37話 新しい糸口
翌朝、私は福島駅前のバス乗り場に立っていた。
前日と同じ川俣町行きのバスに乗る。整理券を取り、窓側の席に腰を下ろす。車内は静かで、乗客もまばらだった。
バスはゆっくりと発車し、街を離れていく。
建物が減り、畑が増え、やがて山が近づいてくる。昨日と同じ景色だったが、見え方は少し違っていた。
様子見ではない。
今日は、中に入るための手がかりを探しに来ている。
山道に入り、渓谷沿いを進む。川の流れを横目に見ながら、私は小さく息を吐いた。
しばらくして、バスは川俣町に入る。
停留所で降りると、空気は昨日と同じく乾いていた。人の気配は少なく、音も少ない。
私はそのまま歩き出し、役場へ向かった。
大きくはない建物だったが、この町の中心であることはすぐに分かった。中に入ると、静かな空間に事務的な音だけが響いている。
窓口に近づき、少し間を置いてから声をかけた。
「すみません、仕事を探していて……このあたりで人手が足りていないところってありますか」
対応した職員は一瞬だけこちらを見て、それから穏やかに頷いた。
「どういった仕事をお探しですか」
「体を使う仕事なら、特にこだわりはないです」
嘘ではない。選べる立場ではなかった。
職員は少し考えるように視線を落とし、それから口を開く。
「農業関係でしたら、時期によっては手伝いを探しているところはありますね。ただ、どこも顔見知りや紹介があることが多いので……」
予想していた答えだった。
それでも、ここで終わるわけにはいかない。
「他には、何かありますか」
少しだけ踏み込んで聞く。
職員は小さく息を整えてから続けた。
「昔からの仕事でいうと、養蚕をやっている地区があります。規模は大きくないですが、続けている方はいますね」
その言葉に、意識が少しだけ前に出る。
「養蚕……ですか」
「ええ。このあたりだと、山木屋の方ですね」
そう言うと、職員はカウンター横に置かれていた紙の束から一枚を取り出した。町全体が簡単に載った案内図だった。
指で示された場所は、はっきりと山側だった。
「この辺りになります。詳しい場所までは載っていませんが……」
「ありがとうございます」
地図を受け取り、軽く頭を下げる。
それ以上は聞かなかった。聞ける空気でもなかった。
役場を出る。
外は相変わらず静かだった。
手元の地図に目を落とす。道は大まかにしか載っていないが、位置は把握できる。
山木屋。
昨日よりも、はっきりとした目的地になっていた。
私はしばらくその場に立ち、地図と周囲の景色を見比べる。
ここから先は、自分で探すしかない。
保証もない。受け入れられるかも分からない。
それでも、行く理由はもう十分にあった。
私は地図を折りたたみ、ポケットにしまう。
そして、山の方へ向かって歩き出した。




