〆 月籠雛
そして、文化祭まで後二日。
僕のクラスの出し物はどうやら屋台に決まったらしい。主に、かき氷を販売し、抄夜ちゃんが作った何かもお持ち帰り出来る(お金は貰うよ、無論)素敵な、何か。いずきは、中央委員でその当日は何かと忙しそうだけど、まあ、僕は、いずきについて回るつもりである。
着々と用意が進んでいる中、僕は何もせずにいずきが頑張ってしきっているのを眺めていた。後で怒られるに違いない。
「雛ちゃん、やっほー」
そう、粗蕋抄夜ちゃんに、声をかけられるまで僕は夢と現実の世界を行き来していたのは間違いのないことである。抄夜ちゃんは僕の隣に座った。きっと、片手に本を持っているからサボりに来たのであろう。
「やっほー」
そう、僕が言うと抄夜ちゃんは本を開きつつ、口を開いた。
「いつも、そこにいるよね」
「え、どこどこ?」
「教卓の中」
「京太君の中?」
「誰だよ、京太」
「だって、ここにいないといずきに怒られちゃうんだもん」
「副委員長は雛ちゃんがここにいるの知ってるけど」
「うん、だろうね。知ってる」
そう、僕が言うと抄夜ちゃんは、あははーと軽く笑って本を読み出した。本の題名は、読めないけれど(漢字が難しい)帯に失恋がどうのって書いてあるから、その系統の物なのだろう。うーん、抄夜ちゃん、失恋したのかな。誰に?
まー、いいや。少なくても僕が知っている人物じゃないだろうし、考えても分からないであろう。というか、抄夜ちゃんと共通の話が出来るのがクラスの人と、後抄夜ちゃんの友達である封磨君ぐらいである。クラスでの抄夜ちゃんは基本、本バリアーをはってぼっち王国を築いているため浮わついた噂なんか一切流れてこないし。
そういえば、棚上げにしていた問題だけど、抄夜ちゃんは何者なのだろうか。粗蕋抄夜ということはさすがの僕でも分かっているが、学舎占争についてだ。
今の僕は、学舎占争を半ば放棄している状態で、それに抄夜ちゃんは警戒するに値しないと何故か思って、仲良くしているが、そもそもの出会いは抄夜ちゃんがいずきに学舎占争のことを故意に教えていたのを僕が物陰で盗聴をしていたのがはじまりである。だからこそ、はじめの頃はかなり警戒していたものだけど。あの、葉月ちゃんのと一件以来、学舎占争から片足の足をひいてから、抄夜ちゃんが学舎占争の何であろうが関係ないやーと、思い始めて、今ではいずきの次に学校で言葉を交わす中になった。
勿論、このままではいけないのであろう事は分かっている。
学舎占争から一歩ひいているからと言って、これからもスルーを続けることは出来ないであろうし、葉月ちゃんと無関係を保つこともできないであろう。それに道端で出会った双子である辛と庚の「三ヶ月後には、師走高校の校舎が無くなって校長が死んでる」という言葉。そんなことが起きたら僕は動かないわけにはいかない。いっそ、いずきが転校して(僕も、かな。無理だけどさ)くれた方が楽なんだろうな。
つまりは、この安息は続いて、二ヶ月。今である、八月。それに九月。
あの二人が行動を起こすのは、十月…………。それまでには何とかしなければいけないと、いつも思っているのだが、体が動かない。多分、いずきといればなんとかなるだろうとか、根拠のない証拠を盲信しているのであろう。全く、僕ってやつはどこまでも人に頼りきりでダメダメなやつだ。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
と、肺活量どんだけあるんだよ、と思うぐらい長いため息をついてから僕は軽く寝ようかと目を閉じ――――
「なに、寝ようとしてるんだよ、サボり魔」
そういう、声が僕の頭上から聞こえてきた。僕が、上に首をあげて視線を上の方に合わせると、案の定、いずきが上から覗き込んでいた。
「やっほー、いずき」
「夜月だって言ってるだろ。それに、俺は怒ってる筈なのになんで、そんなに普通の反応なんだよ」
「だって、「何サボってるんだよ」みたいな台詞を聞くの3984回目だもん」
「似てねえし、そんなにその言葉をいった記憶はねぇよ」
「3+9+8+4=」
「二十四……」
「間違ってないでしょ☆」
「いや、まあ……」
と、いずきが戸惑うような反応を返したのを見て僕は一安心した。
なぜかというと、この二十四回という数字は思いっきりはったりで、あっているかなんて僕にはさっぱりわからないからである。記憶力が多少いいいずきでも、僕を叱った回数なんて覚えていないだろうからその場を逃れるために言ったのだが………。
「なんで、雛が回数を覚えてるんだ?」
「ん?」
「二十四回目だって、なんで雛が――――」
「覚えてた! しかも、合ってた!」
「…………?」
「いや、なんでもないさ」
「そうか」
動揺の色が隠しきれない僕を、そんなもの優しげな目で見ないでください、お願いします、いずき。生殺しってこういう行為のことを言うんだよ、知ってる? いずきなら知ってるよね。ほら、抄夜ちゃんだって知ってる筈だし。何てたって、学年首席だもん。
「雛ちゃんが」抄夜ちゃんが本から目を話さないまま呟いた。「生殺しされてる。って言って欲しいみたいだよ」
「読心術っ!」
「違う違う、僕はただのノーマルだよ。雛ちゃん、君とは違ってね」
「え、抄夜ちゃん、超能力使えないの?」
「超能力なんて大それた事なんか出来ないよ」
「「へー」?」
いずきと「へー」という台詞がかぶったが、いずきは最後にはてなマークがついていた。僕は、馬鹿なのでふつーに感嘆したような声を出してしまったが、よくよく考えれば、疑問に思うことが結構あったりする。いや、しない? いや、する。
なぜ、ただの一般人生徒が学舎占争の深部まで知っているのか、とか。
うーん、やっぱり抄夜ちゃんは秘密が多い。
そりゃ、人間は秘密をたくさんつくって不自然ではない。寧ろ、秘密がない人間の方がどうかしている。けれども、抄夜ちゃんの秘密は謎ではなく、曖昧である。抄夜ちゃん自身が自分のことを全く語らないから不自然に感じているだけか? いや、そんなことは、ないはず。
能力上、他の人より感受性が高いであろう僕だからこそ感じる不自然なのかもしれない。
「それにしても、雛ちゃん、委員長。ここじゃ話すのを憚られる用な話を閃いたんだけど」
「え? 所謂、男同士の話か?」
「冗談は君の友達である雛ちゃんの性格だけにしてくれよ、委員長。僕がそんな話をするわけないじゃんか」
「そうか?」
「女の子、興味ないし」
「それは………」
いずきが対応に困っていてなんだか、面白い。ここは助けるべきなんだろうけれどここはあえて慈悲の目で見守っていよう。
「人気があまりないところとか、ないかな」
「あー」いずきは、当たり前のように言った。「屋上の扉の前の階段とかいいんじゃないか?」




