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学舎占争  作者: 伏見 ねきつ
7月
15/49

〆 月籠雛

やっと、皆が動き始めました

 やばいと、思った。

 月立葉月が立ち上がって、扉に手をかけた瞬間悪寒が全身を通り抜けた。確か、この部屋が元々別の用途で使われていたらしくあの扉は、外側からしか開けることが出来ない。はじめてこの部屋に入ったときに思ったことだったのだけど、まさか監禁をするわけないと高く括っていたのか、あえて特に追求をせずにやってきてしまったのが大きな間違いだったのであろう。

 僕が立ち上がって動き始めたときには、葉月ちゃんは何かを呟いてから扉を開けて外に行ってしまっていた。それでも、鍵かかかっていなければまだ間に合うと思い、松葉杖を投げ捨て死に物狂いで扉の方に転がるように走っていったが、扉に辿り着いた瞬間に、がしゃんと閂が落ちた絶望的な音が鳴り響いた。


「嘘だろ……」


 僕は、その場にぺたんと座り込んで力なくドアノブを捻ってみたが、がしゃがしゃ無機質に回るだけで応答なし。開く気配は微塵も感じることが出来ない。僕は、体を滑らせるようにして投げ捨てた松葉杖を拾い、立ち上がって、もう一度、扉の方に向かって歩いていき、扉を叩いてみる。うん、扉だ。旧式の扉なら、ドアノブの付近の力が一番かかっている部分を全力で破壊しようとタックルでも何でもかまし続ければ、結構簡単に壊れると聞いたことがあるのだけど、この、足がない状態では到底できりゃしないだろう。第一、五体満足だったらこうやって閉じ込められることもなかった。ああ、もう、足がきちんと二本あれば。それもこれも、予想外の行動を平気で取る月立葉月に要因があるに違いない。

 そう。あれだ。

 月立葉月は狂ってる。

 僕にはどうしようもなく理解できないレベルに狂いに狂ってる。言っていることも支離滅裂でやっていることも訳がわからない。例えば、この行動はいったいなんのためにやったのだろうか。まさか、このままここに放置し続けることは流石にないだろうとしても今、この時点で僕を閉じ込めた訳がわからない。そりゃ、月立葉月の中には考えがあってそれを行動にしているのだろうけれどもうちょっと概要を遠回しにでも伝えるべきだ。勝手に閉じ込められても僕はどうしたら良いのかわからない。バナナを取る猿の如く、試行錯誤をして脱出する方法を考え馬鹿みたいに動き回っていても監視カメラもあるわけではないこの部屋では別に僕が苦労をするだけで何も楽しくないだろう。だとすれば、なんだろう。僕に出てきてほしくない事でもするのだろうか。それなら、帰らせればいいものを。

 月立葉月は頭が良くて冴えているのに、突拍子もない行動を取るから驚き戦きお菓子の木である。……いや、今の文は一貫性が全くなかったけど、驚き戦きすいかの木とでも言っておこう。なんか、どこかで聞いたことがあるような気がするし。いや、すいかの木ってなんだよ。すいかって確か野菜だから木にはならない筈だけど。あぁ、なるほど、あり得ないことを言って、突拍子もないことって意味なのか。

 閑話休題。

 僕はとりあえず、訳がわからないままにここから逃げ出す方法を考えた方が良さそうだ。否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだけれども、霜月高校に行ったときに唯一決めたことは出来るだけ守っておきたい。とんでもなく行き詰まっていてチェックの状態にならない限り、僕は、その場にあるもので出来るだけどうにかする。

 例えば、月立葉月の教理雑音(ドグマノイズ)。確かにあれは、乱用することで意味をなす類いの能力かもしれないが、月立葉月は能力に頼りきってる節があるし、普通は(僕が見たことある超能力者だけだけど)自分の手の内を晒したりなんかしない筈である。月立葉月の能力だって、知っていれば、耳を塞いだりすることだってできる。そもそも、そんな能力がある、となんていわれたら何かとても大事な事でもない限り、話をしようとは思わないだろう。僕はどうやら相殺出来るらしいから特に何も考えなくてもいいけれど、いずきとかだったら細心の注意が絶対の必要条件となる。というか、普通に普通で普通の暮らしをしてきたいずきだったら、対処法方が思い付かなくても別におかしくない。それに、会話をするとなるとどうしても声をきかなくてはいけなくなるから防ぎようがなくなる。あ、そうだ、筆談で話せばいいじゃないか。いや、現実味がない。そんなこんなで月立葉月と同じクラスの人とかがちょくちょく操られていると思ったらクラスの人に同情したくなる。

 ……………あれ。

 僕も霜月高校の同じクラスの人達を操っていたも同然だったのか。同じじゃん。片腹痛いぜ。それだったら手の内を全て晒して堂々と操る月立葉月の方が清々しくちゃんとしてるのか? いや、操るっていうことがおかしいんだけど。操るってことがおかしいのに、なんで人を操れる類いの能力が存在しているのだろうか。例えば人間は、自分より強いものを操作することで優越感を覚える。僕が知っている話だとパソコンが例にあげられる。ハイスペックなパソコンをボタンひとつ押すだけで強制終了が出来る、それで人――――――


「?」


 ガシャリと、扉が開く音がした。

 無論、僕の前にある扉は開いていない。つまり、月立葉月が校舎内に入ったか誰かが屋上に現れたというわけだ。僕は扉に耳をあて、目を閉じて神経を集中させる。風の音、歩く音、そして二人分の声。


「……来てくれたんですね、夜月先輩」


 …………いずき?

 いずき? いずきが屋上に現れた? 月立葉月といずきの約束は明日のはずじゃないのか? いや、待て、いずきは一度も「今日、明日会おうと言われた」何て言っていない。僕が勝手に勘違いしていただけ、というわけか? 「昨日、明日会おうと言われた」だとすれば、会う日は今日。だから、いずきは今日説得すると言ったとき、変な反応をしていたのか。よくよく考えれば、筋が通る、サバイバル・ロッタリーの事を月立葉月からきいたいずきが、次の日に僕に話す。そして、さっき、月立葉月がサバイバル・ロッタリーの話をした。それに、満月ちゃんにいずきが相談をして結論を出すには半日もない時間では短すぎる。満月ちゃんだって学校に通っているんだから、いくら満月ちゃんでも、僕に調べたことを全て伝える。何て言う危ない橋を渡るような事をそんな早く、結論を出すわけがないだろうに。

 僕はまた、その場にぺたんとずり落ちるように座った。


「来てくれたんですねって……いや、まあ」


 いずきの声は驚くほどはっきりと鮮明に聞こえる。なぜだろうか、聞き慣れているからかもしれない。


「来てくれればいいんです」


 こうなると、僕を閉じ込めた意味がわかりそうなものだけど。まさか、いずきと仲良さげに話して僕に自慢しようとか、んな、わけわからない事ではないだろう。そんなことのために監禁されたのならば僕はまあ、キレる。いや、キレないけどぷんすかする。別に、僕はいずきに恋をしているわけでもないから知らん人と仲良さげにしていても嫉妬とかしないし、第一、中学の時のいずきの周りにはいつも人がいた。故に僕は月立葉月といずきが仲良くなっても、危ないなぁー、とか、友達選べよ。とか、それぐらいしか思わない。

 それじゃあ、なんでこうなっているのだろう。月立葉月の行動を見る限りいずきをこちら側に引き摺り込もうとしているような気がする。それで? まさか、月立葉月はいずきに襲われた時の事を危惧して僕を近くに置いたとか? それはない。何てこった。


「そういえば、月立葉月さん」


「なんですか?」


「雛はどこにいるんだ?」


「貴方方、本当に仲が良いですよね………」


 いずきが僕の存在を気にするとは思っていなかったけれど、これはこれで、良い判断だろう。月立葉月が僕をどうしたいのかわかるし、僕はこの場にいない。と月立葉月が言ったら、僕は、扉を叩くでも殴るでも蹴るでもタックルかますでもすれば、いずきは不審に感じるであろう。それで、逃げてくれれば花丸満点なんだけど、多分、いずきは助けようとする。ちょっとありがた迷惑。


「雛先輩は、私の後ろの扉の内側にいます」


 そう来たか。

 では、月立葉月は僕の存在をいずきに知られても良いと判断したってことでいいのかな? じゃあ、何で閉じ込めた? ずっと、続く自問自答。いや、答えは出ていないから自問無答。


「へえ……」


「因みに、閉じ込められて―――おっと、急に走らないでくださいよ。貴方は今、私と話をしてるんですから。戻って来てください。……戻って、来てください」


「……………なあ」


「何でしょう?」


「その能力とやらの対処法はないのか?」


「知りませんね」


 一回、近寄ったかと思われるいずきの足音が遠ざかっていく。ふーん、月立葉月の教理雑音(ドグマノイズ)はこんな、すんなりといくものなのか。今度、どんな感じなのかいずきに訪ねてみるのも悪くない。


「夜月先輩、最初に訪ねておきますが、貴方は超能力は使わない、ごく普通の一般人なんですよね」


「ごく普通かは知らないが、超能力とかそんなものが使えた覚えは全くないのは確かだな」


「ならいいです」


 そして、また、足音。二人分の足音がしたが、これはどういう状況なのだろうか。月立葉月が近寄っていずきが後ろに後ずさったのか? わからない。もどかしい。


「これから、テストをはじめます」


「テスト…………?」


「雛先輩」不意に、僕の方に声が飛んできた。「雛先輩が頑張らないと、親愛なる夜月先輩が死んでしまいますから頑張ってくださいね」


「「死ぬ!?」」


 いずきと僕の声がハモった。

 いや、逃げろ、いずき。いや、逃げられないのか。教理雑音(ドグマノイズ)。なるほど、むかつく能力だ。


「おやまぁ、仲がよろしいですね」


 どうやって頑張れと言うのだ。閉じ込められているこの僕が出来ることなど声を飛ばすぐらいのことで……ん、声。声。これか。月立葉月は自分と僕の能力が同じだと言った。それで、僕の能力をはかるためにこんなことを……。ああ、もう、しゃくにさわる。

 第一、僕は月立葉月ほど強く人を操ることなんか出来ないのに。

 僕は、扉を殴った。

 虚しく、音が響くだけだった。


「夜月先輩」月立葉月の薄い笑みが僕の頭によぎる。「お願いがあります」


 いずきのものではないだろう軽い足音が遠ざかる音がした。きっと月立葉月がいずきの方によっていったのだろう。


「雛先輩ってば、自分の自演自作でこんな高いところから飛び降りたらしいんですよ。それでですね、飛び降りた感想とやらを聞いてみたいのですよ……生きていたらですけど。なので、夜月先輩」


 その次の、月立葉月の台詞から僕の記憶はぷっつりと途絶える。


「飛び降りてみてください」


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