10:答え
「もう全てが終ったの」
「何も、何も僕は、知らなかった……」
「それで、自分が許されるとでも?」クスリと、あざ笑う妻。
「しかし、もう宝玉を盗む意味は無いのだろう? もうこんな馬鹿な真似は止めて、事情を長老様にお知らせしよう」
「これから、最後の仕上げをするのよ」
「な、何を……?」
「こうよ」
…………夫の胸倉に、刃がスルリと刺し込まれました。
「ア……ガッ!」、夫は口から血を吹き、苦しさに両手で空気を掴むように動かしました。
「サヨナラ」
「…………ッ!」
夫の声は音にならず、やがてガクリと首が折れ、ゆっくり沈むように倒れ込みました。背中の金花が、ツンと茎を張り誇り高く咲いていた背中の花は、夫の命と共にして、命の流れをピタリと止め、いきなり茎が折れたように全ての花が力無く曲がり、金色は内から毒が染み渡るように黒色が侵蝕し、やがて一瞬のうちに腐り、土くれのように変わってしまいました。
その様子をつぶさに観察し、確かに死んだのを確認して、夫の手を取って、その刃物の柄に握らせました。
夫……男の懐を探り、服の裏の隠しに鍵を見つけると、それを盗み取りました。やがて女は静かに立ち上がり、あらためてその死体を見下ろしていると……耳に、痛いほどの静寂が襲ってきました。真っ暗な長老の邸宅、月明かりだけが青白く辺りを照らし、目の前に転がる、打ち捨てられた人形のような体からは、真っ黒い血がジワリジワリと、深い深い底無しの水溜りをつくっていく……。
「(フン、何を怖がってるの! 後は、宝玉を持っていくだけ。全てを壊して、この村を出て行く。そう、それから全てが新たに始まるのよ)」
気付けば女の体は細かく震えていました。自身に叱咤するように、平手を自分の腕に打ちつけると、気を取り直し、鍵を握り締め、死体を通り越して、家の奥へと進んでいきました。
やがて一つの重厚な鉄の扉の前に出ました。女は手の鍵で穴に差し込み、ガシンと重々しい音を立てて錠が開きました。女の心臓は段々と重く大きく鳴り出しているようでした。もう後戻りの出来ないところまで犯している“罪”。後ろに帰ることは出来ないという、怖さ。汗ばむ掌で力いっぱい(鉄の扉の冷たさが女に得体の知れぬ恐ろしさを与えてきました)、押し開きました。ところどころ錆びていて、ギリギリと濁った音を立てて、ゆっくりと口を開けていきます。
かび臭いにおいが辺りに漂い始めました。
女は左腕で口と鼻を覆い、慎重に中へと足を運びました……もしや陰に何か長老の仕向けた刺客が隠れていやしないかそんな気がしたのです。が、誰も人の気配はないと安心すると、まっすぐに闇の奥へと歩を進めました。林檎腹からあらかじめ金蔵のことをある程度聞いていたので、確認しがてら、すぐに宝玉は見つかりました。
「(……よし)」、手を伸ばして取ろうとした……その時、何かに……気付きました。
「何? ……きな臭い……まさかッ!?」