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20:傷だらけの進行

 一夜、暗黒の空の屋根の上で輝く星ばかりを頼りに、明かりのタイマツも何も持っていないエウムたちは、見えない足元を引きずるようにして歩いて探り探り。時々小石に引っかかったくらいならよろめくだけで済みますが、不意に足元が消えて、小さな段差から落っこちれば、背中にいるウジカの分の勢いが増して、顔からまともに、小石の転がる地面に倒れます。エウムの顔は一夜で傷だらけ……とにかく起き上がり、顔の血を腕で簡単に拭くと、また歩き出す。

 やがて空の黒色は、次第に青みを増していき、星は消えてしまいました。エウムは一旦、立ち止まり、ゆっくりと膝を曲げて腰を下ろして、後ろのウジカのお尻をそっと地面にのせました。そして自分は、ヨロリと体を前に倒して、打ち捨てるように転がりました。

「ハァ……ハァ……」呼吸することさえ辛いほど、顔など体中の傷のことは勿論のこと、足の膝は、ソコに何か別の生き物が中に入り込んだように踊り笑い、体中の肉が石となったように硬く重いです。ウジカのことを確認する余裕もありません。そのままウジカは、もう何も考えることができず、深い眠りの中へ沈み込んでしまいました。


 ふとまた意識が戻って、目の前にある(顔が地面にペタリとつけていたので)巨大な小石の間を、何かヒモみたいな細長い虫が通り過ぎたのに少し驚いて起き上がったら、空はもう夕日に赤く染まっていました。

「あ、一日中寝ちゃった……」

 といっても、昨日の夜ずっと歩き続けたので、昼と夜が反対になっただけです。

 エウムは足をだらしなく左右に広げて、呆けた目で、地平に落ちていこうとする大きな真っ赤な太陽を、眩しくて少し目に沁みるのも特に厭わず見つめています。そうしていれば、さっきから体中アチコチより響いてくる鈍い痛みを、幾らか誤魔化していられるからでした。砂と石しかない荒れ果てた砂漠ですが、その大きく雄大な景色の中で見る大きな夕日は、とても美しく、とても力強い光景でした。……もしかしたらエウムは、この輝ける風景に、ふと故郷のことを思い出していたのかもしれません。

「ウジカ」、後ろを振り返ると、ウジカは……眠っていました。

「アハハ……」、その気楽そうな姿を見ると、もう呆れたり怒ったりする前に、ただ乾いた笑いがこみ上げてくるばかりでした。

「ハァ〜……」、バッタリと手足投げ出して、大の字に倒れ込みました。

 風が上空の方ではとても強く吹いているらしく、モウモウと砂煙が、狂ったように渦を巻いていて、空が白く霞んで見えます。

 お腹がグゥ……とひと鳴き、エウムは腰に付けていた布袋から、村から持ってきた木の実を取り出して、二粒食べました。それだけではとても足りませんが、沢山食べてはすぐ食料が無くなってしまいます。

「ウジカも食べる?」、頭の上の方を見て訊ねました。が、やはり何も返事はありません。

 ふとエウムは急に不安になってきました。まさか気を失っているのでは……。エウムは体を起こし(少しでも動けば全身に痛みが走りますが我慢して)、ウジカと相対して向かい合い座りました。ウジカはあぐらをかいて、力無く頭を垂れています。彼の頬に手を当て、口元にも手のひらを伸ばしてみました。温かく、息もしています。とりあえず、格好が格好だからと、ウジカの背中に手を回して、ゆっくりと後ろに下ろしていって、横たわらせてあげました。

 ふと思い出して、また腰の布袋に手を突っ込んで何かを探していると、小さな小瓶を取り出しました。それは村で金花の世話をする時に、いつも携帯して持っている水の小瓶でした。ふたを開けると、ウジカの口に持っていって、そっと傾けて、数滴、中へと垂らしました。ウジカは疲れで気を失っているのかもしれません。食べられないとしても、とにかく水だけはと思ったのです。

「(慌てて飛び出したからなぁ……水なんてほとんど無いよ)」

 砂漠に出る前に、昨日の草原で、朝露を幾らかでも集めて入れておくべきだったと後悔しました。エウムは、持ってきた草原の草を取って、それをよく噛んで、染み出てくる微かな水分をしっかりと味わいました。


 また、夜はやってきます。

 エウムはまた暫くウジカと並んで横になっていて、太陽の赤が完全に消え、星が強く輝き始めた頃、起き上がり、またウジカの様子を見ました。ウジカの息は凄く弱く、依然としてピクリとも動く気配も無く、眠り続けています。のんびりとなんてしていられません。

 再び、気合を入れるために、硬く強張った両足を強く張ると、また背中に背負って、ズルズルとおぼつかない足取りで、十字の星座を目指し歩き始めました。

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