06:犯人の思惑
村人たちは息を殺し、花の茎の間から大樹の方を食い入るように見つめ、長老様たちも息が詰まるようなこの夜に緊張した面持ちで大樹の周りを見渡していて、そして妻は手には宝玉を似せた石を持ち、ゆっくりと大樹の方へと歩いていく。夫は……妻のいるところとは大樹を挟んで反対側にいて、地面に伏せて、腹ばいになって、少しずつ……大樹へと近づいていきます。
辺りは、シーン、と静まり返っています。そこらに村人たちが皆ひそんでいるというのに、まるで誰もいないかのような……静かにそよぐ風に金花が揺れ、その小さな葉擦れの音さえはっきり聞こえるほどに静かなのです。白い月が、目の前の大樹をまばゆく照らし、不気味に光るその木こそが、かの盗賊であるかのような、ズン……と妖しげに一つ大地に立っています。
やがて妻は木の根元、すぐそばまでたどり着きました。木の根元は、上に大きく膨らんで生えている枝や葉に邪魔されて、全くの陰になっていてよく見えません。そこに盗賊はヒッソリ潜んでいるのか……妻は目を凝らしてうかがいました。すると、木の幹に、何かで削ったように、文字が書いてあるようでした。辺りに人の気配がありません。恐る恐る近づいて、その文字を読んでみたところで、以下のような文句が書いてありました。
『宝玉を置いて立ち去れ』
「誰かいないの!? 宝玉は持ってきたわ! すぐ子供を返して!」妻は、グルグルと辺りを見回してそう叫びました。
さて困りました、このまま言うとおりに宝石を置くべきなのか。しかし子供がいないのでは、全くお話になりません。どうやってこちらに返してくれるのか。それに、石は偽物なので、仮に賊の命令どおりにすれば子供が帰ってくるとしても、この偽物を置いておいて、それを見た賊が怒り狂って、そのまま子供を殺してしまうことさえ考えられます。本物の宝玉はもう長老様にお返ししてしまって、いまさらやり直すわけにも行きません。
妻は大いに迷って、助けを求めるようにオロオロと辺りを見回しましたが、しかし一つの決心をして、偽者をその木の根元に……賊の指示通りに従いました。石を置き、少しずつ大樹から後ずさりするように離れていきました。やがて妻は、金花の陰に村人皆と一緒に隠れて、息をひそめて待ちました。
「(大丈夫、絶対に助かるよ!)」、隣にいた人にそう励まされ、妻は頷き、そして沈黙しました。