臨時召使い、嘆く
前話の前文、加筆修正しました。居場所の明記です。
大変遅くなってしまい申し訳ございません(>_<)
「お疲れ、ルー子」
「この疲れの大部分はアンタに起因しています。とか言えたらストレス溜まらないんだろうなーはああああ」
「言ってるからね?正直なお口が何もかも洩らしちゃってるからね?」
「というやり取りすら疲れる!」
「これ何て言うイビリ?」
朝から他人様に、「自信?この腹周りのこと?結構蓄えてるから誰にも負けないわ!」という見た目の美しさでは決して競えない私の全裸を曝すという醜態を強いられていたのがようやく終了した現在夕刻、現在地魔女の中央塔。
ぐったり項垂れた私は、記憶と変わらず気位の高そうな椅子に撃沈していた。もう背後でぶつくさ言ってる魔女の方を向くことさえ億劫である。
魔女所有の離宮で過ごす二日目の本日早朝。
陛下の夜会に向けて、王女とそのご側近がタイムスケジュールや警備等々の打ち合わせをしているときに、魔女は私を拉致しやがった。
気付けば危険地帯、再び。
どっから現れたのか白装束の少女が3人、私をぐいぐい引っ張るので付いて行ったらえらい目に遭わせてくれた。もうアレである。「わ、わたし一人で着替えれますっていうかあああ脱がさないで!!」というアレである。
風呂と着替えがここまで人間の尊厳を貶める行為だと知った記念日だ。お菓子をくれる怪しい魔女に加え、可憐な美少女にも付いてっちゃいけないことを学習した。
王女の付き添いでちょっとおめかししてパーティ参加~くらいに思っていたが甘かったねナメてたよね。夜会って準備が半端ない。文字通り頭の先から足の先まで手入れをされてしまった……もう帰りたいよう……。
「ほら立ってみて――うん。よく似合っている」
寝椅子の背もたれと台座に顔を埋めていた私の腕が引っ張られ、眼を閉じたままだらけた顔でそれに応じて立った。
ふわっと裾がひらめいたのを感じる。肌触りが半端なく良いAラインのドレス。色は薄桃のグラデーション。衣装だけ拝見したときは文句なしに可憐でキラキラオーラを振りまく素敵ドレスだったが、中身に私が収まってしまっている今はその魅力も半減以下だろうと推察できる。
魔女め無駄な買い物しおって!クチュリエ製のドレスがどれだけするかなんて考えたくないが、向こうで貰っていた夏季賞与で購入できるブツじゃないことぐらい判る。
「服屋の店員さんはサイズがあってるだけでそう仰ってくださいますああ勿体ない」
「ルー子がこれを脱いでも私は褒めるよ?やる?」
「全裸が似合うって私どんな野生児!」
「私の裸体も見せてあげるから野生に戻って生殖活d」
「新皮質由来の理性というものご存知でしょうか?っていうか持ってます?」
ねえ?と魔女を睨もうとした瞬間、固まった。
「ナンデスカソノ格好」
「夜会の衣装。私の礼服は黒って決まってるんだよ」
これって動きにくいんだよねえと首をすくめる魔女の顔と、そのむき出しの肩が触れて髪がさらりと垂れる。
そう、肩と鎖骨の一部がむき出し。形の良い三角筋がチラリズムどころの話ではない完全露出。
材質不明の黒艶を放つ布地が首から脇の下に向かって魔女の体表面を覆い、均整のとれた彼の筋肉が浮いて見える。
皮膚を隠しただけのそれは際どいところまで続いていて、「ここここれ以上はいろいろアカン!」っていうギリギリで腰穿きの床に付く程長いスカート(と、いうには左右のスリットに遠慮がない)が卑猥なブツを隠蔽。
腕は体表と同じ材質らしいグローブで、上腕二頭筋から手指を残して肌を隠している。
とてつもなく破廉恥臭がする衣装だ。
「地味だよねえ?」
「イヤもういろんな意味でけばけばしくって眼に毒です!!というかもうこれはR18です!!年齢制限入ってしまう状態ですよ何平然としてんですか!?そんな格好を第二次性徴迎え済み閉経前のご婦人が目撃したら天使が受胎告知で天手古舞いですよってあああああ!!」
抗議の途中で「ええ?でも地味だよ?」と、くるっとターンした魔女の背中を見てしまい、またしても脳内に激震が走った。
「背中ァッ!!」
もう豪快に隠し惜しむ気配なく全背面が御開帳。
無駄なものが一切ないそこは、微細に至るまで過不足なく整った皮膚と筋肉と背骨、肩甲骨が芸術的な曲線を生み出している。それ以上に眼を奪うのは、そこ全体に狭しと浮かぶ蒼い模様。
唐草のようだと思っていたそれは、よく見れば伸びやかな蔓に鋭利な棘を帯びている。そして所々に咲く、華のような紋様。
「そう。ルー子のとお揃い。君にあげた私の刻印だよ。ああ、それも、イイ感じに成長しているねえ」
ついっと、白い繊手が私の肩口を指した。
「ま、またまた!痣が拡大するワケ――」
いつだったか魔女に付けられた所有印とやら。毎日注意深く観察しているが、今日までこれといった変化は認めていない。
が。
「見てない見てない見てない見てない見えてないないないない何もない!」
「4割ってところかな?いずれこんな感じになるよ」
「うっわ何この人今現実から目を逸らした私にズバンと現実突きつけたよ人でなしだよなのに嬉しそうでさえあるよっていうか何で?!昨日はこんなじゃなかった!」
「あ、言ってなかった?」
模様に気を取られていた隙に、ごめんね?と言いながら魔女が一歩を詰め私を抱き寄せた。
何だろうこの宥め慰めるようなハグ。私の近い未来にこれが必要になる予定はないはずなんですが。
「これは抗体でね。君が体内に取り入れた魔力を含む抗原に反応するようになっている。メモリーに働いた細胞が情報を積み重ね、より複雑なタイプに反応できるように独自の魔法円を自家菁菁するの。ほら、ルー子が王女の唾液と血、摂取したでしょう?それで反応しちゃったんだよ」
「言われていたとしても解らないことが解る!」
「魔力に反応する私の抗体を君に移植したってこと。これは結構優秀だから、大抵の力には拮抗できるよ?それだけでなく新規に接触する魔力に対して抵抗できるように術式を組み立てていく――私よりも魔力の劣る者のどんな干渉にも、君の身体が耐えられるように」
「…………………………ええっと?」
心拍数が上昇していく。
予感が現実見ろよと嘲笑ってくる。ぶっ飛ばしてやりたいのに、そうするだけの気力がどんどん萎んでいく。
「紋様は自分の加護を与えることと、所有の意味があってね。魔力を有する人間が施すことができるのはそこまで。ただ私は魔女だから」
私の耳を飾る宝飾を、シャラっと音をさせて魔女が避ける。
「さっき言ったような付加を織り交ぜられる。これは、誰も知っている人間は居ないことだから王女も反応しなかったんだろうねえ。このことが露見すれば良くて幽閉のち暗殺、よろしくない方向で考えれば実験体として引っ張り凧。国中から狙われるねえ?可哀そうな私の可愛い琉胡子」
“可哀そう”が魔女と私、どっちにかかるんだろう?とズレた思考に走りかけた瞬間、
ぐっと抱き竦められ、身体の自由がゼロになる。
次いでぴちゃりと、生温かいモノが私の肩を食んだ。
印を愛でるように撫でて、魔女が囁く。
「今この世界で、君は私の次に無敵なんだよ」
王女にも言わない方がいいよ?と紡がれた音に私の首はものすごい勢いで首肯した。
臨時召使いの秘密がカミングアウトされた夜会前のひと時。
ご覧くださりありがとうございますm(__)m!!
大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした(>_<)
おじいちゃま奪還、東王家編頑張ります!
菁菁:草木の茂って盛んなさま