スガタカタチ
「何色ですか?」
王女へと届けられた希少な花を生け終え、余ったものを頂戴したので、貸りている部屋へいったん戻ろうと回廊に出たところ。
例のごとく湧いて出た魔女に、思わず聞いてしまった。
前回同じように出現したときは、黒と言うか、闇色の靄からだった。
それが今日は、蒼い霞みから出現。
このひと月で、気付いたことがある。
魔女の容姿は同じでも、定まっていない。身体に纏う――髪や眼の、イロが。
色彩検定で問われるようなバリエーションではないにしろ、会うたびに、記憶と異なっている。
しかしこの世界の人間が全て、この特徴を持つ訳ではないようで。
けれど彼に限った事でもない。
例えば、よく出会う使用人仲間にこういった変化は見られない。カットやウェーブ、パーマを楽しんだりはあちらと変わらないが、カラーリングの種類は少ないらしい。言うまでもなくカラコンなんてものは無い。魔女だからできることなんだろうか。
そう尋ねれば、偉い方のすることは俺達には預かれない事だよと、誰かが言った。
「あ、気付いてくれた?もう、恋人の変化に疎いと喧嘩の元になるよ?」
「変人の変化に触れないのは世間の優しさなんですよ」
「……気付くからね?」
「……え?」
何が?というように、そのまましばらく笑顔でお互い向き合っていたが、魔女の口元が一層引き上げられたところで逃げるが勝ちという言葉が閃いた。ら。
「じゃあ変態は変態らしく変態鬼畜行為に及ぼうかな」
「待って下さい私が言ったのは変人で変態鬼畜腹黒ドS至上主義だなんて言ってませんしそんなに自分を卑下しなくても!――ってあれ?どっちがより悪いんでしょうかね?」
「私にも判らないからどっちも味見してみれば?――ルー子の身体で」
どこまでやればいいんだろうねぇ、と一歩踏み出しながら、魔女は可愛げに首を傾げる。
それ、動悸がして腹が立つだけで人体に有害ですよ!
「か、身体と言えば今日のお髪は青色なんですね綺麗ですねお似合いですね!」
伸びてきた手を右手でガードし、さらに左手でもう一方の魔の手を防御。
押し相撲をしているような私の体勢に、片や相手は姿勢よく対峙。
ついでにお世辞も忘れずお見舞いするが、こういった日本人的愛嬌は使いどころが重要だ。明らかに誤った!
このままでは押し負ける!と、思った時には遅かった。
「ひ!略奪的抱擁!!」
「素直にお姫様だっこと言わないあたり余裕があるんだねぇ」
「スミマセンボケずにいられない性分でして、ハイ――で?で?!どこに?!」
私の体重なんか羽のようにしか感じないというようだ。が、もしプルプルとこいつの上腕が震えていたら出るとこに出て人ごみの中心で声高に叫ぶ!あのね私は人一倍、この星に愛されているの!私を引っ張る愛の重力って、罪だよね……!
――色んなものを失う予感がする……。
「ルー子、危ないから暴れないで。何色か知りたいんでしょう?人前では恥ずかしくて言えない秘密だから、お招きしようと思って。私の部屋に」
「そんなこと口に出したのはどこの馬鹿ですか!イヤそもそも!妙齢の若い男性が、女性を部屋に招くなんて!口さがないご近所のご婦人にアナタの評判を貶めてくれと言わん行為ですよ!!襲われてむせび泣いてこれ以上はだめぇッ!って悶えて困るのはアナタですからね!」
自業自得だよへっへっへ!って嗤ってやる……あぁ、変態って感染しますね。
「もう、楽しいなぁ。もっとおしゃべりしていたいけれど、着いちゃった。ではダーリン。お婿ないしお嫁に行けないカラダになったら責任とってね――その全身全霊で以って」
「重すぎる!!」
どこからか飛び降りたような(また!)衝撃を相手の腕から受け、空気が落ち着いたところで開眼した。うん、第3の眼はおデコにクールに開かなかったけど、何かが悟れたようなキ・ブ・ン☆
帰還できて精神崩壊おこしていなければ、お使い後にコイツと遭遇する率と、人生における何らかの喪失の統計を取ろうと決意した。
魔女と召使いの好奇心による失敗談PART2。