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08:対面

 穴は体がぎりぎり通れるくらいの大きさで、背中や両肩で土の壁を擦りあげながら、ズルズルと体を引きずるように這っていきました。時折、道は少し曲がったりして、頭をぶつけたりしましたが、痛みなど気にしている場合ではありません。

「(一体どこに通じているんだろう……下手して出口を出たところを後ろから襲われないだろうか)」、そんなことを考えると、さっきまでの勇み足が少し弱まってしまいそうです。この進む時の擦る音でも感づかれるかもしれない……少し進む速度を落として、慎重に、慎重に、ジリジリとした焦りを必死に抑えようとしながら、暗闇の見えない一本道を辿りました。

 やがて、頬にかすかに風を感じました。土の道は蒸し暑いので、その風が心地良く感じました。

「(出口が近い……)」

 とたんに緊張が、胸を押し潰すかのような衝撃が、心臓に走りました。

「(一体どんな奴なんだろう……)」、闇の出口、そこには我が子を奪い妻を脅迫する恐ろしい敵がいるのです。怖くもあり、しかしまた、それを超えるほどの怒りもこみ上げてきます。体がじっとりと汗ばみ、既に顔も体も土まみれでしょう。暗闇の夜、真っ黒な姿で現れれば、自分の姿を闇に隠して、上手く子供を助けられるかもしれない……そう思いました。

 そして、やがて光が見えてきました。


 それは何か揺らめき、きらめいていて、不思議な光でした。星空にしては、どこか幻のような……不思議な輝きをしています。

 慎重に進んでいき、ポッカリと開いた出口がはっきりと分かり、頭を下の地面にこすりつけるようにして、進みながら外を窺い窺い、やがてその不思議な光がはっきり分かりました。出口のすぐ下には、水がたまっているのです。星や月が水面に当たり、水面が揺らめいていたのです。

「(……池? ……水溜り? ここは……どこだ?)」

 とにかく遠くてはどこなのかよく分かりません。夫は思い切って、グッと体を穴からのり出して、上を向きました。

 それは、真上へと長く伸びるトンネルでした。横に伸びた洞穴から出たら、また真上へと穴が続いて伸びているのです。そして、ふと、何かが見えてきたようでした。

「(ここはもしかして、…………井戸?)」

 そう、その垂直の穴は、さっきまでくぐってきたデコボコの穴とは違って、周りの壁がきちんとしたまっすぐな形に固められています。よく見れば、壁には取っ掛かりが幾つも付いていて、それに足を掛けて上に登れそうです。夫は気持ちを固めて、縦穴を登り始めました。

 やがて、上の出口から頭を出すと、そこはやはり見覚えのある村の井戸でした。

「(どういうことだ……まさか……まさか犯人は……村の者!?)」

 それはゾッとする考えでした。もし村の人間だとしたら、唯一犯人と接触をした妻は……その顔を知らないはずはありません。

「(どういうことだ……まさか……まさか……妻は全て知って?)」

 その時、首筋に冷たいものが触れ、その恐ろしい感触に体中の毛が逆立ちました。

「動くな、喋るな」

 その声は間違いなく、妻の声でした。

「……どういうことなんだ」

「説明する必要は無いわ、あなたは死ぬから」

 あまりに冷たく、あまりに無情な言葉でした。

「立ち上がりなさい」

 突きつけた刃物で頭を突かれて、夫はなすすべなく従いました。

「他の連中は外をずっと捜索している、まさか村の井戸に繋がっているなんて思いもしないしね」

 妻はそう喋りながら、歩けと突いてきます。促されながら、聞き返しました。

「狂言だったのか、お前一人の」

「…………」

「あの子はどうしたんだ」

「…………」

「一体何を考えてこんなことを」

「黙れ」

「痛ッ」

 グッと刃物を強く押され、首に痛みが走りました。

 もはや二人の間は、「夫婦」というつながりは完璧に壊れていることは明白でした。単なる……いや他人よりもずっと遠い存在であるような一人の「女」、それはある意味で突きつけられた刃物よりも怖ろしいものでした。

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