〆 下弦夜月
8月突入です!
八月。
普通だったら完全に夏休みに突入しているであろう時期に、俺たちの学校だけは登校義務があった。俺としては、登校したその分夏休みが増えて皆が学校に行っているであろう時期に水族館やらテーマパークに行けたりして得をしていると思うのだが、他のクラスメイトの反応を見る限り、めんどくさいらしい。そりゃめんどくさいが、俺達が通っている学校の特色上仕方が無いことであって、入学する前から学校はこの事は散々言っていた。
我が校の文化祭は八月にある。
と。はっきりと、何回もしつこく言っていた。この一体に並ぶ、私立高校は上から睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走と言うのだが、その名前の通りに文化祭を行うので、毎月、どこかしらが文化祭を行っている。つまり、八月は我が葉月高校が文化祭をやるわけで、俺達は夏休みを返上して準備をして、そして、夏休み真っ只中に文化祭を盛大に行う。葉月高校の文化祭は夏に行うだけあって花火やらかき氷やら屋台やらがやたら多く、夜までやっているためにここ一連の文化祭では最大規模を誇っている筈である。だから、比較的、新入生が集まりやすいと、本当っぽい都市伝説も流れているのだけれども俺の個人の意見ではその考えはかなり真実に近い方ではないかと思っている。というか、俺がそれに近い。
「暑い………」
「あ?」
朝の登校時間、俺と雛はおんぶ状態で登校するのが日課になっていた。だって、まぁ、雛と歩くより遥かに速いし、最近気づいたのが最近落ちかけていた体力がつくことである。
「いずき、暑い、死ぬ」
「じゃあ死ね、俺だって暑いんだ」
「降りる降りる降りる降りる」
足をバタバタとさせる雛を無視して、そのまま学校の方へと進んでいく俺。今、ここで雛を下ろして松葉杖なんかで歩き始めたら完全に遅刻間違いなしである。まだ、遅刻、欠席を高校ではしたことがない俺としては、こんな訳わからない理由で遅刻なんかしたくない。どうせ、遅刻するなら滅茶苦茶正当な理由か、もしくは中学の時並みに無意味に遅刻したいものである。
雛は暫くバタバタと暴れた末に、体力を消費しきったのか、ぐでーと体の力を抜いてきた。密着して暑さ倍増である。もう何がしたかったのかわからない、本末転倒である。
俺は、雛を背負い直して考える。
雛がちょっと壊れてた日からこういう状態で登下校しているわけなんだけど、こいつ、高校卒業したら生きていけるのかが全くの愚問である。高校卒業してからも俺がおんぶして仕事場やら進学先やらにつれていけるわけもあるまいし、それに片足と言えど脚がないというハンデは就職活動において、かなり不利になるであろう。雛はきっと進学ではなく就職を希望するであろうから、三年になったとき雛はすごい苦労をすると思われる。
因みに、雛がなんか壊れてた日から一週間ぐらいはずーーと、あんな感じでゆるゆると俺に絡んできていてなんかベッタリだったのだが、ある日突然、何か自分がおかしいと察したのか暫くよそよそしくなった後に今の感じのいつも通り感なテンションに戻った。そして、七月にあった、月立葉月との騒動の途中から雛は記憶がぶっ飛んでいるらしくて、本人いわく「んー、と、葉月ちゃんに、閉じ込められてー、いずきがきてー、いずきに起こされたー。えへへー」だそうで、よくわからないが、記憶がすっぽりと消えているらしい。なんでだろうか。
「暑いのに、熱いピザまんが食べたい………」
「それは、病気だな」
「いずきつくってよ」
「粗蕋が料理うまいという情報をキャッチした」
去年とか、バレンタインにめっちゃチョコを作ってきていて、何故か女子に粗蕋が追いかけ回されていた記憶がある。ひとつ貰ったら、うん、まあ、美味しかった。あと、昼のお弁当を除き込むとまぁ手が込んでる手が込んでる。卵焼きとかめっちゃ美味しそうだった。
「抄夜ちゃん?」
「そーそ、粗蕋抄夜」
「ふぇーん、抄夜ちゃん料理うまいんだ」
「今度、お願いしてみたら作ってくれるかもな」
「本当!?」
雛は俺の背中に手をついてガバッと起き上がり、歓喜の声をあげた。顔は見えないがきっとらんらんとした顔をしているだろう。
「……いや、まだ、決まった訳じゃねぇけど」
粗蕋と雛はそこまでいうほど仲が良いわけではないし、だからといって粗蕋と俺がベストフレンドかときかれれば、違うと断言できる。そりゃ、一年から同じクラスだけれどもはじめて話したのはつい最近だし、俺自身、粗蕋の事をあまり知っているとは言えない。
例えば、粗蕋に俺が質問したときにが言っていた『君みたいなノーマルなただの人間』という言葉がまだ、引っ掛かっていたりする。自分はノーマルの人間じゃないみたいな物言い。その物言いからして、きっと、粗蕋も何かしらの超能力を持っているんじゃないかと俺は思う。どんな能力なのかはさっぱりわからないけれど、粗蕋なら超能力とかバンバン使っていてもかっこいいんじゃないかと俺は予想した。ほら、なんかかっこいいじゃん、謎の閃光を打ってたりする超能力者。今までは現実にそんなもの存在してないと、思っていたけれど月立葉月とか雛とかいう超能力を持つ人物がいるならば、閃光を打つ超能力者ぐらいはいるであろう。いや、でも、雛と月立葉月は二人ともESPに分類される能力なのか? ん、いや、雛は、PKか? あとから聞いた話だと(雛が限りなく緩いテンションの時に)月立葉月のように人を動かすことが出来れば、物を破裂されたりも出来るらしい。軽く、やってみてよ、みたいなことを言ったら全力で断られたから雛の言葉が全てあっているかは証明できないけれど、一応、友達のいうことは信じることにしているので、雛の言葉は間違えていないことにすると、人をあーだこーだするとともできれば、物もあーだこーだできるということになる。
あまりにも曖昧な記憶で申し訳ないのだが、どこかの超能力小説で、とある楽器で人を操ることも出来てその楽器から出る波動でも物理的に攻撃できる人が、こう敵に言われていた。「そんなの、長距離走と短距離走を同時に極めるのと同じじゃない!」と。つまり、物理的に攻撃できるものと精神に関与して攻撃できるものでは、同じ超能力でも全く違うということである。ゲームはゲームでも音ゲームを極めるのと格闘ゲームを極めるのは全く違うように、超能力でも細かく分類すれば(というほど、俺は詳しくないけれど)全然違うであろう。
つまり、月立葉月が純粋に長距離走をしているとすると、雛は長距離走で月立葉月と張り合えるのに加えて、短距離走もできて月立葉月を短距離走で楽々と抜かしてしまえるような、言わば、天才とかいうやつなのだと思う。
話を戻して、雛がPK使えるということはつまり、光の閃光をビュンビュンビュビューンと飛ばすような、ザ、超能力を持っている人間がいてもおかしくないということである。ふむ、俺も使えるようになれればいいのにな。そうしたら、雛に迷惑をかけないで共闘とか出来るかもしれないし。
「『才能が一つ多い方が、才能が一つ少ないよりも危険である』かな」
「ニーチェの言葉だね」
聞き覚えのある声が二人分、真後ろから聞こえたので、振り向くと背が低い二人がいた。粗蕋抄夜と、えっと、粗蕋の友人である歌乾封磨。
「か、かな! 背が低いかな! 背が低い二人って酷いかな! しょーやんなんかとぼくを一緒にしないで欲しいかな!」
そう、歌乾封磨がいうと、粗蕋は歌乾封磨の頭をぺしんと叩いた。歌乾封磨は「か、かな!?」と粗蕋の方を驚いた顔で見る。
「封磨君。僕の伸長は百六十三センチあるんだ。それに、なんかってなんだよ」
「ぼくからしたら湖と雅さん以外はなんかがつくかな」
「全人類に失礼だね」粗蕋はため息をついてから俺と雛の方をみた。「お早う、副委員長と雛ちゃん」
「おはよーう、抄夜ちゃん」
「おはよう、粗蕋と歌乾」
「こんにちはかな」
挨拶を交わしてから雛が「一緒に行こうよー」と、いったのでなんだか一緒に行くことになった。粗蕋と歌乾は俺らの後ろに並び、雛と俺はまあ、あいかわらずのおんぶで学校に向かって歩き出すのだが、大人数は中学のとき以来なので(と言っても、今は四人だが)なんだか懐かしい。毎朝ばか騒ぎをしていた記憶がある。
まあ、たまには、こういうのもありかな、と。
「本当に」粗蕋は呟いた。「君達、仲が良いよね」
「本当? やったね、いずき」
と、いって雛は俺の背中の上で暴れた。全く何が、やった。だかさっぱりわからぬ。俺はあくまで、仕方なく、雛を背負っているだけで、別に遅刻したくないだけで、歩いている雛をみるとイライラするから背負ってやってるだけで、別に別段、仲が言い訳じゃない。本当に。いや、本当に。
「かな……」
歌乾はそう言って、あからさまに目をそらした。何だか、失礼なやつである。そういえば、雛は歌乾の名前は愚か学年も知らないのか。もしかしたら、同学年だと思っている可能性がある。敬語やらは全く使っていないが歌乾は俺らのひとつしたの学年、つまり、一年生である。ぴかぴかの、とは言わないが一年生。
「あー!」雛は急にそう叫んだ。「抄夜ちゃん、料理うまいんだよね!」
「え? うん」
ここで、うん。と断言できる粗蕋はある意味かっこいいと俺は思った。
「あのね、僕ね、ピザまんが食べたいね」
「なんで外人風なんだよ。お前、生まれたときから日本在住だろうが」
しまった。反射でツッコミを入れてしまった。……ふっ、俺の悪い癖だ。無理がある? じゃあ、将来は芸人を目指してるんだ、俺。だから、仕方がない。うん。無理がある? もういいや。
「ピザまん?」
粗蕋はそう繰り返して、「そりゃまた、珍しいものを」と呟いた。
「ぼくも食べたいかな」
「僕の周りの人達は変わり者しかいないんだね、今、夏だよ」
「じゃあ、俺も食べる」
「……………別に、いいけど」
粗蕋はそう言って、一人でぶつぶつと考え始めた。ふむ、なんだか、材料の値段を計算しているみたいである。料理なんかあんまり作れない俺が考えるだけで随分な額になりそうだけど、粗蕋の家に金があるのだろうか。いや、あることにはあるだろうけれど。
「僕は、こんなことを考えました」粗蕋は言った。「文化祭で販売しようかな」
「あー」
悪くはない案である。




