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22:[第二節]通り魔事件発生

…………………………………………


「ワァ!」

「キャア!」

「刺されたぞ!」

「大丈夫か!?」

「血が凄いぞ!」

「誰か医者を!」

「犯人は!?」

「あっちに行ったぞ!」

「犯人が逃げたぞ!」

「大丈夫か!?」

「誰か来てくれ!」


 冷たい石畳の上に倒れた、女の体の下から、ジワジワと血が染み出て、黒い石を赤く染めていきます。

 息を切らした一人の青年が近付いて、しゃがみ込んで彼女の肩を揺すぶりましたが、ピクリとも動く気配がありません。手を当てて、脈や息を確認してみました。女はもう息絶えたようでした。

「どうやら駄目のようですな」、後ろ立っていた初老の男が、見下ろしながら言いました。

 青年は振り返り頷き、そして周りに集まってきた野次馬を見ると、皆に訊ねました。

「誰か、犯人の顔を見た人はいますか?」

 事件の起きた場所は、ひっきりなしに人の通る大通り。しかし空は大分薄暗くなっていて、街灯があちこち付きはじめていました。交差する人波に紛れて、隠れるように刺せば、瞬間を見るのは難しいものです。案の定、誰も青年の問いに答えられる人はいないようでした。

 暫くすると、集まった通行人の山をかき分けて、保安隊の二人が現場へとやってきました。

「皆さん、道を開けて下さい。病院へ運ばなければなりません。現場から離れて下さい」

 そう辺りの人たちに指示していると、ふと青年の顔を見て大きな声を上げました。

「ニースキー君じゃないか」

「どうも。ところで病院とのことですが、残念ですが彼女はもう……」

「そうか……。君は現場に出くわしたのかね?」

「いえ、こっちから叫び声が聞こえて見に来たんです。この人ごみに紛れて刺したようですね。周りの人に簡単に聞きましたが、誰も見ていないようです」

「なるほど」

「どうもお金目当てだと思います、彼女の鞄が無い」

 保安官は胸から取り出した手帳に素早く筆を走らせました。そして、倒れた女の様子を調べていたもう一人の保安官に、二言三言、耳元で指示を言い、そして手帳を胸元にしまいました。

「分かった。じゃあ一応後で詳しく事情聴取するから、少し付き合ってもらえるかな。時間は大丈夫かな?」

「時間は……親父に会わないで済むなら」、ニースキーは頭をかいて笑いました。

「何だ、“また”女の子といざこざあったのかい?」、保安官は親しげな柔らかい笑みを浮かべて言いました。ニースキーは誤魔化すように声を出して笑うだけでした。


「おいニースキー、お前、今度は何をしたんだ」

「だからここにはなるべく来たくなかったんですよ」

 保安所に着いての父親の第一声に、ため息をついて苦笑しました。

「さっき大通りで刺殺事件があったんですよ。現場を見たので軽く事情聴取させてもらおうと思いましてね」、保安官がかばうように説明してあげました。

「そうか。ちゃんと協力しろよ。じゃあ」

 と言って、父親はさっさと奥の廊下へと、早足で行ってしまいました。

「お父さんは忙しいからね。じゃあ私たちも行こうか」

 二人も別の横の廊下を通って、取調室へと入りました。保安官に手で指されて、部屋の真ん中に置かれた、二つ向かい同士にくっ付けた机の、片方の椅子に座り、反対のもう片方の椅子に、保安官がドッカリと腰を下ろしました。

「周りの人も、君も全く犯人は見ていないと、間違いないのかね」

「ああ、いえ、現場に駆け寄ったんですが、その時、あそこから遠くに走って離れていく人影を見ました」

「それはどんな人だった? うろ覚えでも、どんな感じの人だったか大体でもいいから聞かせてくれないかな」

「暗かったですし、背中で顔は見えなかったんですが、華奢な感じがしたので、女かもしれません。髪も長いように見えました」

「フーム、なるほど。それは非常に有益な情報だよ。ありがとう」

 すると突然、部屋の書類棚の横の壁に付けられた電話が鳴り出し、保安官は受話器をサッと取って電話に出ました。

「ハイ、ハイ、そうですか。分かりました。ハイ、失礼します」

 受話器を置くと、ニースキーに電話のことを話しました。

「目撃者からの電話があったそうだよ。あの場では言い出せなくて電話してきたんだろうね。今回の事件は、おそらくあの通り魔事件の犯人と同一みたいだね」

「あの通り魔事件って?」、ニースキーは首を傾げました。

「エッ、知らないのかい? ここ数ヶ月、今回の大通りや、人通りの多いところで、通り魔事件が数件起きているんだ」

「ハァ……知りませんでした」

「学校の勉強ばっかりじゃなくて、少しは社会も知っておこうよ、危ないよ。まあその事件は女性ばかり狙われているんだけどね」

「今回と似ているんですか?」

「ああ、どの件でも、被害者の鞄が盗まれているしね。君の言った『女性』というのもそうだ」

「犯人はお金に困ってるんでしょうかね。弱い女性ばっかり狙って」

「一度、かなりはっきりした目撃情報をもらったこともあるんだ。髪がボサボサで、浮浪者のような汚らしい格好をしていたらしい。もし見かけたら注意した方がいいよ」

「結構目立ちそうですね」

「それが、まあこの街にも浮浪者は沢山いるからね。断定して見つけるのに苦労しているんだよ。色々聞き込んだり、街中の彼らの溜まり場に、直接聞きに行ったりして調べているんだがね、まだ捕まっていない」

「凄い勢いで走っていきましたから、相当足は速いですよ」

「まあ迅速逮捕しなければな。じゃあ、とりあえず今日聞くのはこのくらいでいいよ。協力ありがとう」


 そして、保安官に丁寧に玄関の外まで案内されて、軽く頭を下げて会釈して、ニースキーは家路へとつきました。もう大分時間を過ごしたらしく、通りの人の数はめっきり減っていて、大きな街にも深夜の静けさが漂っていました。

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