24:売人探し
そしてこの日は午前授業のみだったので、全て終って、三人は揃って学校の門を出ました。
そのまま街の大通りの方へと向いました。持っていた金花を使う前に、今後手に入れるための売人を探すためでした。
「○×通り行ってみるか?」
「いやあそこ最近手入れが入ったらしくてほとんど根絶状態みたいだよ」
「じゃあ××町辺りか」
「あの売人の死体が見つかったのが××町だよ、今は無理だって」
ニースキーの父親からの情報を頼りに、あっちにこっちにフラフラと歩く続けました。いつの間にか、××町に足が向いて来ていました。通りの一角に人だかりを見つけ、近寄ってみると、人々の前にテープが張られて、その中では保安部のスーツ姿の連中が、色々と調べ物をしています。その中心の石畳にはおびただしい血に濡れていました。
「これがあの……売人のか」
友達の一人がニースキーにヒソヒソと耳打ちし、ニースキーは頷きました。
「犯人はどんな奴なんですか?」
ニースキーは、近くにいた保安官に尋ねてみました。保安官はジロリと目を向けて、
「犯人は女じゃないかと睨んでいる」
「もっと詳しく教えてくれないかな、まだ犯人は捕まってないんだろう?」、側にいた中年の男が、鼻に掛かった声で、少し保安官に言いがかるような調子で訊ねました。
「まだ調査中です。詳しく分かり次第、きちんと説明しますので」
「冗談じゃねぇや」
男はふてくされたように、唾を現場に向けて吐き捨てました。保安官の足に掛かりそうになって、彼は片足立ちで避けて、注意をしようと顔を上げたら、男はもう人ごみの中に消えてしまいました。しかしニースキーはその男の様子をつぶさに眺めていました。
「あのオッサンも客みたいだな」
友達の小さな声に、ニースキーは保安官のいる手前、はっきり頷くことはしませんでしたが、真剣な眼差しでそれを語りました。それは微かな違いでしたが、男の歩き方が、背中が上に引っ張られて引きつっているような、微妙な歩き方だったからです。金花の力が切れた時によくある症状です。
ふと、ニースキーは二人の肩を突いて、人ごみの輪の外へと誘いました。そして現場から離れるように歩きながら、
「少し“切れてきた”みたいだ」
見ればニースキーもさっきの男と同様に、僅かに背中を引きつらせていました。
道の反対側に喫茶店を見つけると、通りを渡って店に入りました。
三人は奥の方へと向かい、角の隅のテーブルを見つけるとそこに座りました。丁度その席と店員のいるカウンター席の間に大きな観葉植物の鉢が置かれていたのです。大きな緑の葉が幾重にも重なり左右に開いていて、丁度壁のように隅の席を隠しています。
三人とも酒を頼み、運ばれてくると、店員の姿が葉の奥に消えるのを見送って、ニースキーは足元に立てかけた鞄に手を突っ込んで金花を探りました。そしてそのまま中で種を摘み取っていき、手の中に三粒握って、拳をテーブルに置きました。一つ一つ、ソッとその白い種を二人の目の前に置き、お互い摘み取って、そしてコップの酒の中に入れました。種は酒に触れると、勢いよく泡を吹き出して、あっという間に溶け消えてしまいました。
ニースキーの指は少し引きつっていました。コップを両手で持って、グッとひと口、流し込みました。
「ウ……アァッ」
瞬時に全身に玉の汗が浮かび上がりました。白いテーブルが、床との境界を無くして全てが真っ白に、白い空へと飛んでいきます。
「おい、一気に飲み過ぎだって、大丈夫か?」
ニースキーは両肘を立てて首を垂れ、暫く荒い息を吐いていましたが、やがてユラリと体が揺れて、テーブルに突っ伏しました。
「おい、ニースキーのコップのニオイきついぞ。ひょっとして二三粒はぶち込んだんじゃないか」
友人の一人が試しに飲んでみました。
「うわ、スゲ……」
舌に触れると、すぐに引っ込めてオシボリで舌を拭きました。
「コイツ、こんなに濃いの飲んでたのかよ」
「大丈夫か、ニースキー」
ニースキーの体が、不規則なリズムで、ビクリ、ビクリ、けいれんしています。それどころか、何か悪夢を見ているかのような、病的な重々しい唸り声が……。
「あの、お客様、大丈夫でしょうか?」
店員の女の子が、心苦しそうに心配そうな顔で、近寄っていました。
「ああ、コイツちょっと腹でも壊したみたいで……大丈夫ス」
「ひょっとして当店のもので当られたのでしょうか……」
「いやーそれはないよ、持病の腹痛なんです。スミマセン、病院連れて行きますんで、ご迷惑お掛けしました」
そして二人でニースキーの肩を抱えて、ペコペコ頭を下げて店を出ました。
すると外に出ると、二人は引っ張られるように……ニースキーがどこかへ向おうと強引に歩き出しました。
「どこ行くんだよ、お前ん家はそっちじゃないぞ」
「…………ッ」
彼は何か小声で呟いているのですが、寝ぼけたうわ言のようなはっきりしない声です。そしてそのままおぼつかない足元で歩こうとするので、まるで夢遊病者のようです。
そのまま仕方なく、彼の向うどこかへ、ついていくしかありませんでした。