11:業火
金色の村が、満月の夜に、真っ赤に燃えています。炎は長老の家を囲って、ゴウゴウと焔を、屋根の上の十字架へ、黒空へと高く伸ばして、勢いよく豪奢な邸宅を焼き尽くしています。
「鼠め、炎で炭になるまで燃えてしまえ!」
長老様は赤き炎に向かって、そう叫びました。
長老様は一度宝玉を盗まれてから、盗賊のことを探りながらも、また村人のことも同時に部下に探らせていたのです。ある日エウムが、ウジカの描いた土の絵の入った木箱を持って、長老様にお見せしたことがありました。
「これ、ウジカが描いたんですよ。手を動かすのも大変だったんだから凄いですよね」
「何だこれは……記号、暗号か?」
「うーん、よく分かりません。でも、この三角の上に十字が描いてあるのは、これってひょっとして、長老様のお家を描いたのではないかと思いました」
長老様はエウムから木箱を受け取り、ジッと覗き込みました。
「なるほどそうかも知れんな。しかしあやつ、ワシの家を見たことがあったか? 生まれて奴の命名の時には一度来たが、それは記憶もままならぬ幼き時。それからすぐに病気を発して、一度も家には近寄ったことも無いはずだがな」
「わたしが色々お話しているので、きっと何となく知っていたんだと思います」
そして、ある日、長老様はハッと思ったのです。あのウジカが描いたという、意味の不明な絵……三角の中の“○”、そして雫がそれに垂れるように落ちている……まるで何か意味を持って暗示しているように、ふと思ったのです。
それが、あの井戸守の女の事が発覚されて、にわかに女を怪しく思いました。しかし女の切迫した話を聞いたりしているうちに、ふと迷いが生まれました。あの絵を描いたのは、所詮、方端者の戯れ事。そんなものを真面目に信用するべきか。いや、少なくとも女の言うことの方が信用に足る。しかし、一抹の疑念も完全に晴れるわけでもない……何故女はもうずっと前に宝玉を盗んでいながら、未だに手元に持っていて、そして子供が消えているのか。
そこで長老様は、女の言うことも半分信じながら、もう半分では女のことを疑いつつ、罠を張りました。宝玉はあらかじめ、長老様の手で別の場所に移し、邸宅の中を空っぽにしておきました。そして見張りの者の連絡を受けて……女が邸宅に入り込んだと……それを聞いて、すぐさま盗賊探しから引き返し、邸宅の前に来ると、部下に命令し、火を付けさせました。
「疑わしきは、罰せよ。灰となり、全て消えてしまえ」、不気味な呪詛を唱えて、長老の顔も真っ赤に血を浴びたように光っています。
炎は一日中うなりを上げ、やがて明け方になり、不意に通り過ぎた通り雨が、静かに、赤い地の熱を完全に奪い去りました。朝日が村に注がれ始め、雨に濡れた金花が眩く光り、辺り一面、目の痛いほどの輝きに包まれました。
焦げ臭いにおいが立ち込めています。火も消えて、熱も落ち着いたと見た長老は、目の前の自分の館だった黒炭の山へと近づいていきました。杖で所々焼け跡を、掘ったり、崩したり、右から左、奥から手前と、入念に突き回しました。が、あの女の死体は、跡形も残らないほど完全に焼き尽くされたのか、ついに見つかりませんでした。
炭山から出て、近くにいた部下に命令しました。
「さて、新たな家を作らなくてはならぬ。おい、棟梁や連中を集めて来い。三日三晩不休で急いで作らせろ」
部下は皆、何も言わず、ただ頷き、そして急いで動き出しました。