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ブリキの町

『才能が無い』

『運が無い』

世の中にはそんなことばかり言っている人がいます。

でも、よく考えてみて下さい。

それは本当に『才能』や『運』ですか?

『知識』『学歴』『筋力』『金』?

あなたの答えを見つけて下さい。

ここは ブリキの町


ブリキの家に ブリキの犬


ブリキの町にあるものは みんなブリキ


住人もブリキ


木もブリキ


ブリキなので時々 動きが悪くなります


そんな時は油を差します


ブリキなので止まる事もあります


そんな時は背中のゼンマイを巻きます


でも 背中にあるため自分ではゼンマイに手が届きません


そんな時は 他の住人に巻いてもらいます


だから この町の住人は決して一人にはなりません


だから この町の住人は決して独りにはなれません


そんな町の通りに ある日 一本の植物の芽が生えてきました


突然生えてきたその植物は ブリキではありません


だから 誰もどう接したら良いのか分かりませんでした


最初は物珍しさで集まってきたたくさんの住人も いつしか減っていきました


植物は芽のまま


一向に成長しません


そして、いつしか町の人々から忘れられてしまいました


それから数ヶ月がたった ある月の綺麗な夜の事


1人のブリキの少女が 通りの隅で 


月明かりに照らされた一本の植物の芽を見つけました


冷たい夜風に吹かれ今にも折れてしまいそうなその芽を


ブリキの少女は両手でそっと すくいあげます


『大丈夫?』


ブリキの少女はそう静かに言うと


小さなブリキの少女の家に連れて帰りました



ブリキの少女は家に入ると 小さなブリキの箱に植物の芽を移します。


しかし ブリキの少女にはそれ以上どうしたら良いのか分かりません


ブリキの少女には ただ 見守る事しか出来ませんでした


そして、いつの間にかブリキの少女は


小さなブリキの箱を抱えたまま眠ってしまいました


やがて夜が明け 朝日が窓から差し込みます


『う〜ん』


ブリキの少女は目を覚ますと まだ眠そうな目を擦りながら立ち上がりました


そして ゆっくりとブリキの箱に目をやります


すると植物は 蕾を付けていました


ブリキの町で成長はありません


生まれた時から大人であり


生まれた時から子供で・・


だから ブリキの少女には それが不思議で仕方ありませんでした


それから また 幾日かたったある日・・・


ブリキの少女が気付くと 蕾を付けた植物は


今にも枯れてしまいそうなほど弱っていました


ブリキの少女は家を飛び出します


小さな蕾を付けた植物の入った 小さなブリキの箱を持って・・・


『誰かこの蕾について知っている人はいませんか?』


『誰か教えて下さい・・・助けて下さい』


ブリキの少女は町中の住人に聞いてまわりました


しかし 誰もが物珍しそうに蕾を眺めるだけで


誰一人、どうすれば良いのか知っている人はいません


ポツ 


ポツ 


ポツ 


ザァーーー


突然 空から大粒の雨が降ってきました


雨はブリキの少女と・・・小さな蕾に降り続けます


止む事も無く 


ただ 


ひたすらに・・・


涙が頬を伝い 雨に混じり 小さな蕾を濡らします


ブリキの少女は この小さな命に 


何もしてあげられない事がたまらなく悔しかったのです


『・・・ごめん』


ブリキの少女は 


そっと 


道路わきの土に蕾を植え替えてあげました


しばらくして雨が止みました


と、同時に雲も晴れていきます


その合間から少しずつ顔を出したのは


大きな満月でした


月明かりが蕾を照らします


初めて見た あの時のように・・・


蕾は懸命に生きようとしていました


やがて、朝日が昇ると共に 蕾は花へとその姿を変えてゆきます


ゆっくりと 


ゆっくりと 


力を振り絞るかのように・・・


朝日と同じ色の小さな花へと・・・


気が付くとブリキの町の住人達が集まっていました


そこに咲く たった一輪の花の鮮やかさに 誰もが釘付けになります


そして・・・住人たちは黙り込んでしまいました


物珍しさだけで集まって


何も知らないことを理由に


何もしようとしなかった自分たちを


住人たちは恥ずかしく思いました


それから住人たちは、何があっても見守り続けることを


少女と町の皆 そして、道路わきに咲く小さな花に


約束します


それからまた、しばらくたったある日の事――


ブリキの町に嵐が近付いてきました


ブリキの住人はブリキで町を補強します


しかし、ブリキでないその花にブリキでの補強は出来ません


嵐が来れば 外に咲く小さな花はあっという間に飛ばされてしまいます


考えた住人達は 花の周りを囲み 自分達で守る事を決めました



その日の夜、外は大嵐



住人達は飛ばされないよう ただ、じっと その花の周りを囲み続けました


もちろん、ブリキの少女もそれに加わります・・・


やがて夜が明け 嵐が通り過ぎ


朝日が町を照らしました


ふと、地面に目をやると


朝焼けの光を水滴に反射させて より、一層 鮮やかに輝く一輪の花が見えます


ブリキの少女はそのあまりの美しさから その花に『アイ』と名付けました


『新しい 命』から1字ずつとって 『アイ』と・・・


その名前に、そこにいた誰もが頷きました


初めて守った小さな花を 誰もが愛したのです


それは作りものの町で生まれた


作りものでない 確かな気持ちでした・・・




しばらくして 花はフワフワとした白い種を付けました


その種は 風にのって少しずつ大空に舞い上がります


またどこかできれいな花を咲かせることを


誰もが願い 誰もが別れを惜しみました


『愛』を咲かせる 小さな種に・・・






ここは、ブリキの町


ブリキの家に ブリキの犬


ブリキの町にあるものは、みんなブリキ


住人もブリキ


木もブリキ


でも・・・今、ここにはブリキではない 


確かな、大切なものが1つだけあります。


それは とても美しく


とても素晴らしく


心・・・トキメクもの・・・


あなたにも 届きますように・・・



読んで頂き有難う御座います。


是非、あなたをブリキの町の住人に置き換えてみて下さい。

そして…あなたのやれることをやろうとして下さい。


余計なおせっかいかも知れませんが…


『ブリキの町』を通して何か伝わるものがあれば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか楽しめました。 いい話です。
[一言] 私も物書きの端くれです。花の名前の付け方、ストーリーなど、自分にはない、見習うことばかりで勉強になりました。 『新しい命』でアイ。 とても良かったです。 参考にさせていただきます。
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