8話 労働
この時代に来て初めて競馬で大成功。
そう思ったのも束の間、結局身分証がなければ大金を手にする事はできない。
この漫画喫茶に入れるのは明日の朝まで。
所持金はぼなし。なんとかしないとな.......
そんな事を考えながら漫画喫茶内をふらふら歩く。
身分証もない、銀行口座も使えない、仕事もできない。
そんな時、薄暗い奥のソファに座っている小汚い住人に目が留まった。
「おい、兄ちゃん。なんか困ってんのか?」
私は正直に答えた。
「ええ、明日まで宿もなく、仕事もないんです」
住人はにやりと笑った。
「そうか……なら、仕事紹介してやる。身分証いらねぇやつな」
案内された場所に行くと白いバンが止まっている。
正直怪しい。
普段なら絶対についていかないだろう。
加齢臭とタバコの臭いがするバンに鮨詰めにされ30分ほど走っただろうか。
郊外にある工場の解体現場のようだ。
「ここだ。気をつけろ、あまりいい仕事じゃねぇぞ」
中に入ると、作業着姿の男たちがちらりと私を見た。
「身分証なしでも働けるって聞いたんです」
「おう、日雇いでよければいいぞ。その代わり保険もなんもねぇから怪我しても死んでもしらねぇけどな」
「よろしくお願いします......」
私は身体を縮こませ、解体作業の準備をする。
重い鉄パイプを持ち上げ、埃だらけの現場を歩く。
心の中は「イヤだ、もうやめたい」と渦巻く。
でも、働かなければ生きていけない。
どうしても、今を乗り切らなければ。
初日は体がついていかず、何度も転びそうになった。
埃と汗で顔がべたべたになり、手の皮がズルズルと剥ける。
「こんな仕事、誰がやりたいんだ」
それでも、なんとか一日を終え、現金4000円を手にした。
9時から18時まで働いて4000円。
そこから宿泊費と食費を引いたら残るのは数百円だ......
だがそれでいい。
少しずつでも現金を貯めることができれば自分には未来のわかるノートがある。
久々の労働と当面の生活の目処がたった事で久しぶりの充実感のもと、いつもの漫画喫茶に戻った。
日雇いの仕事を初めて3日目。
肉体労働に慣れてきたころ事務所でこんな話を聞いた。
この街には何でも買い取ってくれる個人の店がいくつかあり、ここの労働者の中には盗品などをその店に持って行く人間も居ると。
私も休憩中、その話をぼんやり聞いていた。
「まあ、盗品とかって話じゃなくてもさ、現場で見つけた不要なもんを小遣い稼ぎにする奴もいるんだよな」
ベテランの男が笑った。
「前に新品の電化製品とかもあったな。ほら、どっかの倉庫から盗んで来た大量のPCの部品とか」
私部屋の隅でこっそり聞き耳を立てて居たが、なんとなく頭に残った。
盗品のPC部品みたいなものが、売れるなら未来から持ち込んだUSBを怪しまれずに大量に現金に変える事が可能かもしれないな......




