやっているのであろう。


「雛が夜兄を巻き込む選択をすることはわかりきっていたことですの」


「あ、そうなんだ」


「ですのよ、雛はぼっちが好きではないですの。だから、友人が近くにいるとなると何かしら理由をつけて側におきたがるのですの」満月は高速でなにかをやっている手を止めた。どうやらパソコンの起動を終えたらしい。「雛、可愛いですの。ふふ」


 満月は雛が大好きだということは言わなくても知られていることだと思うからその辺の説明を省くとして、満月にはこちらの情報、つまり俺が知り得る情報を全て流すかわりに満月の情報(ただし、学舎占争に関することのみ)を金銭的な物はなし、つまり無償で教えてもらうことになっている。兄妹にしてはあまりにも事務的な取引であるが満月のような性格のやつにはこれぐらいの契約がちょうどいい。

 というか、満月の場合、こういうのをきちんと決めておかないとどう動くかさっぱり分からないからな。


「それでだな」


「其柯柚樹ですのね」


「そうだ」


 満月はふむ、といってパソコンを操作する。俺は暇なので満月の物であろう枕を抱いてベッドの上を転がり回ることにした。しばらく転がってると、満月に肘を入れられた。痛い。


「其柯柚樹の何を調べればいいんですの? 学舎占争に関係しているか否かだけだったらすぐに出てくるですのけど」


「まあ、その辺からだな」


「嘘ですの、時間かかるですの。けれど」満月は考えるように顎を手にのせた。「見たことある気がしますの、その名前。黒の可能性が高いですのよ、その人」


「そうか……」


 それは残念、かもしれない。例え、深い関わりを持ったわけではない人間であれど敵になるのはあまり嬉しくないものである。

 学舎占争に荷担していく上で知り合いの一人や二人、敵に回るであろうとは覚悟をしていたが(いや、覚悟なんてなかったからこんなことを思っているのかも知れない)知っている顔と敵対するであろうことを考えると気が重くなる。雛にはこんな性格見抜かれているであろうからあんまり、知り合いであることを悟られないようにしなければ、仕事の邪魔だと判断されかねない。そう、判断されたら………どうなるんだろうか? 特に何も起こらなそうであるが。


「夜兄、明日の朝までに情報を調べあげておいてあげますの。明日の朝、情報を全て夜兄に叩き込むので覚えてくださいですの」


「悪いな」


「別に雛のためならかまわないですの。それに、罪は無知。罪状は知識がなかった事、ですのよ」


「そ――――――」


「満月ー! 夜兄ー! どれぐらい燃え上がってるぅ!?」


 バァン! と大きな音をたてて扉があいた。そこには、さっき満月の手によって死刑になった筈の半月が頭から噴水のように血を吹きながら立っていた。あれ、おかしいな、きちんと殺されていた筈なのにな。世界には不思議なことがあるものだ。

 とりあえず、俺は手元にあったものをやつに向かって投げることにした。


「「死ね」」


「おわぁぁぁあああ!?!!?」


 現状を説明しよう。たった、一行で終わる説明である。寧ろ、単純明快すぎてあくびが出るような簡単な説明である。というか、簡単すぎて理解できないかもしれない。

 俺は、満月に投げ飛ばされた。


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