王女のオアイテ
今回GLの香りがします!
ちょっとした脱線ですが苦手な方は回避をお願いいたします(>_<)
あくまで当作品ノーマル推奨です☆
「わたくしがアレを嫌う理由?死なないからかしら」
アレこと魔女の臨時召使い連れ去り事件から一夜明けた現在。
未だに当人を差し置いてイライラを隠そうとされない王女に、手にした水晶製の乳鉢がじきに割れそうな気配を見せる。ちなみに中身は恐ろしい香りを漂わせた物体X。聞けない、正体なんて。
よし、か、会話、何か世間話を!と思ったところで出してしまったのは魔女の話題。
その問いに、手を止めて満面の笑みでこちらを向いた彼女は、手背に青筋を浮かべ器を粉にした。
「もうなんどやってもだめなの」
舌足らずな少女が可愛らしく話すようなお言葉に、この先に踏み込めば生きて帰れない戦場が広がっている確信がある。なにをやってだめだったかなんて聞いちゃダメ!
「片づける道具をかりてきま――」
「ええ、はやく片づけないといけないのに。あれはわたくしの」
一旦切った言葉とともに、少し大きめに残った欠片に乳棒をあて、力を込める。
ジャリっとした音の後に、白い砂がキラキラ光る。
ごめんなさいご存知ですか王女。水晶って固いんです。割るのだって結構な労力です、通常粉末になるなんてないんです。
「伴侶の予定なのだから」
「ええええええええ!」
だれ!そんな組み合わせを考えた人!
人類を破滅へ導く予定なら間違ってないけどね、最短距離だろうけどね!
「驚くでしょう?本当、心底受け付けないことよね。魔女なんて、欲しいものは必ず手に入れる、それとなく邪魔ものには確実に天罰天誅、逆らう者には生きている後悔ののち地獄を、というような感じで」
「それとなくにまで律儀に対応!」
あ、こいつ邪魔くせえなくらいで、天から神の裁きを受けると。あいつやっぱ怖い!
「それが自分と被ってしまって、目障りなの」
「こっちも!?」
あれ。それって私、あとどれくらいのライフポイントですか。もしかしてもうマイナスで調理法を考え中とかですか、どうしようありえる……!!
ハッとして自分の今までを振り返り青ざめる私に、王女は気を遣ってか、やわらかな声音を降らす。
「あら、ルーには幸福な未来を約束してあげてよ」
「それは飢えも悲しみもない肉食動物とそれに連なる食物連鎖の下位生物が仲良く手を取り合ってお花畑でダンスしてしまえるような世界での将来ですか?つまりあの世」
「それ楽しそうね。肉食動物が飢えていれば、数名連れて行って高みの見物しても良いくらい。わたくしと一緒に楽しみましょうね」
「想像してしまった、怖い!」
グロぃ!王女、黒いです!可愛らしいふわっふわの容姿で、何てことを。
特に最近、ダークサイドのチラリズムが多いように思う……何故?
「まあ、そんな余興は材料が手に入ってからとして。せっかくだし第一号は魔女ね、決定。急がないとまずいわね」
「実行がマズいです!しかも記念だからみたいなノリ!ご結婚不成立を祈って出来ることは協力でもなんでもするので立会を遠慮させてください」
私、お肉好きです。食べられなくなる衝撃はいりません。
「そう?でも、きっと楽しいわよ」
「妖精さんに誘われてのぞいた楽園は阿鼻叫喚の地獄でしたっていうオチは要りません」
「ぞくぞくしちゃうわね、苦しめばいいわ」
「憎しみが半端ない!」
これ、性格が被るとかのレベルじゃないです。
…………あれ。
もしかして、これは。
「王女には、あの――――好きな方がいらっしゃいますか?」
「…………え」
「え、っと、おおう?!王女?!」
固まった王女の表情に、汗が一滴タラリと私の背筋を下る。
すごく軽い、軽ーい質問のつもりだった。
もしかして、魔女がいるせいで結ばれることができないとか、そういう相手がいるのかなと。
だから憎悪するほどに、嫌いなのかと。
が、受け取った方はそうではなかったようで、こぼれそうな輝く瞳をさらに見開く。
そのまま時が止まりそうに見えて、しかし王女は素早く立ち上がり、私に抱きついてらっしゃった。
重心が基底面になかったせいで、たたらを踏みそうになるのをぐっと堪える。
……美少女ハグラッキーとか思ってないですよ。
自分の腕も彼女の背中に回そうとなんて、どさくさにまぎれてしてないですよ?この手は彼女を支えようとしているだけです。けして邪な思いは抱いていません!
それにしても王女、意外とがっしり腕を巻きつけて下さる。遠慮とかなくても引きはがすのが難しいくらいに。もったいないからしないけ……ううん何も言うまい。
「え?」
王女が何事かつぶやかれたのを、脳内の悪性不埒成分のせいで聞き逃してしまい、礼を欠くことながらも聞き返した。瞬間に、足払いを受け。
「ええ、わ、ぶッ!」
どっさりと、つい今しがたまで主が腰かけていたソファに背部を預ける格好になる。
どこにも大した痛みを感じないまま、視界が切り替わった。
王女が足技とかショックー!!とか思い始める矢先、顔を紅らめた彼女が覆いかぶさってくる。
え、あの、近くないですか?
「気付いて、らっしゃったのね」
「え、ホントにいるんですか?!うわショック!」
神経伝達物質が過剰分泌されるような、ソソられる王女の表情が、眼前いっぱいに広がる。
眼の下は上気し、うるんだ瞳の輝きが滴を零しそうで。
この年頃の少女からおよそ想像もできない色気に、自分の喉がごくりと動いたのに、遅れて気付く。
これを。この地上の宝玉を仕留めた男がいると。
「だったらいっそ、今、私が」
「え?ルー?」
「王女を私だけのものにとか考えてしまうこの脳みそ腐ってるー!」
変態がここにいます!!ギャー!!王女逃げて!!
という叫びは残念ながら脳内に反響して終わった。
構音を紡ぐはずの口腔に、別の熱を受け入れたせいで。
皮膚が触れる柔らかで穏やかな、昨日とは異なる感触をくちびるに感じる。
「いいえ。わたくしも、あなたのことを独り占めしたい」
そう言って、一度離れた熱が、再び戻ってきた。
何かがじんわりと、浸透していく感じがした。
臨時召使いの災難遭遇翌日のこれって分類災難ですか?な一日のはじまり